4.証拠集め
ラミに連れられてやって来たのは、果物の木が植えられた小さな公園だった。彼女は慣れた手付きでその内の一つから林檎を取ると、俺に差し出してくる。
「ね、これと何かトレードしてよ!」
それは、特に変わった様子のないただの美味しそうな赤林檎。これと同等の価値と言ったら、他に売られている果物か。
いっそのこと、これが金にもなれば__
「え?これを……?」
「そうそう。良いから早く!」
林檎をぎゅっと握ると、それは瞬く間に金と変わっていった。
「……えっ!?」
手の中には確かに銅貨がある。これは間違いなく、本物の金だ。昨日皿をトレードした時は、偽物の延べ棒が出て来たのに。
目の前で起きた衝撃的な出来事に目を転々とさせていると、ラミがほらと嬉しそうに手を叩く。
「良い能力じゃん!」
「でも、この間自分の皿で試したら金の延べ棒と交換できたんだ。……偽物の。」
「え、偽物?」
俺の返答に、ラミは首を傾げて心底不思議そうに聞き返してきた。
「おかしいな……。物とお金を交換して大金持ち!みたいなことを私は想像してたんだけど。」
「「……うーん……。」」
互いに悩むが、一向に答えが出る気配は無い。
「本とかには書いてなかったの?」
「特にそんな記載は無かったな。“同じ価値の物同士を交換出来る。”とかしか書いていなかった。」
「ええ、不思議……。何か条件があるのかな?」
それから数分考えたが、結局能力の正体を暴くことは出来なかった。
「とりあえず、色んな物を変えてみる?それで色々考えてみようよ!」
「ああ……そうだな。」
〜〜〜〜
それから俺は、様々な物をトレードした。
ベンチは綺麗なネックレスと、果物樹は幾つかの銀貨と……。
他にも、公園内の物や落ちているゴミなど、数え切れない程物を交換した。
気が付けば日は落ち始めており、そろそろ帰らなければならないと俺は鞄を直す。
「そっか、妹さんが待ってるんだもんね。」
「食料だけ買って帰るよ、今日はありがとう。……なあ、どうして俺にこんなに優しくしてくれるんだ?まだ出会って間もないのに。」
「あいつの被害者だから、かな?私もよく分からない。」
先程戻したベンチに腰掛けながら、ラミはにこっと笑う。
「なんかごめんね、私のせいで時間使わせちゃった。」
「いや……ありがとう。救われたよ。」
「救われた?」
「俺のスキルって、外れらしいんだ。だから村の人達が俺の陰口を言っていて……。王都まで俺の噂が立っているし、居づらかったから。今日ラミと出会えて、こうして色々知れて、本当に良かった。」
数秒間だけ黙り、ラミは椅子から立ち上がって俺の顔に近付く。
「……!?」
そしてそのまま、頬にキスをされた。
柔らかな唇の感触が伝わり、思わず体がブルッと震える。
「早く帰って、妹さんが待ってる。」
本人は何とも思っていない様子で不敵に微笑みながら、俺の耳元で囁いた。
「え、あ、ああ……?」
「ほら、早く!ご飯も買わなきゃいけないんでしょ!」
半ば追い出される様な形で、俺はラミと別れることになった。
無能役職【トレード】実は世界最強でした。〜交換なんか誰でも出来るって?俺の能力は一味違う 美少女妹と最強の女剣士と共に行く冒険譚〜 四葉ちゃば @3cHa6A
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