6.疑問

 妹が起きる前に俺はベットから降り、“夕方には帰る”と手紙を書き残して王都へと向かっていた。


と言うのも、昨日妹から聞いた話が気になったからだ。


何の突拍子も無く突然人々の鞄や洋服の中から果樹が出現した__

一見すると何の推理も出来ない不可思議な事件だが、俺には心当たりがあった。


「よし……。」


 昼頃には王都に到着することができ、心中安心しながら俺は鞄の中にしまっていたローブを取り出す。

……昨日あんなことがあったからな、ちゃんと対策しないと……。


「昨日の事件って……。」「怖いわよねぇ。」「俺の知り合いも被害に遭って……。」


 王都の中は、昨日妹から聞いた事件で持ちきりだった。黄色い歓声と陰口が生み出した蒙昧の空気とは打って変わり、今日は陰気が街の賑やかさを作っている。


ローブのお陰で俺の正体がバレそうにはない。


……さて、この街を支配する話題だが。

多分俺のせいだ。多分と言うか、確実に。


 最初聞いた時は特に何とも思っていなかったが、改めて考えてみると林檎や椅子やらは全て俺がトレードした物。関連性が無いとはとても思えない。


 しかしそうなってくると、何故その人たちが被害に遭ったのかと言う疑問が残る。


“同じ価値の物同士を交換出来る”としか本には書かれていなかったが、もしかして他にも条件があるのだろうか。

とりあえず、ここの人達の話を聞いてみよう。


“あそこの公園付近を歩いていた人が被害者なんだって。”

“シャツの一部がゴミに変わった人もいるらしいよ。”

“首にベンチが現れて怪我しちゃった人も……。”


“高価な物が狙われたんだって。”

“じゃあ犯人はお金目当て?”


〜〜〜〜

 一通り聞いてみて、人々は犯人が金を目的に犯行に及んだと勘違いしていることが分かった。


……別にそんなことはないんだが……。


しかし弁明をすればそれはもう自白している事と変わらない為、反論の一つだって叶わない。

 とりあえず、一度公園に行ってみよう。そうすればまた良い情報が得られるかもしれない。



 昨日の事件のせいか公園に人はいないと思ったが、俺の目の前には見覚えのある赤いツインテールの少女が立っていた。


「ラミか?」


 俺がその子に話し掛けると、肩を一瞬だけびくりと震わせてこちらを向く。


「あれ、レス!」


予想通り、その正体はラミだった。


「来てたなんて思わなかった。でも丁度良い、レスに会いたかったの。」


 彼女は嬉しそうに駆け寄って来ると、笑顔を浮かべながら俺の両手を優しく握る。


「事件の話か?」

「やっぱり自分でも分かってた?」

「ああ。流石に思い当たる点が多過ぎるからな……。」


 俺はラミの手を離し、時に何の変哲も無い公園を見渡す。


様相の変化に気づく事が難しい程に、そこは昨日とまるで同じだった。木も、椅子も、空気も、何もかも。


「多分、昨日色々トレードしたからだよね……。」

「ああ、そうだろうな。」


 彼女も同じくきょろきょろと辺りを見渡し、俺の方を見ながら言った。


「同じ価値の物同士を交換出来る。ってだけなのに、何故か人の物ばかり交換の対象になった……。不思議だよね。だってそれだけの条件なら、あんなに被害は出ない筈だもの。」

「交換先がランダムって事は?」

「仮にそうだとしても、ずっと人の物としか交換出来ないのは変。どれだけの確率だと思ってるの?しかも公園付近にいた人だけが被害に遭ってるし。」

「ううん……確かに。」


 そう考えると、余計に分からなくなる。

近くにある物を優先して交換すると言う条件ならば、何故ラミはトレードの対象にならなかったのだろう。 それに該当する物を持っていなかったから?


……しかし、彼女はあの青年のパーティに属していた凄腕。一人になったとして、どこかのダンジョンに入って金稼ぎをしていたと考えてもおかしくない。


仮に持っていなかったとしても、ゴミとラミの物が交換されなかったのは変だ。


「これからどうするの?もしこの件がバレたら、本当に生活出来なくなるよ。」

「ああ……。それを避けるためにも、まずはこの能力の真の条件を知りたい。」


 その言葉を聞いてラミは数秒間沈黙し、それからじゃあと両手を胸の前で叩いた。


「それなら、一緒にパーティ組まない?」

「……え?」

あまりに突拍子も無い提案に、俺は思わず首を傾げる。


「色んなダンジョンに入って魔物を倒せば、きっとそれが分かるでしょ。それにお金稼ぎにもなる。悪くない提案でしょ?」


確かに理には適っている。しかし__


「……妹を一人に出来ない。」


 俺には大切な妹がいる。

この身体を掛けて、生涯を尽くして守ろうと決めた大切な妹が。


「ああ……そっか、ごめん。」

「いや、こちらこそ。折角提案してくれたのに……。」


 しばらく気不味い沈黙が続いて、ラミは小さく口を開いた。


「でも、本当にこれからについては考えた方が良い。それだけここで話そうよ、次いつ会えるか分からないんだし。」

「……分かった。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る