恋愛偏差値0

月白

第1話 恋愛偏差値0

 現在、彼氏いない歴=年齢の記録更新中。ただいま、24歳。私、佐藤和美は何の取り柄もなく、ただ本が好きだからという理由で、本屋でバイトに精を出す日々。いわゆるフリーターというヤツだ。

 いつまでもフラフラしてないで、正社員で働くか彼氏の一人でもいたら、安心できるのにねと母にため息をつかれる日々。

 だけど、全くもって興味がない。恋とか愛とか、はっきり言ってその手の話には疎い。

 恋って、何?人を好きになるとは?LikeとLOVEは何がそんなに違うのか?もうさっぱり。

 分からないところで、今、私は普通に幸せで困っていることなんてないのだ。唯一困っていることは、母に口うるさく言われることくらいだろうか……

 これには、本当に困っている。いい加減勘弁願いたいと毎日思っている。

 好きな本に囲まれて仕事ができて、食べたいものが食べれて、行きたいところにも、それなりに行けているし、私の毎日は傍から見れば平凡かもしれないけど、私は毎日楽しいし幸せだ。

 何が言いたいのかというと、私の毎日は充実しまっくっているということだ。そんな感じだから彼氏いない歴=年齢の記録を日々更新中なわけである。

 仕事の合間のお昼休憩は、本屋から歩いて一~二分くらいのところにあるコンビニで、いつもお弁当を買うか、カップラーメンを買うかのどっちか。

 面倒でお弁当なんて作れない。

 時間は私にとって大事なのだ、貴重な時間をお弁当を作る時間に費やしたくないのだ。そんなこと言いながら、ただ面倒なだけで食べるの専門なだけなんだけど。

 いつも行くコンビニは偶然にも、中学の時の同級生の男友達が働いているのだ。しかも結構、仲も良い。

「いらっしゃいませ」

「おー直ちゃん、今日も精が出ますねぇ」

 彼が、中学の時の同級生の宮島直樹。私は、直ちゃんとか直樹とか呼んでいる。仲のいい男友達というヤツだ。

 友達からは男女の友情なんて成立しないとか言われて、怪しまれたりとかもしたこともあるけど、男女の友情は成立する人には成立するのだ。人によるということ。

「相変わらず、おっさんくさい言い方しかできないのな」

「ははっ」

 カップラーメンが置いてあるコーナーに行って、今日のお昼ご飯を物色する。どうしようか……。

「おいおい、また今日もカップラーメンですか?お客さん」

「いいじゃん。麺が食べたいんだよ、お昼は」

「たまには、自分で作ったりとかすればいいじゃんよ。弁当とか」

「……めんどい」

「……相変わらずだな。本当に」

 直ちゃんは、少し呆れたようにため息をついた。

 レジで会計を済ませると、直ちゃんが言う。

「なぁ今日さぁ、俺仕事早く終わるからメシでも食いに行かねぇ?」

「んー…おごりなら」

「……ちゃっかりしてんな。じゃぁ、何食べるか考えておいて、迎えに行くから」

「ほーい」

 右手をヒラヒラと振りながら、コンビニを後にする。

 それから本屋に戻って、お昼ご飯を済ませて休憩。再び本に囲まれながら仕事に精を出す。すると、一緒に働いているおばちゃん……じゃなかった、おば様から言われた。

「和美ちゃん、何かいいことでもあった?」

「へ?……いや、別に……何も……?」

「そう?なんか嬉しそうにしてるから、いいことでもあったのかなぁと思っちゃった」

「んーそうですか?特別何も……」

 あっ……!今日はおごりで、豪華なディナーが食べられることは嬉しいと言えば、嬉しいことかな?いや、ラッキーか……どちらかといえば。

「やっぱり、いいことあったんだぁー……」

「えっ!いやいや……今日は友達のおごりで、ご飯に行く約束しているので、ラッキーとか思って」

「なーんだ……好きな人ができたとか、そういうことじゃないんだ……」

 何なんだ。

 何かガッカリさせてしまったみたいだけど、なんで人の色恋にそんなに興味が持てて、ガッカリできるの?理解が追いつかない。

 すぐ色恋に結び付けたがるの何なんだろう?そんなんじゃないのになぁ……別にいいけどさ。

 そういえば、何食べるか考えておけって言われたっけ。

 んー何にしよう。今日の豪華ディナー。やっぱり私色気より食い気なんだな。

「お疲れ様ー」

「お疲れさまです」

