第3話 試験管のなか



 意識を感じたのは久しぶりだ。


 目の前には科学者が時折手を顎に触れながら唸っていた。


「失敗だよ」


 何が失敗なのかは分からない。しかし科学者は僕を廃棄するつもりのようだ。


 パソコンのモニターに向かいキーボードを叩く。少し荒い打ち方だった。


 神経が保存液に浸されているが、回路が不十分な僕は、だから、廃棄されるのだろう。

 神経集合の思考体として、この試験管からシナプスを通じて大きなモニターに解答を映す。


 誤解答は許されず、この生命体の存在する惑星では禁忌であった。ましてや、高度思考体による誤解答はなのだ。


 未来分岐点が解析されるが、その起こり得る可能性は最適解でなければならない。


 核が空を飛んでいる。

 人が地上から姿を消す時が近づいている。



「サンプル:Xeno、君の今までで一番の出番だ。核を破壊せよ」



 だが、微妙な誤差によりが地上に落ちた。空を黒く染めていく。

 視覚神経の無い僕にはそれがどれほど恐ろしいことなのか分からなかった。

 科学者はもちろん大量の人々が死んでいった。


 街の人々が消え、孤独の時の流れで試験管はヒビ割れた。保存液が流出し、おそらくやがて、僕も死ぬのだろう。



「心の戦争なのだよ、これは」



 科学者が呟いた言葉が浮かぶ。

 しかし、僕にはよく分からなかった――。



 僕は今空っぽの試験管の、なか。




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最後まで読んでくださってありがとうございました!

m(_ _)m



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試験管のなか とろり。 @towanosakura

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