雪の結晶は、僕の心に突き刺さって、痛みをもたらす
品画十帆
第1話
僕がまだ小学五年生か、六年生の時に、〈雪の結晶〉を見る授業を受けた想い出がある。
五年か六年かも、怪しいくらいの
たぶん僕は、黒い手袋に落ちた〈雪の結晶〉を、ルーペで見ていてはずだ。
整った
〈雪の結晶〉の事は思うだけど、君の事は強烈に覚えている、今も
「ふふっ、指先がかじかむでしょう、私が暖めてあげるね」
君はそう言って、
でも僕は、その思いがけない
「ち、ちょっと、〈雪の結晶〉が、
君の頬が僕の頬に触れるくらいに、近づいていたから、ものすごく
女の子の柔らかそうな頬が、触れそうだったんだ、当時はさらに未熟な僕ではしょうがない。
他の子もいるのに、すごく恥ずかしくて、いたたまれなかったんだと思う。
僕はまだ全くの子供で、君に淡い恋心を抱いていたけど、それは日が
もう失くしてしまったけど、二人とも猫が出てくるファンタジー漫画が好きだったよね。
流行っては無かったから、他にそれを好きな人はいなかったね。
「ふーん、そう」
君は傷ついた顔になった後、他の子の所へ走っていってしまった。
勇気を出して行った行動を、僕が
その後、僕は〈雪の結晶〉に興味を失い、君の背中をずっと見ていた。
良心がチクリと痛み、それなのに、心が温かくなっていくのが分かった、君の
君が僕に好意を持ってくれていると、感じたからだ、でも僕は君へ何も、言葉すら返さなかった。
僕は君と、おしゃべりを楽しむ事や手を
そんな事を僕が出来るはずが無いと、頭から思い込んでいて、考えた事も無かった。
ただ君を遠くから時々見る事で、僕は充分満たされていた、勉強や男友達との関係で一杯一杯だったこともある。
君と付き合うなんて、高度な事は無理だ、僕はまだまだ幼かったんだと思う。
中学生になり、君に彼氏が出来たと噂を聞いてはいたが、たまに僕と君は、猫が出てくるファンタジーの話をしたよね。
アニメになったから、信じられ無いと、盛り上がったこともあったね。
君と一緒にそのアニメを、映画館で観たいと、僕はその時になって思った。
けどそれは、もう
自分でも今さらだと思う。
もっと君と話をしておけば良かった、あいさつだけじゃなく、廊下を歩く君に声をかければ良かったな。
僕は彼氏がいる人を、映画に誘ってはいけないと思っていたんだ。
そして、君は付き合っている人がいるのに、他の男子と映画を見るような子じゃないよね。
その時ようやく遅ればせながら、僕は後悔をした、君に彼氏が出来て、もう手の届かない存在になったと思ったからだ。
君を眼で追うのが苦痛になったけど、僕はそれがどうしても止められないんだ、不思議だし気持ち悪いよね、ごめん。
君は女子高だったから、僕は違う高校に進学した、当たり前だな。
当然、君と会うことは無くなった、少しずつ君は想い出に変わろうとしていたと思う。
だけどある日、
あれは僕がお母さんに
たぶん、お米を袋で買うから一緒に来いと言われたんだ、高校生にもなって、母親と買い物にスーパーに行くとは、本当に嫌になる。
知り合いに会いませんように、と祈っていたはずだ。
だけど、お母さんがレジを通るまで、休憩スペースで待っていた時に、突然君が前に座ってきたんだ。
君は髪を伸ばして、少しお化粧もしていたな、もう少女から女に変わろうとしていたと、僕は記憶している。
突然でもあるし、君が可愛くなっているから、僕はそれだけで、もう焦りに焦った状態だ。
頭が上手く回っていなったと思う、
「うわぁ、すごい偶然ね。 お母さんと買い物なんだ」
「うっ、米が重いからしょうがなくだよ」
「ふふーん、ずいぶんと親孝行だね。 偉いな」
「ちっ、君こそスーパで買い物しているのか」
「うーん、彼氏と別れたから、ヤケ食いの食糧を調達しに来たんだ。 ふふっ」
えぇー、どうして僕に彼氏と別れたって言うんだ、それになぜ笑う。