 外に出てハッとする。職場の人に見られたら、また変なこと言われる……別の場所で待っていてもらえば、よかったかなぁ……。

 そんなことを悶々と考えていると、直ちゃんが私を見つけて「おー」と声をかけてくる。

「どうした?」

「いや、別に……」

「どこ行く?」

「んー……。できたばっかりのイタリアンレストランあるじゃん?あそこ気になってるんだよね」

「あぁ、あるな。そこでいいの?」

「うん、何食べよー」

「相変わらずの、食い気だな」

「そうだよ、おいしいもん食べるために頑張ってる」

「ははっ……!らしいな。本当に変わらないな、お前は」

「変わらないのって、そんなにダメ?」

「別に、ダメじゃないけど。なんでそんなに突っかかってくるの、今日は」

「いや、そんなつもりなかった」

「そっか」

 できたばかりのイタリアンレストランに着くと、好きなもの注文していいなんて言うから、遠慮なく注文した。

 やっぱり私は、食い気なんだと我ながら再認識する。

 久しぶりにバカ話で盛り上がったおかげで、長居してしまった。

 けど、お店の人は嫌な顔せずに接客してくれた。料理もおいしかったし、当たりなお店だなぁ。いいお店発見できて嬉しい。

「なんかお腹いっぱいになったら、眠くなってきたぁー」

 直ちゃんと私の家は、逆方向だからお店の前で別れるつもりだったのに、「遅いから送る」なんて言うからちょっと驚いた。

「ん?大丈夫だよ。別に」

「お前ねぇ……自分が女である事まで忘れるな。大丈夫なわけないだろう。結構遅いのに」

 呆れ気味に直ちゃんは、私の頭を小突く。

「直ちゃん、明日は仕事?」

「いや、休み。久々にゆっくりできるわ」

「忙しそうだったもんね」

「んー。お前は?」

「私も休みだよ」

「そっか」

「んー」

 なんだろう……。いつもは続く会話も続かないのは、なぜなんだろう?いつもはこんな感じじゃないのにな。

「和美って、彼氏いるの?」

「……いるわけないじゃん。いたらさすがの私も、二人でご飯なんて行かないよ」

「だよなぁー……」

「そうそう」

「和美さぁ……」

「何?」

「付き合うか……俺たち……」

「………」

 何なんだ、今日は本当に。何なんだ。

「なんか、お前らしいリアクションだけどな……」

「私と直ちゃんが付き合うの?」

「そう」

「なんで?」

「なんでって、そんなの好きだからに決まってんだろ」

「だって、そんなの一言も言わなかったじゃん」

 そう言ったら、だいぶ深いため息をつかれた。

「こんな感じになっちゃうんだろうなって思ったから、黙ってたの」

「こんなって……」

「和美、こういう話嫌いじゃん」

「別に嫌いとかじゃなくて、なんていうか……」

「何?」

「いや、何かそういうのよく分からないから……」

 頭の中が真っ白だ。今日は本当に何なんだ。神様あなたは私に恨みでもあるのでしょうか?

「まぁ、考えておいて。俺の気持ちはどっちにしても変わらないけど」

「な、何を考えれば……」

「それも、俺が言わないと分かんないの?」

 そう言って直ちゃんは、聞いたことがないくらい深いため息をついた。

「そんなの……分かんないよ!もういい、バイバイ!」

「おい!」

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。私はそのまま走って家に帰った。もう何もしたくなくて、布団かぶってそのまま寝た。

 翌日の目覚めは最悪だった。携帯を見ると、直ちゃんからの着信とメールが来ていた。

 メールを見ることすら、躊躇いを感じて開くことができなかった。

 私にとって直ちゃんとは、仲のいい男友達だった。友達が言うように男女の友情は成立しないのだろうか?成立すると思っていたのは、私だけだったのだろうか……。

 そんなことしか頭には浮かんでこない。

 でも例えば、直ちゃんが誰かと付き合うとなったら、今までみたいに会えなくなったら、私は?どう感じるのだろう……。

 彼と会えなかったことがない。そういえば、ない。

 直ちゃんも彼女いない歴=年齢……なのだろうか……?いや、そんなまさか、あの直ちゃんが?そうだよ、直ちゃんがそんなわけないじゃん。彼は私が知る限り、とてもモテるのだ。

