26.人工呼吸

 俺の声と共に、剣と心臓達は一斉に交換される。剣があった場所には心臓が無造作に置かれ、心臓があった場所には剣が刺さる。

クラゲは何も言わずにその動きを停止させると、二人の体から触手を離した。


「大丈夫か!?」

「お兄ちゃん……!」


アリナはふらふらとおぼつかない足取りで俺に抱きついてくるが、ラミの方は全く動く気配がない。


「ラミ!?」

 

俺は慌てて引き上げ、彼女に何度も呼びかける。しかし返事はなく、口から少しずつ水を垂らすばかりだ。

完全に溺れて呼吸が止まっている!

内心ごめんと思いながら心臓マッサージを行う。口から出てくる水の中は確かに増え、荒い呼吸を繰り返しはじめたが、それでもやはり苦しそうだ。


「頼む……!」


クソ、こうなる前に俺はどうにか出来なかったのか!?自分の無力さが嫌になる。

 パクパクと息を頑張って取り戻そうとするラミの口を見て、俺の中にある考えが浮かんだ。

人工呼吸だ。


「いや、流石にそれは……。」


アリナからもなんて言われるか分からないし、何よりラミにそんな事をして許してくれるとも思えない。


「ひゅー……ふー……。」


だけど苦しそうにするラミを見ていると、そういう話をしている場合ではないような気がしてきた。


「……悪い!」

「えっ!?」


俺はラミにキス……いや、人工呼吸をした!


「ちょっとお兄ちゃん!?」

「こうでもしないともう駄目なんだ!今は許してくれ!」


アリナに見られながら人工呼吸を続ける。ラミも最初こそ驚いていたものの、俺を受け入れてくれる。

それを何度か続けていると__


「……っ!はっ!?」


ラミがやっとちゃんとした息を始めた。


「ラミ!大丈夫か!?」

「レス……う、うん……。」


よほど苦しかったのかラミの顔はすっかり赤くなっていて、何度も荒い息を繰り返す。傍らではアリナが爪を噛みながらじっと俺達を見つめ、少し悔しそうに床を叩いた。


「アリナ……すまん、その……。」

「……お兄ちゃんはすっごくすっごく優しいと思うよ。うん、すっごく。」


まずい、完全に怒らせてしまったみたいだ。

 そうこうしている内にラミは俺から離れ、床の上に大量に転がったクラゲの心臓を手に取る。


「これ、レスが全部一人でやったの?」

「ああ。さっき買った剣と心臓をトレードして__」


話している途中、俺はあることに気が付いた。彼女は今まで見たこともないような訝しい目線をそれらに向けていたのだ。まるで何かを不審がっているような、そんな目。


「ラミ、何かあったのか?」

「……いいえ、ただちょっとその能力について不思議に思うことがあって。」

「と言うと?」

「ねえレス、トレードの対象って毎回自分で決めているの?それとも無意識?」

「そうだな……どちらかと言えば自分で決めておるかもしれない。」

「やっぱりそうなってた?」

「やっぱり?」


 首を傾げる俺とアリナとは対象的に、ラミは納得した様子で頷いてから、いつの間にか出現していた新しい床へとジャンプする。


「歩きながら話す。」

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