貧乏奴隷に異世界転生したらマフィアになった件ロングversion

ラッパ吹きのラッパー

エピローグ

 旧ゲルカニア王国の首都ベンドンの豪華絢爛な家に5人の男達が円卓を囲む様にして談合を行っている。それはこの世界における5大陸を裏から牛耳る5つのギャングファミリーの会議、通称“コミッション”と呼ばれるものであった。


 この中で一番年齢が高い人物であり、北方の大陸“スカルディナービア”を根城とするギャングのボス、“アリオンは”エルフで、先程も述べた通りこの会議では最年長でいて、いつも会議で興奮した他のボスを諫める司会の様な役割をしていた。

「ムクウェネ、ガウル、2人共に落ち着け、今の議題は互いの失敗の原因を押し付ける事ではないぞ」

 アリオンがそう諫めると、


 南方の大陸にあるアフリカ系ギャング、“コンプトン”のボス“ムクウェネ”と

 その大陸に隣接する大陸――陸続きではあるがこの世界の定義では別の大陸――にあるエルフとドワーフを除外した“亜人”大陸を自分のシマとしているギャングのボス“ガウル”はお互いの非を認めた様に苦笑いをするが、目は笑っていない。


 そして東方にあるアジア人の大陸、東亜大陸を一応自分達の中央拠点ということにしてはいるが、5大陸全てに拠点を持つ最大規模のギャング、“青龍幇”のボス、名前は“リー”という渾名で呼ばれる事しか分かっていなかった。


 この談合には年齢で一応の役割や言葉遣いは変わるが、立場や地位としては同じギャングのボスとして、そこに上下関係はない。それは上座下座の概念がない円卓で会議を行っている事からも推測できる。

 が、このコミッション開催者の男はこの5人のギャングのボスの中で、自分が紛れもなく一番の権力を持っているという事を知っていた。またそれは他の4人も理解している事だった。


 彼はゆっくりと口を開け、言葉を慎重に紡ぐ。その言葉は優しくもあり、だが威厳あるものでもあった。


「では、今年の賭博と売春で得た利益は我々、“コーサ・ノストーリ”が7割、売春の人的資源を斡旋してくれた青龍幇が2割、エルフ殿は宗教上賭博や売春で得た利益を受け取る事は戒律に違反するでしょうし、“魔法麻薬”での稼ぎもある。そしてムクウェネとガウル君は賭博や風俗店の警備について揉めていて、今回の件で我々に損害を与えている。よって君たちは合わせて1割だ。意義はあるか?」


 彼がそういうと、2人は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも肯定の意を示し、1人は最年長の者としての風格を纏わせながら、微笑みを彼に返し、もう1人は何を考えているのか分からないような不気味な笑みを浮かべながらも、彼に問いを投げかけた。


「今回の件で我々青龍幇がガウル君達に任された警備の仕事を担当しました。ですのでその1割は青龍幇に渡すのが筋ではないですか?」リーがそう言うと、ガウルが紛糾する。


「オレが獣人だからってバカにしやがって! 気づかないとでも思ったのか! オレ達にも秘密警察がいる、今回の件オレ達の警備隊輸送船とムクウェネの警備隊輸送船がぶつかったのは! てめぇのっ! 「ガウル」


 そう言ったところで彼が仲裁に入る。

「リー、俺たちは仲間だ。助け合わなくちゃいけない、そうだろう」彼がそう言うとリーは表情一つ変えず言う、

「ええ、そうですね。ではガウル君達には次の仕事での活躍を期待しましょう」


「ああ、そうだな。ムクウェネ、ガウル」

 そう言うと2人は元気良く「はい!」と答えた。

 アリオンが「では次の議題に移りましょう」と最年長としての役割を果たし、会議は続いていく。


 そして3時間が経つ頃にはコミッションは終了した。


 コミッションの開催者であり、コーサ・ノストーリのボス、“ルカ・ヴィットーリオ”はコミッション開催地のすぐ隣にあるホテルの一室にて休憩を取っていた。そうすると部屋のドアにノックがされる。

 ルカは部下がコミッション終了の確認に来たのだと思い「入れ」と言ったが、部屋の中に入ってきたのはルカにとって思いがけない人物であった。


 それはコーサ・ノストーリの〈相談役〉、別名コンシリエーレと呼ばれる者の妻、ミシェルであった。


「ミシェル、どうしたんだ? 君が来るなんて。教えてくれたらスイートルームを用意させたのに」ルカが本心からそう言うと、

「ごめんなさいね、ルカ。でも急ぎの用事だったんだもの。仕方ないわ」

 ミシェルがそう言うと、ルカは先程ミシェルに見せた爽やかな笑顔からギャングのボスとしての冷酷な顔に変える。


「“あの方”からか?」

 ルカがそう言うと、ミシェルは頷き、ルカに手紙を渡す。そうするとそこに書かれていたものは、コミッションでも話された、ガウルとムクウェネの警備隊輸送船の衝突についての内容だった。


