3.出会いと真実
まさか英雄と呼ばれる人が、あんなに性根の腐った奴だとは思わなかった。
しかし誰もそれに気付く様子はなく、皆羨望の眼差しを彼に向けている。
今の出来事を誰かに言ったところで、一笑に付されるだけだろう。
「ちょっと待って!」
ジンジンと痛む手を雑に振って商店に向かおうとしたその時、女の子の声が聞こえるのと同時に左腕が引っ張られた。
「あなた大丈夫?さっきあいつに酷いことされてなかった?」
ツインテールにした赤い髪が特徴的な、凄く可愛い女の子。歳は俺と同じくらいだろうか。
「もしかして、見ててくれたのか……?」
「明確じゃないけど、多少はね。だって私、あいつのこと大嫌いなんだもん!」
その様子は町人達とはまるで異なり、リーブルに対しての怒りと俺への心配が見れた。
随分珍しい子だ。アイツの評判は天より高く、批評なんて一個も聞いたことがない。
それなのに、こんな__
「嫌いって、どうして……。」
「ここで言うと聞かれちゃうかもしれないから、ちょっと移動ましょう。」
「……ってな訳で、あいつは最低なやつなの!」
路地裏に着いて早々、俺に語られたのはリーブルの愚痴だった。
話によれば、リーブルは外面こそ素晴らしいものの、裏では暴言や暴力が当たり前の最低野郎らしい。
目の前の子は過去にリーブルから夜這いに遭いかけたことがあるらしく、それで彼のパーティーを抜け出して彷徨っていたそうだ。
「それは……大変だったな。」
「そうなの!でも表だけは良いから誰に言っても信じてもらえなくて。他のパーティメンバーにも密告するよう打診したんだけど、みんな意気消沈しちゃってずっとあいつに従ってるの。」
目の前の子はあからさまに肩を落とし、溜息を吐いた。
「その、ところで……君の名前は?」
「あれ、言ってなかったっけ?私ラミ!ラミ・アージェント。あなたの名前は?」
「俺はレス・ニーミング。」
「レスねぇ……。さっきはごめんね、あいつが。」
「いや、ラミが悪い訳じゃないし。気にしないでくれ。」
「……優しいんだね。」
ラミは心底の安心した様子で可愛らしく笑うと、俺の鞄を指差した。
「ところで、そんな大きなバッグ持ってどうしたの?」
「食料を買いに来たんだ。遠くの村に住んでるんだが、そこだとあまり良い物が手に入らなくてな。妹には美味しい物を食べさせてあげたいし……。」
「それじゃあ、もう何時間も歩いてきたの?」
「ああ。でももう慣れたよ。」
ううんと一度ラミは唸り、腕を組んで首を傾げる。
「それだけ大変なら、もうここに引っ越して来たら良いんじゃない?待遇も良くなるだろうし、私もいるし。」
「それは考えたんだが……。」
思わず言葉に詰まってしまう。
確かに、妹と共に王都へ越して来ることは何度か考えた。しかし一度スキルを見てから決めようと二人で話し合い、まだ村に残っていたのだ。
それなのにも関わらず、あんなスキルを……。
「ちょっと事情があってな。それに、さっきリーブルからも目付けられたし。」
「ああそっか……それは残念。レスがいたら楽しくなると思ったんだけど。ああ、私もこれからどうしようかなー。」
地べたに寝転がり、ラミは天を仰いだ。
「そう言えばさ、レスのスキルって何?私は炎って言うありきたりな物引いちゃったんだけど。」
ありきたりの方がずっと良いだろう。だって俺は……。
「俺は……トレードだった。」
「トレード?何それ、初めて聞いた。」
「同じ価値の物同士を交換出来る、って能力なんだ。でも完璧に同じ価値の物なんてそうそう無いし……。」
ふうんと興味無さそうに告げて、ラミは勢い良く起き上がる。
優しい子かと思ったが、やっぱりこの子も__
「それ良いじゃない!ちょっと試してみましょうよ。」
「……え?」
にこっと笑い、彼女は再び俺の手を掴んで走り出す。
「ほら来て!私の力よりずっと良いって、それ!」
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