雪に咲くあなたの花弁の、最後の散り時

深海かや

第1話

  雪が降ると、あなたは咲く。


 でもそれは、逆に言うと雪が降らなければあなたが咲かないことを意味します。時々思ってしまうのです。私は、虫なのかもしれないと。まだ蕾にすらなっていない植物の茎に止まりながら、いつか花開くと信じて待つ間抜けなみつばちか何かの虫のようだと。


 私は虫なんかじゃない。そう思いたくてこうして手紙を書き始めてはみましたが、やはり私は虫なのかもしれないと、書きながら一つ思い出したことがあります。夏でした。今年の、夏の事でした。もしかしたら同族嫌悪なのかもしれません。真夏の、今年の夏の、けたたましく鳴く蝉の産声がひどく耳障りで、一匹残らず雪に閉じ込められてしまえばいいのに。そう思ってしまいました。でも実際は、閉じ込められているのはこの私。四方は白い壁に囲まれ、そのちいさな部屋の中にはベッドが一つと鉄格子がはめられた小窓しかありません。ああ、これは何度もお手紙に書かせて頂いたことでしたね。すみません。


 似たような話を繰り返してしまうのは、私の病気の兆候が良くない証拠だと以前医師に言われていたことを思い出しました。その事自体を、こうして手紙に書かなければ思い出せない程に私の身体は良くないのかもしれません。部屋の小窓からぼんやりと外の景色を眺めている時、食事をしている時、いつも私の頭の中にはあなたがいて、あなたの事ばかりを考えています。


 私はもう、耐えられそうにありません。あなたとこうして手紙をやり取りするようになって十年になります。十年です。なのに、それなのに、あなたは雪が降った日にしか返事をくれない。季節は冬だけではありません。春や夏、それから秋も、私はどの季節もあなたからの返事を待ち続けているのです。


 昨日は雪が降ったと看護師の女性に聞きました。だからきっと、あなたは近い内に返事をくれる。そう思い、この手紙を書きました。いかがでしょう? 来春からはお互いに窓の向こうにみえる桜の美しさについてでも手紙のやり取りを始めてみませんか? お返事を楽しみに待っています。



真理亜

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雪に咲くあなたの花弁の、最後の散り時 深海かや @kaya_hukami

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