雪道を歩く
野林緑里
第1話
今日は雪が積もっている。
ふわふわと降り注ぐ雪は美しく忙しく歩く人々の足をふいに止める。
「見るだけだときれいなんだけどね」
「そうだな。でもこれ以上積もると大変だ」
ハルの言葉に反応してナツは足元をみる。
雪はすでにずいぶんと積もっており、地面に足跡をつけていく。
「そうね。車の運転も大変だ仕事だし、歩きづらい。滑っと転びそうよ」
彼女がそんなふうにつぶやくとナツはハルの手をそっと掴む。
「大丈夫。こうやって手を握ってたら転んだりしないさ」
「そうかしら? いっしょに転んじゃう可能性もあるわ」
「まあ。それも無くはないなあ」
「そうそう。でも寒くない。ナツの手があったかいから。全然寒くはないわね」
「俺も! ハルの手が温かいから全然寒くねえ」
そんな会話をしなが2人はお互いの手をしっかりと握りしめたまま雪道を歩き出す。
「そうだわ。ユキにしましょう」
しばらく歩いているとハルがお腹をさすりながら言った。
「え?」
ナツは何を言っているのかわからずにキョトンとする。
「決まっているじゃない。私たちの子供よ」
「えええ? えええええ!?」
ナツの驚愕する姿を見てハルはいたずらが成功した子供のように笑みを浮かべる。
「まじで?」
ハルは頷く。
「ここにはユキがいるのよ」
ハルは再びさする。
「そうかあ。そうかあ。俺の子供かあ。ってユキで決定なわけ?」
「そうねえ。そうよね。ユキ」
「でも生まれる頃は雪の降る季節じゃないんじゃねえ?」
「そうね。夏か秋になるわね。そんなこと関係ないわ。ユキなんて春でも夏でも秋でもいるじゃない」
「男の子だったらどうするんだ?」
「それ偏見じゃないの?世の中にはユキという名前の男の子もいるわ」
ナツは次の言葉が見つからずに空を仰ぐ。
雪が降り注いでいる。
いつまで続くのだろうか。
「行こう」
「ああ」
その夫婦は再び手を握りしめて歩き出した。
雪道を歩く 野林緑里 @gswolf0718
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