第5話 順調/プロローグ
現在時刻は深夜三時。
結論から言うと、俺は全勝した。
正直自分でも信じられないが、本当に連戦戦勝だった。
勝因は恐らく、魔法と近接武器を同時使用するバトルスタイルだ。
数時間戦って分かったのだが、前提として魔法は弱い。
より正確に言うのなら、俺が使っている初期魔法……ファイアボルトは非常に弱く、本来想定されているであろう運用だと対人戦じゃ使い物にならない。
当たれば確かに試合を左右できるだけの火力があるのだが、発動時のターゲット位置へ見て避けれる程度の弾速で飛んでいく以上、少し横へ移動されるだけで避けられてしまう。その上、魔法は武器によって容易に切り裂かれ、無効化される。
が、俺は常に至近距離で魔法を使っていた為、弾速は関係ない。しかも、試合数が増えるにつれて脳が慣れたのか、指が覚えたのか、タイプミスも格段に減った。
結果、数秒毎に高火力の攻撃判定がポンと生まれるという
……そもそも、相手の攻撃を武器で受け止めて反撃するのは結構な高等技術だという事を俺は失念していた。いくら身体能力が現実より強化されていたとしても、それは相手だって同じなんだ。
最初に対戦したプレイヤー、確かだらぼっちという名前だったか。
彼女がやけに全部弾きながら切り掛かってくるせいで、このゲームじゃ全員あのくらいは出来て当たり前なのかと思っていたが、全然そんな事もなかった。
一体何者だったんだろうな、と。
流石に今日は集中しすぎたのか、疲れてしまった。
マイルームに戻り、ベッドの上に寝転ぶ。
『バーリトゥード様、ゲーム内で睡眠を取ることは不可能です。どうか現実に帰還し、正しく休息を取ることを強く推奨します』
「すごいな、健康管理AIみたいだ」
『熱中しすぎて現実での休息や栄養補給を忘れないよう適度に水を差すのも、私の役目ですから。それと、只今一件のフレンド申請が届きました』
「珍しい、まだ誰とも面識はないんだけどな……対戦相手の内の誰かだろうか、ファンメじゃなきゃいいが」
フェンメとは、俗に対戦相手から送られてくる暴言や負け惜しみが綴られたメッセージの事である。対戦ゲームが産んだ負の遺産の内の一つだ。
対戦ゲーの黎明期からフルダイブVRが普及した今に至るまで、手を変え品を変え一部の人間が送り続けている。
が、別に今回の事例はそういうものではなく、フレンド申請と一緒に送られてきたメッセージも至って平凡な––––––––
『みつけた』
平凡な、ホラー映画の始まりのようだ。犠牲者一号は俺かもしれない。
「エテル、フレンド申請って実際に会ってなくても送れるのか?」
『そうですね、アカウントIDから申請する事は可能です』
「じゃあ俺が使いそうなアカウント名で片っ端から検索したのか。本当に暇すぎるだろ、何がしたいんだあいつは……!」
『そんな事をしなくても、私と同じアシスタントAIを使えば一瞬ですよ。バーリトゥード様も似たような事をしていますから、非難はできないかと』
捉えようによっては脅迫文なメッセージとフレンド申請、その送り主の名前はリッター。
このシップの頂点に居座る最強のプレイヤーであり、俺の幼馴染であり、家に押しかけてこのゲームを布教してきた張本人。
会社が潰れて暇になった件なども含め、本当はあいつを王座から叩き落とした後にゆっくり話そうと思っていたのだが、まさか開始一日で捕捉されるとは。
仕方なく、そう、仕方なく申請を承認する。
『ところでバーリトゥード様、マイルームの設定についてまだ話していない事が』
「すごい、AIがここまで不穏な話題の出し方をするとは。非常に嫌な予感がするけど聞こうじゃないか怪談特化AI噺家エテルよ!」
『大変不名誉な二つ名ですね、謹んで返上しましょう。マイルームにはパブリック、フレンド、インバイト、クローズドという四種類の設定があるのですが……』
「……次に言う言葉、そしてこれから起こる事象が手に取るように分かる」
何者かの接近により、マイルームの扉が開く。
『初期設定はフレンド、つまりフレンドであれば自由に出入りできます』