普通は悲しい事だろう。
あっ、そうか、強がっているんだな。
「そうか、辛いだろうな。 元気を出せよ。 きっとまた良い人が現れるよ」
「ふーん、どこに」
君の目が僕の目を見ているのが、分かった。
僕の心の中を、見ようとしている目だから、僕はもっと焦ってしまう、すでにパニックだ。
心の中を見られるのは、
恥ずかしいとも、少し違っている、怖いとも、少し違っている、自分でも良く分からない。
僕に勇気が無かったんだ、としか言いようが無い、告白して笑われるのが、堪らなく嫌だったんだろう。
君を好きだった思いを、綺麗なままで残しておきたかったんだと思う。
「どこって、未来だよ」
「へっ、今じゃないの。 意地悪だね。 えぇっと、運命がよ」
「あら、お友達なの」
変なタイミングでお母さんが現れて、君はお
僕はさっきの君の言葉を、心の中で
「ごめん、お邪魔だったみたいね。 追いかけないの」
僕は猛烈に恥かしくなってしまった、母親に好きな女の子を見られた事を、だ。
それとモゴモゴとした、情けない会話を聞かれたかも知れない。
「ただの友達なんだ」
友達は嘘じゃないが、友達以上になれる可能性も、あった人でもある。
母親の登場で気が抜けてしまったのか、僕は追いかける事が出来なかった。
追いかけなくても良い理由が出来たため、ホッとしている、ちっちゃい僕がいる。
ルーペで見なくては見えない、極小の〈雪の結晶〉に近い。
そして後になって、良く考えたら、あの時は告白をする必要が無いって事に、気がついてしまったんだ。
気がつかない方が良かった。
僕はものすごく後悔をして、三日くらい眠れない日が続いてしまった、あまりにも余裕が無さ過ぎだったな。
スーパーの休憩スペースで、告白するって異常だよ、僕は単なるバカだ。
あの時は、携帯の番号とかを交換して、話を聞いてあげるで、それで良かったんだ。
それか、気分転換で今上映しているアニメを見に行かないか、でも良かったと思う。
告白するのは、それらが少なくとも、何回か続いた後だろう。
彼女を持ったことがない、経験の浅さゆえの大失態だ。
いいや、友達としても良くない、せめてもっと親身に話を聞いてあげるべきだろう。
自分の気持ちしか考えていない、彼女が言ったように、僕は意地悪でどうしようもない男だ。
自己嫌悪で立ち直れそうにないな。
だけど僕はまだ
それは、年賀状を出すって事だ、なんてしょぼい手だと自分でも思う。
ドーンと君の家を訪ねて、この前の続きを話すなんて、とてもじゃないが出来ないんだ。
それが僕と言う人間なんだよ。
お正月が少し過ぎた頃に、君からの年賀状が届いた。
手書きで「元気をもらった」と書いてあったから、僕は有頂天で天にも昇る気持ちになってしまう。
それからも、僕と君は年賀状のやり取りだけで、
最近は年賀状を止める人も出てきているのに、どうして僕はそれ以上の行動を起こさなかったんだろう。
君の実家の住所は毎年書いていたから、見なくても書けるほど、覚えている。
僕はウジウジとした、本当に情けない男だ。
今年の年賀状には、花が咲いたような、君の写真が印刷されていた。
白いウエディングドレスを着た、君の満面の笑みが年賀状から
君は本当に幸せなんだろう、疑う事を許させないような、幸せな顔に思える。
僕はそれを見ても、新郎への
君が幸福になった事に
こんなダメな僕と、もし結婚をしたら、高い確率で不幸になっていただろう。
だから僕が、君との距離を
君のためになったと、
僕の心にずっと刺さっていた、
僕はもう後悔をしなくても
絶望はただするものだ、もう遅いのだから、何もしないでただ
― 完 ―
雪の結晶は、僕の心に突き刺さって、痛みをもたらす 品画十帆 @6347
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます