『暁と黄昏のアライアンス』ー 短編
恵一津王
第1話 (上)
きらきら光る
お空の星よ
瞬きしては
みんなを見てる
歌の歌詞通りにきらきら輝く星々が、息を呑むほどいっぱい満ちている冬の夜空だった。
「あ、もう。ジヌさん。 歌の途中で横取りするの辞めてってば。」
「『きらきら星』が、あんたらだけの歌でもないじゃん?そして先生は結構好きだったぞ。」
「そりゃ、まぁ…先生はそうだろうけど。」
鬱蒼とした森が見下ろせる、雪が積もった低い丘の上に、2人の男がいた。
冬の真っ最中なので、二人がくだらないことを言い合うたびに白い息が立ち込めた。山の寒さに備えたのか、二人とも両腕と両足を厚い毛皮のウォーマーでしっかりと包んでいた。
二人を見分けるのは難しくはなかった。
深緑のマントをまとった、ジヌと呼ばれた男は、20歳を過ぎて何年経っていないような青年だった。彼は片手に持っているポーチから、その中身をもう一方の手で用心深く顔に塗っていた。
手が通るたびに、彼の顔には黒くて厚い線が描かれた。
「墨を塗るそれ、しなきゃいけないんですか?」
「ホウジ、お前は武器に必ず非反射処理をしているくせに、顔はしないのかよ? 顔も私より真っ白なのに。」
ジヌの言葉通り、ホウジと呼ばれたもう一人の男は、冬の月明かりに比べられるほど真っ白な顔をした10代の少年だった。真っ黒なマントをまとった彼の顔は、まるで夜空に浮かぶ満月のように見えた。
「それを塗ったら任務終わって後片付けが大変なんですよ。 なかなか消えもしないし。」
「そう簡単に消えたら、それが偽装クリームかよ、BBクリームかよ? これだから
(⋆未畢:兵役の義務を終えていない人のこと)
「えぇ、グンバリ臭い。」
(⋆グンバリ:韓国で軍人を下げて呼ぶ言葉)
「おい、誰がそんな言葉教えたんだよ!ミルだろう!」
いたずらっぽくわき腹を突いてくるジヌの肘をクスクスく笑いながら避けたホウジは口元に手を持っていった。
- カチッ
留め具がかみ合う心地よい音とともに、ホウジの口元には、彼のマントのように真っ黒なマスクが着用された。 その姿はマスク、っていうよりまるで侍の面具のような物であった。
「私にはこれがありますから。」
「えぇ、俺はそれつけると息苦しい。匂いもよくないし。」
「それってジヌさんの口臭ですよ。」
「黙れ、こら。」
ジヌは顔を上げて空を見た。
正北の空を中心に回る大鍋座。その大鍋座の蓋にあたる星が上を向いているのを見ると、もうすぐ真夜中になりそうだった。
『どうしてまだ連絡がないんだろう。』とそろそろ焦り気味でつぶやいたジヌの目元に冷たい雫が落ちた。
「ジヌさん、もしかして泣いてますか?」
「誰が泣くかよ!くそ。雪だ。 また雪が降ってる。」
ジヌは深いため息を吐いた。
真っ白な吐息が長い尻尾を引き連れ、冬の夜の冷たい闇に散っていく。厚い防寒具でしっかり重装備を整ったつもりだったが、もう何時間も火なしで待機しているから寒いのは仕方がなかった。
「よりによって
「仕方ありません。 責めるなら、このタイミングで尻尾をつかまれた奴らを責めるしかないですよ。」
「サヤからはまだ連絡ないのかい?」
「はい…あ、ちょっと待ってください。」
ホウジは耳元に手を当ててしばらくぼっとしていた。通信を聞いているのだ。どこからか掛かってきた、魔法を使った通信がホウジにメッセージを伝えているはずた。
「『既読』。うん、うん。わかったよ、サヤ。 すぐに準備するよ。 ジヌさん、もうすぐ始まるそうです。」
「…『
日本ではない、異世界だからですよ。
答えの代わりに、ホウジはクスクス笑った。 おそらく、ジヌはどうしても分からないだろう。『 既読』 という二文字の単語の中に、元の世界への私たちの懐かしさと、切なさ、そして悲しみがどれだけ込められているのかを。
ホウジは懐から『熱』の呪文が描かれたスクロールを取り出し、迷いなく引き裂いた。物凄い熱気が必要なわけではないから、大した始動語が必要なわけでもない。
引き裂かれたスクロールからは、ちょうどカイロ程度の熱が発して、真冬の夜の寒さに凍ってた手をあっという間に溶かしてくれた。 これくらいなら今から始まる任務の遂行に問題はないだろう。
同じようにスクロールを引き裂きながら、体を回して森に向かってジヌは叫んだ。
「行くぞ、お前ら。」
彼の大声に反応して、暗闇の中から様々な音が聞こえてきた。
ガサガサと体を動かす音。
ホウジと同じようにスクロールを裂く音。
兵器の準備を整える冷たい鉄の音。
そして男たちの音……のない乱暴な微笑み。
徹底的に武器には非反射処理を終え、顔にも偽装クリームやマスクをつけた男たちが森のあちこちから殺気を吐き出し始めた。
家族と暖かい新年を迎えようとしていたところに呼び出され、深夜の出動をしなければならなかった男たち。彼らの静かな怒りがちゃんと込められた目つきだけが、闇に包まれた森の中でひたすら不気味に輝いていた。
ㄹㄹㄹㄹㄹㄹ
辺境であるバレンブルク州内でも人里離れた村、ハナムガルトで一番の美女を挙げるとしたら、10人の中で9人は「ノラ・ベニントン」の名前を言うだろう。 (残りの1人は自分で名前を名乗るのが恥ずかしかったノラ本人だろう。)
だが、今は盗賊団の離れ屋に閉じ込められ、どんな目に遭うことになるか、ただひたすら待つだけの身になってしまった。
新年の初枝で取った
「しく...しく...しくぅ...」
離れ屋にはノラだけでなく、数人の若い乙女たちが閉じ込められていた。ハナムガルトだけでなく、近隣の村からも捕まってきたのか、その中には村外の行事で見た人もいくつかいた。
「盗賊が私たちを連邦に売るらしいわ。」
「顔が可愛い乙女は盗賊の親分が取り、残りは変態の成金に売り払うんだって。」
「魔法使いたちがドラゴンに生贄として捧げる美女を必要として、あの北にある帝国に売り飛ばすらしい。」
田舎娘たちの足りない想像力で作り出したのとしては褒めたいほどバライエティなストーリーラインだったが、終いがいつも「売ってしまう」という結末が残念だった。
「いったいどうなるんだろう…」
ノラは膝の間に顔を埋めた。その時。
「メリークリスマス!」
「きゃああああああああ!」
「シーッ!」
いつの間にか離れ屋の片隅には大きな穴が開いていた。 それも人が通るほど大きな穴が。 [あそこにあんな穴があったっけ?] そしてその穴の向こうから短髪の少女がこちらに向かって手を振っていた。
「ほら、こっちへ。静かに、大きな声を出さないで。」
閉じ込められていた乙女たちは、ちょっとお互いを見つめ合い、すぐ誰もなく穴に向かって走り出した。一人ずつ順番に穴を通って向こう側へ消え去って、最後に残ったノラに、短髪の少女が手を差し伸べた。
「ほら、あなたも早く、どうぞ。」
ノラは一瞬ためらった。
この少女も盗賊たちと組んでいるのかな、それとももっと危険な誰かではないのかな。
しかし、先ほど乙女たちがひそひそ話していたあらゆる奇怪な噂を思い出した。あの少女が誰であろうと、少なくとも訳の分からないところに売られるよりはましだと思った。
「あなたは…誰?」
ノラは少女の手を握りながら尋ねた。
少女は一瞬びっくりしたようだったが、すぐににっこり笑った。
「私は、サ…『サンタクロース』だよ」
「????」
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