雪と滑り台とラーメンと、遭難
西しまこ
子どもの頃は大雪警報が楽しみだった
その日、僕たちの町に大雪が降った。
僕たちの町は基本的にあたたかで、雪はめったに降らない。だけど。大雪が降ったのだ!
「雪かきって、どうやってやるんだっけ?」
「シャベルあったかな?」
お父さんとお母さんは大変そうだけど、僕はすごくわくわくしていた。だって、雪だ! 生まれて初めて見た、空から降る、白くて冷たいもの。何もかもを覆い尽くしてしまう。
僕は弟と雪遊びをすることにした。
すると、お父さんとお母さんが出てきて、雪かきで集めた雪でかまくらを作ろうと言う。
「かまくらって何?」
「雪のおうちだよ」
雪のおうち! 僕も弟も、すごくわくわくした。
一生懸命雪を集めて、大きな山にした。
だけど、そこまでだった。大きな雪山を作ったら、お父さんもお母さんも疲れてしまった。しかも、僕たちの目には大きな雪山だったけれど、「かまくらにするには足りないわ、たぶん」とお母さんは言っていた。
「じゃあ、この雪山を滑り台にしましょう」とお母さんが言い、お尻に敷いて滑る道具を持って来てくれた。僕と弟は何度も雪山の滑り台を滑った。楽しい!
お昼どきになって、みんなお腹が空いてきた。
何しろ、雪が降らない地域での雪である。大人は雪かきで大変だし、子どもは遊ぶので大変なのだ!
「ねえ、いつも行列になっている、あのラーメン屋さんに行かない?」
お父さんが言った。
「いいわね! 雪だから、人もいないわよね? 行きましょう!」
お母さんが目を輝かせて賛成し、みんなで出かけることになった。お着換えをして、あたたかい恰好で。
いつも走って行く道に雪がいっぱい積もっていた。ざくざくと踏みながら歩いた。すると、また空から雪が降ってきて、しかも結構たくさん降って来て、僕たちは手をつないで雪の中で迷子にならないようにして歩いた。
ところが、事件が起こった! 弟がいなくなったのだ!
「すーくん、どこ?」
お母さんが慌てた声で言った。
僕は焦った。こんな家の近くで弟が遭難してしまうなんて!
「すーくん、雪に埋もれてた」
お父さんが弟を抱えて歩いて来て、みんなほっとして笑った。
徒歩八分くらいの場所に、三十分くらいかけて辿り着いた。遭難しそうになりながら。
ラーメン屋さんはがらがらかと思いきや、意外に人が入っていて、僕たちが入ったら狭い店内はいっぱいになった。高い椅子に座り、僕たちはラーメンを注文した。
いりこ出汁の香りがふわっと漂い、食べるといりこのおいしい味がする、醤油ラーメンだった。麺においしいスープが絡みついた。僕ははふはふ言いながら、一生懸命食べた。
雪を見るたびに、思い出す。
雪山の滑り台と、おいしいいりこ出汁のラーメンと、それから弟の遭難を。
「今年は雪が降るかな?」
おしまい
雪と滑り台とラーメンと、遭難 西しまこ @nishi-shima
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