頭を抱える俺。ふわふわと飛び回る
乱雑に腰まで伸びた黒髪を後ろで結んだ長身の女性は、一切の遠慮なく何もない部屋へと侵入する。
そして一切の躊躇いなく俺の隣に座り、肩を掴んで全力で揺らしてくるのだった。
「何で始めてくれたのにボクに教えてくれなかったの!?それにどうして毎回アバターがそれなのさ、ボクみたいにリアル準拠でもいいと思うんだけどな〜?」
「そんなにこのイカしたアフロがご不満か、リアル準拠を謳う割には随分と背の高いリッターさん?」
「ボクはちょっとでも有利になれるアバターにしてるだけだよ。バーリ君は根本として顔付きがリアルと違いすぎる、洋画に出てきそうだよそのアバター!」
「別にいいだろ、なんかリアルの顔よりこっちの方が口調も馴染むし。にしても、どうやって俺の事を見つけたんだ?今日始めたんだぞ俺、捕捉が早すぎる」
「……え、今日?」
リッターは俺の肩から手を離し、驚いたような、呆れたような顔で見つめてくる。
確かに、顔は現実と同じだ。瞳の色が赤くなっていたり、髪型がゲームならではな超ロングポニーテールだったりするが、それでも面影は変わらない。
一方の俺は顔の構造に髪型に瞳の色、そういった人を人だと認識する為のあらゆる要素が変わっている。変わっていないのは、精々髪の色だけだ。
ある知り合い曰く「リアルよりゲームの方が現実味のある外見」との事だが……俺としては、真偽の程が不明だ。
「いやあ、流石のボクも驚いたよ。まさか一日で上位に食い込むとは、流石ボクのライバル!うんうん、このゲームの先達として鼻が高いよ」
「いやあ、上位って言う程でもないんじゃないか?確かに結構戦ったが、そこまで緩いランクでもないだろ、多分」
「自分のランクを見てないのか、それともめちゃくちゃ上から目線なのか。バーリ君ならどっちも有り得るからなあ」
「前者だ。エテル、今の俺のランキングを教えてくれ」
「ボクを差し置いて誰に話しかけ……あ、AIか。危うく嫉妬しかけたよ」
AIへの嫉妬とか何年前のムーブメントだよ、という突っ込みは置いておいて。
実際何位まで上がったんだろうか。
欲を言うなら百位圏内に入っているといいが、さて。
エテルが音声を発する。
『シップマスター権争奪戦におけるバーリトゥード様の現在順位は十九位となっております。ここまで全勝してきたのですから、当然ですね』
俺は、声を失った。
驚き、なんてものじゃない。何せ頂点に手を掛けられる順位だ。
「……確かに、これは上位だ」
「だからボクの言った通りでしょ?にしても、君がバーリ君のAIアシスタントか。今後もボクのバーリ君をよろしくね、すぐ色々忘れるからさ。呼吸とか、寝食とか」
『言われなくても、それが私の役目ですから』
「さっすが、頼りになるねえ。それじゃあ早速バーリ君を眠らせてやって。どうせ休みなくやってたんでしょ、ボクは知ってるからさ」
「お前にだけは言われたくないな、そっちもこの時間まで起きてるじゃないか。ま、休みなくやってたのは実際その通りだし……流石に眠くなってきたからな、俺は寝るよ。会社が吹っ飛んで暇になったからな、また明日。おやすみ」
「おやす––––––––待って今なんて言った、会社がどうなったのさ!?」
全力で肩を掴んで揺らしてくるリッターを無視し、ログアウトする。
ありのまま伝えたら「事情は理解した、とりあえずボクが養うから安心しなよ」とか言いながら毎月レターパックで現金を送りかねない、何なら一回送られかけた事もあるしな。
幼馴染に金をせびるほど落ちぶれたくはないのだ。
例え、俺の自由意志でなくても。
シップマスター権争奪戦終了まで、残り六日。
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アカウント:Valetudo_sasaki3
表示名 :バーリトゥード
サーバー :Andromeda
シップ :#6438
現在順位 :19位
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