 要約すると、

 ・船の衝突の原因は東亜大陸の呪術師によるもの

 ・刻印呪術を船に刻むか、御札を直接貼り発動する術なため、船の整備士か、乗船したものにスパイがいるか、呪術師が直接船に入ったかのいずれか

 ・呪術師の名前は周龍明であり、似たような呪術による事件を昔、青龍幇は敵対ギャングに対して行ったこと

 であった。


 その内容を読んでルカは笑う。

「フフ、“アイツ”、一足遅かったな」

 そう言うと、ミシェルは怒った様な顔をする。

「私はその手紙の内容は知っているし、あなたが会議の後、ガウルから今の手紙の内容と全く同じ事を聞いた事も知っているわ、だけど手紙を渡す事が私の仕事。だからそれを知っていても手紙を渡す事は仕方の無い事でしょう?渡さなかったら私が怒られるもの。でも私の事はいいわ、ルカ、あなた流石にこんな場所であの人を“アイツ”呼ばわりしたらまずいんじゃないの?」

 とミシェルは一見、意味がわからない事を言う。

 何故ならここで言う“アイツ”は〈相談役〉、つまりミシェルの夫であり、コーサ・ノストーリのボスであるルカよりも地位が一つ下の相手だ。“アイツ”呼ばわりしても問題は無いように思われる。

 だがルカは本心から謝罪の気持ちを込め、こう言った。


「いや、すまない。この場に部下がいたら、大変な事になっていた。だが今は君と二人きりなんだ、許してくれ。“アイツ”、ああ、俺は“あの方”と付き合いが長いんだ」

 ミシェルはその言葉を聞いてニッコリと笑って許した意を示し、ルカに別れの言葉を告げて部屋を出ていった。


 彼女が部屋を出るとルカはゆっくりとソファーに座り、目を閉じてこう言う。


「『“マフィア”のボスに私はダメだ』か」

 そう言いながら彼は自分の過去を思い出していく。




 コーサ・ノストーリが誕生した日、ある二人の男が会話をしていた。1人はルカ・ヴィットーリオ、そしてもう1人は――


「ルカ、君はギャングとマフィアの違いを知っているか?」

 現在、コーサ・ノストーリの〈相談役〉となっている男―ルカは彼の本名を知らない―が尋ねると、ルカは答える。


「当然だ、ギャングは俺たちみたいな反社会組織全体の事、そしてマフィアはそのギャングの中でも俺の様な一部の地域のラテン系白人、確か…お前等の世界・・・・・・では、イタリアって国の中でもシチリア島で産まれた奴やそのシチリア島をシマとするギャングの事を指すんだろ?」

 ルカの回答を褒めるように、だが生徒の惜しいケアレスミスに嫌々バツをつける教師の様な顔で、〈相談役〉の『男』は答える。


「半分正解だ、確かにシチリア島のギャング、またはシチリア出身の、そしてイタリア系ギャングもマフィアと言われることもあるんだが、正解には一歩届かない。

 “マフィア”とは国際犯罪組織の意味、そして国際犯罪シンジケートを表す、つまり世界を支配するギャング・・・・・・・・・・・の事だ」

『男』はそう答え、ニヤリと笑った。




『最後に言っておくが見ての通り私はラテン系では無く、ゲルマン系の白人だ。だとすれば、君が言った通りラテン系白人のギャングであるマフィアで私がボスになるのはまずい、だから私は〈相談役〉として形の上ではルカ、君の部下になる。君はボスだ。だけれども、それが形式としてのボスだと云うことを君が忘れたらどうなるか、わかっているな?』コーサ・ノストーリの誕生記念パーティの後、彼が別れ際に言ったその言葉は、ルカの頭に一生こびりついていた。




 ある夜、東亜大陸の中央にある繁華街、その中で一際異彩をはなっている家がある。それは近隣住民の噂ではとある反社会組織のボスが隠れ家として使っているから、とのことだった。そのため繁華街のど真ん中に存在する家なのにもかかわらず、そこは閑散としていた。だからこそ・・・・・と言うべきか、それとも人の行き来があればもう少し早く発見出来た・・・・・と言うべきだろうかは人によって違う意見を持つだろう。だが現実、その家から死体が発見されたのは、死亡推定時刻のおよそ72時間後、つまり3日後であった。

