シップマスター権争奪戦編

第6話 そういうタイプの変な人

『おはようございます、バーリトゥード様。現在時刻は午前十一時。それと、リッター様より……複数のメッセージが届いています。ご確認くださいませ』


 ヘッドセットを被ってベッドへ寝転がり、ゲーム内でベッドから体を起こす。

 何とも不思議な感覚だ。

 ベッドから起き上がる際にアラーム以外の何かが出迎えてくれるというだけで、現実よりも充実していると言えなくもない。出迎えてくれているのがAIと50件近いメッセージ通知な事には、一旦目を瞑るとして。


 殺風景な白い部屋を出て気分転換に艦内を歩きながら、リッターから届いたメッセージに目を通す。

 メッセージの多くは俺の体調や金銭面の心配、そしてまた同じゲームで遊べる事の喜びについて綴られていた。恐らくは思いついた事から順に書いた結果、50件という膨大な量に繋がってしまったのだろう。

 この歳になっても気にかけてくれる友人がいる、というのは本当に嬉しいものだ。


 さて。

 メッセージの内容がこれだけだったのならただ返信するだけで終わったのだが、幸か不幸かしっかりゲームについて、それもシップマスター権争奪戦に関わる内容が送られてきていた。

 

『さて。バーリ君には余計なお世話かもしれないけど、現状のままだとシップマスター権は取れないよ。五位以内に入れるかも怪しいかな。ボクは勿論、二位から四位までのプレイヤーもめちゃくちゃ強いからさ。今の君が鶏なら、最上位勢は不死鳥みたいなものだよ』

『当然だけど、別にバーリ君が弱いとか下手とか言いたい訳じゃないよ。ただ単純に、数週間の差を数日で埋めるのは不可能って話。特に、装備の差はどうにもならないからさ』

『勝ちたいなら、装備差を別の要素で縮めないと駄目。でも、それには色々と時間が足りないから……特別に!ボクが!暇してた人に話を通しておきました〜!いえーい、お礼はまた今度でいいよ!』


 一旦メッセージを閉じて、壁にもたれかかる。

 

「なんか……俺の知らない所で勝手に話動いてるな……?」


 メッセージには知らないプレイヤーのID。

 話は通しておいたから後は勝手に頼れ、と。

 え、俺視点完全初対面の相手に今から会いに行くの?

 第一、時間が足りないのは俺も理解しているが、だからって何の説明も無しに話を通したらしい人のIDだけ貼られても本当に困る。

 

「なあ、エテル。流石に見て見ぬふりってのは駄目だよな」

『そうですね、推奨はしません。フレンド申請を送る事も可能ですが、どういたしますか?』

「待て待て待て、その前にこのIDのプレイヤーについて知りたい。情報とか、表示名とか。どんなプレイヤーなのか知らない状態だからな」

『了解しました』


 こうした特定紛いの行為をAIがアシストできるというのは問題な気もするが、一応は表に出ている情報だけ持ってきてくれている筈だから一応は大丈夫……なのだろうか。

 

|––––––––––––––––––––––––|

アカウント:Riot2024

表示名  :ライオット

サーバー :Andromeda

シップ  :#6438

|––––––––––––––––––––––––|


『アカウントIDはRiot2024、表示名はライオット。当シップに乗艦しており、また、シップマスター権争奪戦に於いて現在二位を記録しています』

「2024か、もしかしたら同い年かもな。ああいや、そこはどうでも良いんだが……まさか上位も上位、単純に考えたらこのシップであいつリッターの次に強い人って事だよな。あーあ、気まずい事にならなきゃいいが」


 フレンド申請と共に送る文の内容、それが次の課題だ。

 失礼にならないよう、その上で仰々しくなり過ぎない程度に、そして一定以下の文字数で収まる文章。

 こういうのを考える時が一番疲れる。

 とりあえず、俺はまた艦内を歩き始めた。

 

 最近気が付いたのだが、どうやら俺は動けば動くほど色々なコンディションが上がるらしい。動かないと力が発揮できないと言った方が適切だろうか。

 思考の速さと質、手先の器用さ、動体視力、そうしたものが動いている時間に応じて洗練されるタチらしく、そのせいか子供の頃も無意識のうちに家の中を歩き回っては落ち着きがないと祖父に怒られていた。


 一分二分と時間が過ぎる。踏ん切りのなさは昔からずっと変わらない。

 

 長い長い廊下の途中で、不意に後ろから声がかかる。

 

「止まれ、そこの癖っ毛」

「今のご時世に外見的特徴で呼びかけるのは良くないんじゃないですか?どちら様で、そして俺に何の用でしょう」

「リッターから話は聞いているだろう、バーリトゥード。私としても不服だが、一日でお前をこのシップで最強のプレイヤーにしろと依頼があった」

「––––––––俺も一応話を聞いてはいるが、詳しい内容については初耳だな?」


 深緑色の迷彩服を見に纏い、口元を黒いマフラーの様な布で覆った白髪の少女が、呆れたような顔で頭を抱える。

 装備だけ見れば、昔の映画に出てくる特殊部隊の様だ。ハキハキと通りの良い声は確かに警察組織向きかもな、なんて。

 アバターの身長は俺よりも頭数個分小さいにもかかわらず、どこか不思議な威圧感がある人だ。


「はあ……自己紹介から始めよう。私はライオット、リッターとのに基づき、お前がこのシップで最強のプレイヤーと成るまで鍛え上げる者だ。どうかよろしく頼む、短い間かもしれないが仲良くやろう」

「……ああ、よろしく。俺はバーリトゥード、どこにでもいる普通のゲーマーだ」

「過去の試合記録は拝見した。普通のゲーマーは片手でキーボードを扱えない」

「案外練習すれば出来るもんだ、ライオットさんも気が向いたら試してみるといい」

「馬鹿げているな、リッターの評もあながち間違ってはないのかもしれない。ふふ、存外仲良くやれそうで安心したぞ?」


 俺にフレンド申請を飛ばし、ライオットは何故かにやりと笑う。それも、わざわざ口元の布を指で下げ、笑っている口元を見せつけるように。

 こういう動きをする人間は基本的に自分のアバターを何よりも可愛いと思っていて、それを他の人に知らしめようとこういう動きをする。俺の偏見だ。 

 もしかしたら、第一印象よりもかなり愉快な人かもしれない。

 

「では、ろうか。自分が強いと思っている人間を封殺するのが、遍く娯楽の中で最も楽しいと言っても過言ではない。ああ、興奮してきた」

「……はは」


 訂正しよう。

 第一印象より、かなり怖い人かもしれない。


 

 

 

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2025年1月10日 18:05

戦闘狂共のVRMMO〜争いに飢えたゲーマー集う、何でもアリの『宇宙船対抗』対人戦〜 不明夜 @fumeiyo

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