自由にして良いとい言われたので。

「里菜さんはNGワードゲームってやったことある?」


 ん? とソファーでくつろいでいた聖里菜は撫子の方に視線を向ける。

 現在、高校二年生の妹、撫子がソファーの背の部分に手を置いて小首をかしげていた。


「NGワード? あるで。むっちゃ前に一度だけやけど」

「キーワードって書くじゃない? あれ、なんて書いたか覚えてる?」

「んー、なんやったかな。『億万長者』やったか『酒池肉林』やったかも知れんなぁ。どうしたんや」

「里菜さんって昔から本当にそんな感じだったんだね」

「我が道をいく里菜さんやで」

「尊敬、尊敬」

「そんな軽く流さんといてくれる?」

 聖里菜の軽い抗議を撫子は聞く耳を持たず、

「今日、部活のメンバーでNGワードゲームをやったの」と本題に戻る。


「青春っぽいやんか。好きな子の名前を書いちゃう子とかおらんかった?」

「好き? か、どうかは分かんないけど、光が私の名前を書いてた……」

 言って、撫子が顔を赤らめる。

 恥ずかしくなるなら言わなければ良いのにと聖里菜は呆れるが、可愛いことこの上ない。百点! と勝手に点数をつける。

「光くんは撫子にゾッコンなんやなぁ! 結婚式はいつやろか。着ていくドレス考えとかんとやな」

「そういうんじゃないからっ!」

 唇を尖らせる撫子をいつもなら、あと三ターンはからかうが聖里菜は話を進める。

「分かった分かった。それで、撫子はNGワードでなんてキーワードを書いたん?」


 聖里菜は自分がNGワードで書いたキーワードは『新しい出会い』だったことを思い出す。当時は本当に『新しい出会い』を求めていたのか、今となっては判然としない。

 ただ、一緒にNGワードをした男の子は好きな子が振り向くのを『待ってる』と本気で思って、そう書いていた。

 あの真っ直ぐさは数年が経過した今も鮮明に浮かんできて、少し胸が痛くなる。

 どうしようもなく哀れで、愚か。

 しかし、恋心はそういう危うさを孕んでいると聖里菜は今も当時も知っている。


「私が書いたキーワードを聞いても笑わない? 部活のみんなは笑うの」

 目の前にいる撫子は恋をしている。

 それが、哀れさや愚かさに導かれなければ良いと聖里菜は思う。

 ーー余計なお世話なのは重々承知やけどな。


「ええで。撫子の絶対的な味方のお姉ちゃん様は絶対に笑わんよ。約束」

 じゃあ、と形の良い唇を撫子は緩める。

邪王炎殺煉獄焦じゃおうえんさつれんごくしょう

 笑った。

「うははははははははははははは」

 それも大爆笑だった。

 撫子が顔を真っ赤にして、聖里菜の肩を小突いた。


 NGワードゲームはあくまでゲームだ。

 楽しむためにある。互いの腹をさぐりあうためにするものじゃない。


 ーーせやから、NGワードなんて好きな子の名前か、好きなマンガの必殺技にする方が健全やわな。


 聖里菜は数年前に共にNGワードをした二人の顔を思い浮かべる。

 あの場に撫子がいれば、もっと和やかに色んなものが終わったのだろう。

 NGワード以降、三人で集まることはなくなった。

 聖里菜に後悔があるわけではない。ただ、別の可能性があったのかとは考える。

 ーーうちも歳を取ったってことやな。


 聖里菜はスマートフォンで風鈴の名前を打ち込んでみる。

 風鈴の名前でヒットした中にニュースがあった。

 日付は半年ほど前だった。


『●●市で▲月□□日、同居している男性を殺害した疑いで28歳の女性が逮捕されました。


 殺人の疑いで逮捕されたのは、●●市◆◆町に住む自称シンガーソングライターの橋本風鈴(28)です。


 警察によりますと橋本容疑者は□□日に、「同居人を刺した」と110番通報があり事件が発覚しました。


 被害者男性は首と胸に幾度も刺されたあとがあり、病院に運ばれましたが、数時間後には息を引き取ったとのことです。


 橋本風鈴容疑者は調べに対し「(同居人に)自由にして良いとい言われたので刺した」などと話しているとのことです』

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想いのレト・ザ・ゲーム・ビギン 郷倉四季 @satokura05

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