第2話 (下)

新年は誰にでも平等に訪れる。


押し寄せるお客さんで夢中になってお料理を運んでいるウェイトレスにも。


ご先祖の神様に新年の幸運と安寧を祈っている戦士にも。


そして、略奪してきたお宝や乙女たちを置いて大金を稼ぐつもりで嬉しそうに笑っている盗賊たちにも。


バレンブルクから東、馬で4時間ほどの距離にある白樺の森の中。そこに本拠を置いている盗賊団は、新年が明け次第、国境に向かって乙女たちと盗品を売り渡すことを考えるだけでも、もうすっかり大いに浮かれていた。


少し前までは。だが…


「燃えつけろ、 シンギジョン신기전(神機箭)」


風になびく黒檀のようなロングストレートの髪の間から、真冬の吹雪よりも冷たい眼光を放つ美女が、ショートボウの弦を力いっぱい引いた。


ボウから発射されたのは、たった一発の矢。


稲妻のように空を飛んでいた矢は、しかしまるで散弾のように数百のクラスターになって盗賊の本拠地の上に火の洗礼を与えた。


多連装ロケットの弾頭のように降り注ぐ火球たちは、盗賊団の建物に乗せられている古くて汚い藁葺き屋根を素敵な花火が燃え上がる屋根にリフォームしてくれた。


「て、敵襲! 敵襲だ!」


「全員出てきて応戦··· クアアッ!」


甘い眠りから飛び出して叫んでいた盗賊一人が、今度は光の矢マジックミサイルに撃たれて気絶し、そのまま二度寝してしまった。


「二度寝は甘いわ。三度寝はないだろうけど。」


火矢に続く光の矢の波状攻撃に、盗賊団の本拠地はあっという間に大混乱に陥った。


「ミ、ミルだ! 『殺さない死神』ミルがやってきたぞ!」


「バカども!逃げるな! びびるな!ミルが来たなら死にはしないぞ!」


しかし、頭領が浴びせる罵声と指示にもかかわらず、すでにパニックに陥った盗賊たちは、それぞれ手にできるだけのお宝と武器だけを持って、本拠地を抜け出した。


彼らにとって討伐は初めてのことではない。


耐えられない攻撃を受けたら、独特な盗賊特有の非組織性と非団結力に頼ってバラバラになり、適当な時に再び集まればそれで良い。 そんなつもりで森の中に逃げた盗賊たちは……


「クアアッ!」


しかし、今回だけは違った。肩の上に約3尺の滑らかで細身のバット(そう、あの野球バットだ)を乗せて現れたホウジと彼が率いる警備隊が盗賊たちを歓迎してくれた。


「明けましておめでとう。 今年もよろしくな。」


「あ、あの……奇怪なメイスは!」


「メイスのファントム、ホウジだ!」


「…… バットだぞ! バット!この野郎ども! メイスとは違うんだよ!」


雪がうず高く積もった森を駆け抜けてきた盗賊たちは、すね、肋骨、みぞおちなどを殴られ、そのまま気絶したり、あるいは痛みの中で呻いた。ホウジは素早く正確に敵の急所だけをバットで狙って殴り、相手を沈黙させた。


ファントムという異名にふさわしく、神出鬼没にバットを振り回すホウジの横に、あっという間に3,4人の盗賊が骨を折れたり頭を抱えたまま倒れていった。


「クッ!」


みぞおちを穿るような深い一突きで気絶した仲間を見て、ある盗賊が歯ぎしりしながら短剣を取り出した。すぐにでもホウジを切り裂く勢いで凶暴に刃を握った盗賊は、しかし……


「ハッピーニューイヤーだぞ、シバル씨발セッキ새끼ドラ들아。(このクソ野郎どもめ)」


盗賊の後ろに細い、しかし鋭い一閃が引かれた。 そして一拍遅れて、奴は足から血を噴き出しながら倒れた。


何が起こったのかさえ分からないまま、盗賊は真っ白な雪を赤く染めながら呻いた。奴が倒れたその場には真っ黒に塗られた偽装クリームの間から眼光だけが炯々と輝いているジヌが立っていた。