 死亡した人間の名は、“周蒼龍”、青龍幇のボスの名前であり、先日呪殺の容疑で逮捕され、裁判をする間もなくその1週間後に獄中にて謎の死を遂げた呪術師、周龍明の兄だった。




 ボスの死体が発見されて1ヶ月後、青龍幇の本部で、一人の男が他の同僚や部下に怒鳴り声を挙げている。その男は青龍幇の幹部であり、親との縁を切り、ボスに忠誠を誓った、根っからのヤクザ者であった。


「オメェらはおかしいと思わねえのかよ! 、ボスの後継者が代々青龍幇の後継者を輩出してきた正統な血統である周家からではなく、穏健派のクソ一族、岳家からなんて、どう考えても敵対組織の工作じゃないか!!」と幹部が言うと、他の幹部は彼に質問する。

「おいおい、工作だなんて物騒な事言いやがって。しかも敵対組織と言ったって、俺達は東亜大陸最強のギャングだ、そりゃ沢山のギャングや堅気を敵に回しているさ、候補があり過ぎやしないか?」と言うと彼はよりヒートアップしてその幹部を殴り倒した。

「馬鹿野郎!! そんなのコーサ・ノストーリのクソホワイト共に決まってる! 、俺達青龍幇の“ボス後継者選定会議”に対し工作が行える組織なんてコーサ・ノストーリ位しかねえだろうが!!」

 殴られた幹部はボソボソと言い返す


「うるせぇなあ、バカはそっちだろ、第一、ボスが死んだ時点でコーサ・ノストーリから攻められてもおかしく無かったのに、それどころかコーサ・ノストーリと仲が良い岳家からボスを選んだってことは俺達青龍幇と親睦を深めるというのがコーサ・ノストーリの意向と見て良い訳だ、世界最強のマフィアが新たなボスを認めている様なもんじゃねえか。次に後継者選定会議を話題に出すなら、もしコーサ・ノストーリが会議に介入していなかったら後継者争いで他のギャングから攻められるどころか、三大派閥で組織の内側から抗争が起きたかもしれねぇんだ」

 そう言われると、殴った方の幹部は先程までの剣幕と勢いはどこにいったのやらという様子で黙ってしまい、席に座った。


 実際、殴られた方の幹部の言う通りで、青龍幇は組織内部で幾つか派閥があり、それらは敵対してこそいなかったが、それはボスである周蒼龍のカリスマ性のためであり、彼が死んだ今、それらの派閥が敵対しない理由は無かった。その三大派閥は、一つは最大の派閥であり代々後継者を出してきた正統な血統である周家だ。意外かもしれないが、殴られた方の幹部もこの派閥に属している。次に大きい派閥は“幹部派”だ。これは名前の通り、血筋で後継者を決めるのではなく、幹部の中から実力・・で後継者を決めようとする派閥であり、ボスが死んでから勢いづいていた。そして一番人気が無い派閥に“岳家派閥”があった。岳家は代々、コーサ・ノストーリや他の交流のあるギャングに自分の子供を送り、他の組織のノウハウを学び、逆に子供を送った組織には絶対に義理を立てる、そのような一族であり、今回ボスに選ばれた岳家の当主も、若い頃コーサ・ノストーリにて幹部の秘書を務めていた。周蒼龍の死後、各派閥によって争いが起こるであろう今、そのような背景もあって、コーサ・ノストーリが後継者選定会議に工作し、間接的にではあるが岳家の当主をボスの座に指名したのは青龍幇全体にとって悪い事ばかりではなかったのだ。


 だがプライドやメンツを気にする一部の幹部――主にそれは幹部派閥――はこの決定に反対であり、また同僚を殴った幹部、“洪龍民”もその1人であった。


「そんな事は解っている。だが、そのボスを殺したのもコーサ・ノストーリの連中の仕業じゃねえか、俺はやっぱ納得出来ねぇよ、ボス…俺、どうしたら良いんだ…?」


 青龍幇は新たなボスの元、新体制が始まったがそれは誰が見ても、ボス自身が見ても、前途多難な事は明白な事実だった。




「ルカ先生、此度の一件にまつわる全てに感謝します。」

 新たな青龍幇のボス、“岳亮飛”はコーサ・ノストーリの本部にて、東亜大陸の茶畑から採れた最高級の茶をルカが飲むコップに注ぐ。


「すまないな、この部屋には君達アジア人が使う『湯呑み』は無いんだ」

 ルカはそう言うが全く悪びれていない様子で岳亮飛もそれを全く気にせず「気にしないでください」と言う。


「ルカ先生、して、どの様な御要件で? 私が先生方のお陰で青龍幇のボスに就任することが出来た件であれば、呼ばれずとも、私自ら感謝とコーサ・ノストーリへの忠誠を誓う為、赴きましたが」