 なのに?そんな直ちゃんが私を?これは、直ちゃん流のドッキリか?いや、彼はそんなことはしない。

 考えたこともなかった。ただ一緒にいる時間が楽しくて、私にとってそれで十分だった。でも、彼は違ったのか……。

 気が付いたら、幼馴染のゆうちゃんに電話を掛けていた。

「もしもし?」

「もしもし?ゆうちゃん?」

「かかってくるかなぁって思った」

「な、なんで?」

「いや、だって……」

「うん」

「断るの?」

「何が!?」

「直樹に告白されたんじゃないの?」

 はぁ?何、どういうことなのこれは……。

「おーい、聞いてる?」

「うん……何、どうなってんの?」

「だって、気付いてないの和美だけだったよ」

「何が?」

「直樹が、和美のこと好きなの誰が見ても分かるもん。だけど、和美は友情だって言って聞かなかったじゃん?だから、直樹も和美に合わせてたんだよ」

「そんな……」

「でもさ、この間言ったのね。私さ。それっていつまで?って。そしたらさすがに直樹も、この先もずっとこのままは難しいよなって」

「なんで、難しいの……」

「だってさ、うちらまだ23歳かもしれないけど、この先30になっても、40になっても、このままってムリじゃん?」

「私は、大丈夫だよ……」

「そうじゃなくてさ。あんたは大丈夫でも、直樹は?そういうの考えないの?結構苦しかったと思うよ?直樹も」

「どうすればいいの……」

「それは、和美がどうしたいかじゃん?直樹ってモテるんだからさ。あんた気付いてなかったと思うけど、直樹の周りの女子から結構恨まれてたよ」

「………」

「直樹が他の女のものになっても、別に何とも思わないなら、振れば?」

「他の……」

「他の人のものになっちゃうよ?」

「だって、分かんないんだもん。そういうの……」

「じゃぁ、さよならだ」

「ち、違うって!なんで、そんな色々急に決められない……」

「まぁ、あんたにしてみたら、そうなんだろうけど。よく考えな?」

 じゃぁねと言って、一方的に電話が切れた。

 誰かのもの?私恨まれてたの?全然気づかなかった。私が一人で楽しんでいただけで、みんなを苦しめていたの?

 私の世界から、直ちゃんがいなくなる?そんなの考えたこともなかった。

 どうしよう。いなくなったら……

 ヤダ。

 そう思った瞬間、携帯が鳴った。画面を見ると直ちゃんからの着信だった。

「………」

「もしもし?和美?聞こえてる?」

「……うん」

「その、大丈夫か?俺が言うのも変だけど……」

「直ちゃん。いなくなっちゃうの?」

「は?」

「直ちゃん、私が振ったらいなくなっちゃうの?」

「俺は振られるのか?」

「……まだ、よく分かんないんだよ。でも、いなくなられたら……」

「うん」

「困るんだよ……」

「うん。それで?」

「それでって……」

「また、ご飯食べに行きたいし、この間観たいって言ってた、映画も観てないし……」

「………」

「なんか、言ってよ……」

「それってつまりどういうこと?俺友達のままなの?」

「だから、まだそういうの分かんなくて……」

「本当に分かんないの?」

「なんで、そこ疑うの!」

「いや、だって……」

 直ちゃんはそれから、ちょっとため息をつきつつ「まぁ、大進歩かなぁ?」って独り言のように言った。

「まぁ、とりあえず……映画でも観に行く?」

「……うん」

 私たちの関係は友達以上なのだろう。でもこれが恋なのかはまだまだ私にはよく分からなくて、それでも直ちゃんは私にとっては、大事な人には変わりはない。

 電話で泣きついた幼馴染のゆうちゃんはというと、そんな感じになるとは思ったけどと、直ちゃんより深いため息をついたのでした。

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