彼の手に握られたのは一本の野戦シャベル。鋭く研ぎ澄まされたシャベルのエッジからは、非反射処理でも抑えきれない殺気が漏れていた。


「助かったな?エール一杯奢れよ、ホウジ?」


変化球スイーパー。」


今度は拳サイズの火の玉が威張って立ってるジヌの傍をもの凄まじいスピードで通り過ぎた。渦巻きのように曲がって突っ込んだ火の玉は、そのままジヌの背後から彼を襲撃しようとした盗賊を命中させた。


爆音と共に反対側に飛ばされてしまった盗賊を呆れた目で眺めていたジヌが振り返ると、そこにはホウジがちょうど投球を終えたばかりのフォロースルー姿勢でにっこり笑っていた。


「助かりました?エール一杯返しましたよ。 ジヌさん。」







ㄹㄹㄹㄹㄹㄹ







部下たちが皆倒れたり、あるいは逃げ出してしまって空っぽになった本拠地で、盗賊の頭領は倒れ込んですすり泣いていた。燃え盛る藁葺き屋根の炎に照らされて頭領のはげ頭が明るく輝いた。


その中で特に猛烈に燃えていた建物が結局、轟音を立てて崩れ落ちた。その音を聞いた頭領の心の中でも何か大切なものが一緒に崩れ落ちた。熱い涙もほおを伝ってとめどなく流れ落ちた。


今まで乗り越えてきた苦難討伐克服逃走


仲間子分たちと共に命をがけた激しい冒険略奪


新しく結んだ大切な縁拉致とかけがえのない宝物盗品


それが全部燃え尽きようとしていた。全てが灰になってしまう!


怒りと無力感で震えている頭領の後ろに、昔話の中に出てくる魔王の三騎士のような3人の影が浮かび上がった。それぞれバットと野戦ショベル、そしてショートボウを手にして近づいてきたホウジとジヌ、そしてミルに向かって頭領は血を吐くように叫んだ。


「この、血も涙もない鬼畜ども! 人質がいるあの離れ屋まで丸ごと焼き払うとは!貴様らがそれでも!人の子ひとのこなのか!」


「……だそうですが、ジヌさん?」


「はぁ…… 俺がクソ異世界まで来て盗賊野郎にこんなことを言われるとはな。」


ジヌは今もまだ燃え盛る離れ屋に近づいた。しっかりと施錠された鉄剤ロックを野戦ショベルで叩きつけて簡単に壊したジヌはまるでトイレのドアを開けるように何気なく離れ屋のドアを開けた。 そして現れたのは…


「ジャーン!メリークリスマス!」


ノラにサンタクロースを名乗ていた短髪の少女だった。


炎が燃え上がり続ける離れ屋を後ろにして一歩、一歩、歩いてきた少女は、皆に向かって清らかで明るく笑った。もちろん、その笑顔が頭領にはこの世のものとは思えないほど恐ろしく見えたのは言うまでもなかった。


「クリスマスはもうとっくに過ぎたぞ、沙也さや。」


「えぇ、法次ホウジにはロマンがないよ。」


「そうです。少女は心が輝いたらそれがいつでもクリスマスですわ。」


「そんな涼しい顔でロマンに満ちたこと言わないでよ、ミル…」


「貴様ら!わけのわかんないことを言ってんじゃね!それより戦利品! わしの戦利品は全部どこに行ったんだあぁぁぁ!」


頭領の絶望に満ちた悲鳴が冬の森に響き渡った。皆がそのエコーに感心しているうちに、ジヌはぷっと、と嘲笑った。


「戦利品だってよ、略奪品だろう。盗賊のくせに。」


「あは、お嬢さんたちなら皆無事に家まで帰しましたよ。」


「えっ…」


無邪気な沙也の親切な説明に最後の希望さえ砕けた頭領は、ブチ切れてしまって喚き散した。


「な、何だ! いったい何なんだよ!貴っ様らはいったいどこから現れた馬の骨かよ!」


「私たち?」


「どこからって聞かれたら、ね?」


4人は微妙な微笑でお互いを見つめた。


「私たちは…」 / 「ウリドルン우리들은…」

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『暁と黄昏のアライアンス』ー 短編 恵一津王 @invincible_rain

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