 そう言い、岳はルカの右手をチラッと見た。ルカは椅子から立ち上がり、岳の隣へと歩く、岳はアジア人ながら高身長で195cm以上の身長を持っており、ルカが185cmな為、必然的に岳がルカを見下ろす様になるが、ルカ・ヴィットーリオのマフィアとしての風格やオーラと呼ばれる物のお陰なのかは解らないが、傍から二人の関係性を知らない人物がこの二人を見ても、

 どちらが“格上”の人物か理解できただろう。ルカは右手を差し出し、岳はしゃがんでルカの右手に口づけした。それはマフィアにおける忠誠の証だった。




「いや、岳くん。君を呼んだのは他の理由でね。君は“ビトー”を知っているかな?」

 ルカがそう尋ねると、岳は「もちろん」と言い、


「コーサ・ノストーリにおける〈相談役〉のビトーさんですよね。ビトーさんに何かあったんですか?」今度は岳がルカに聞く、だがルカは答えなかった。


 …30秒程度の沈黙があった後、ルカがゆっくりと口を開く。


「これはギャングのボスとなり、コミッションに参加する資格がある者だけに知らされる事だ。いいね?」

 ルカは質問には答えず、ただそう言う。何故彼が黙ったのかと言えば、ルカがビトーの名前を出した際に、岳がどんな反応をするのかを伺っていたのだ。また、その反応から“この事実”について、岳がコーサ・ノストーリの幹部の秘書を務めていた際に知ってしまっていないかを確認していた。ルカは岳がこの事実について何も知らないという確証が出来るまでの時間が30秒だった。


 岳は今からどんな事を言われるのだろうかという緊張感を持っていた。これもルカが仕込んだものであり、沈黙は確認のためでもあったが、会話の途中で黙る事はとある20世紀の独裁者も自身のスピーチにて多用していたれっきとした心理作用の一種だった。岳はルカにそう尋ねられ、「はい」と答える。ルカはそれに安心したような笑みを見せ、言った。


「コーサ・ノストーリのボスは私ではない。ビトーが本当のボスだ。」





 ルカは5大ファミリーのボスが変わる度に行う“恒例行事”を終え、岳が退室した後、ソファーに座りタバコを吸う。そうすると部屋にノックがかかる。ルカは今度は誰がノックしたのか分かった。


「やぁ、ルカ。久しぶりだね、調子はどう?」ノックをした人物がそう話しかけると、

「ビトー、久しぶりだな。お陰様でボスは板についてきたよ。そっちこそ調子はどうなんだ?」


 ノックをした主は、コーサ・ノストーリの〈相談役〉、ビトーであった。



 ――「それでこの間、アリオンの所で魔法麻薬の新薬を見せてもらってきたんだ」、

「そうなのか、そりゃあすげえな。」

 そんな事を話している内に時計の針は深夜を指している。ルカは、


「今夜はもう遅い、また今度話をしよう」そう言うとビトーも「そうだな」と言って背を向け、退室するために扉に近づくと思いきや、むしろルカに近づき、ルカにキスをする。

 ルカが驚いた様な顔をすると、ビトーは「ただの挨拶だよ」と言いルカに背を向け、部屋を出ていった。

 ルカの額に浮かび上がった汗が、まるでワイングラスに映る結露のように赤く見えていた。耳鳴りが激しく、心臓が鼓膜を叩いているようだった。ルカの視界は狭まり、目の前の鏡に写っている男の顔がゆがんで見えたのだった。




 時間は戻り、先ほどの二人の会話でも出てきた、アリオンがボスを務めるギャングの本部にビトーは居た。


Capo dei capiボスの中のボス、我々の本部に御身自ら来てくださった事、感謝します」

 アリオンがビトーの右手に口づけする。


「いやいや、構わない。それで、ルカではなく私を直接呼んだのはどういう意図なのか、教えてほしい」


「はい、ビトー先生にお見せしたい物がございます」

アリオンはそう言うと部下に“巻物”を用意させる。

 それはスクロールと呼ばれる、魔法を使う際の術式を書いておく一種の本だった。ビトーは尋ねる、


「アリオン、この中身は一体何だ?」


「これは、我々の術師がおよそ100年かけ作り出した、最高の魔法麻薬です。これ以上の術式は作れません」

 アリオンは自信たっぷりにそう言う。

 ビトーは考える素振りを見せ、1分程考えた後、再度アリオンに尋ねる。


「君が言った、『これ以上の術式は作れない』とは比喩表現かな? それとも本当にこれ以上の術式は作れないのか?」

 アリオンは答える


「ええ、残念ながら比喩表現ではなく、実際にこれ以上の術式は作れません。我々エルフが使う魔法はエルフ文字やルーン文字の組み合わせで出来る術式を発動させるものです。そして一つの術式に書くことが出来る量は決まっております。今回先生に紹介した術式は丁度その限界でした」アリオンは残念そうに言った。


「いや、謝る必要は無い。そしてもう一つ聞きたい。この術式は誰でも発動出来る魔法なのかな? それともエルフのみに使用できる術式なのかい」


「はい、この術式はエルフ文字とルーン文字を知っている者であれば、誰でも使用することが出来ます」


 ビトーはその言葉に安心したように笑うと、アリオンに「他に用件はあるか」と聞くとアリオンは無いと応えた為、彼は航空竜車に乗り、コーサ・ノストーリの本部へと向かった。


(術式を得た以上、もうアリオン達のようなエルフのギャングは要らないな。彼らは宗教上賭博や売春をする事に否定的で、敵対組織にそれをつけ込まれる可能性が高い)


ビトーは時に優しそうだ。しかし、その穏やかな振る舞いの裏に潜むものは、冷徹なギャングとしての側面だった。彼は決して善人ではない。義理人情に厚いヤクザなどという甘い幻想とは程遠い、冷酷な現実主義者。彼は、紛れもなく、

“マフィア”だった。



 ルカとビトーが直接会って話をした日から3日が経った頃、ルカは部下からアリオンが病気で死んだ事を知った。死因は麻薬のヤリ過ぎによる脳梗塞だった。


 彼は部下からその事を聞いた後、彼は自室にて一人で居た。部下に自分の部屋には誰も入れさせるなと命令したのだ。

 彼はワインを飲み、瞳を閉じると、またビトーとの思い出を思い出す。



 ――「ルカ、君にマフィアのボスとなってもらう以上、覚えてもらう必要がある事は沢山だ。だが、それは仕事をしている内に慣れてくるものだし第一、最初は私が〈相談役〉として側につくんだ。心配する必要は何も無い。むしろオドオドしていた方が部下に示しがつかないからね。でも、これだけは覚えてほしい」

 ビトーはルカの右手に口づけする。


「おい!なんだよ気持ち悪い事しやがって!てめぇ頭沸いてんのか?」


 ビトーはルカの言葉に首を横に振りこう言った。

「いや、マフィアの伝統でね、部下がボスに忠誠を誓う際、ボスの右手に口づけをするんだ。まぁ、マフィアにおいて接吻はもう一つ意味があるんだけどね」


 ルカは耳が良く、ビトーが小さな声で言った二言目の内容もしっかりと聞くことが出来ていた。そのため、


「そのもう一つの意味って何なんだ?」

とルカは聞いてしまった。ここでその意味をビトーに聞くことがなかったら、彼は最後まで幸せに生きることが出来ただろう。



「もう一つの意味はね、『死の接吻』と言われるものでね。裏切った部下に、『お前を殺す』という意味でキスをするんだ。ちゃんと口と口でな」




 ルカはビトーを尊敬していた。だが、何年もボスを続けていた為に、魔が差したのだ。『ビトーを出し抜きたい』と。


 ルカはまずムクウェネとガウルにその話を持ちかけた。彼らは感情論で話すし言葉遣いも荒い、そして義理人情に厚い。またビトーの様な金髪碧眼の白人という公権力の象徴を嫌っていた為、ビトーと彼らは馬が合わなかったのだ。実際、話を聞いた際にも彼らの協力こそ得ることは出来なかったが、彼らの態度からはこの件について好意的に思っているように感じた。


 だが、それも青龍幇による工作によってムクウェネとガウルの仲は険悪になり、破綻してしまった。


そして次にその青龍幇についてだ。

彼らの組織はボスが岳亮飛に変わってから、東亜大陸以外の4拠点の幹部が独立の兆しを見せており、青龍幇は急速にその規模を縮小させている。


 そしてアリオンが率いるギャングはボスが薬のヤリ過ぎで死んだ事が世間にバレ、家宅捜索に入った当局により壊滅した。


 そして次は――


 ドン!!!


 勢い良く扉が開く音がする。ルカは自分の運命を悟った――。







近況ノートにてエピローグの解説を書いております。良ければぜひ見てくださいね

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