第7話 妖精と英雄の季節は巡る
「
掌から圧縮された空気と花びらが出現する。スラーは空気に弾かれベッドから転げ落ちた。室内に発生した風は逃げ道を求め、窓と扉をこじ開ける。
「へ~可愛い魔法だね? お花畑でヤられたかった?」
「
両腕に嵌めていたバンクル状の魔法補助アイテムが、ボロリと朽ち落ちる。
廊下から
「大丈夫だ。お前らは見張っとけ。……抵抗されると燃えるんだよねぇ」
扉が再び閉ると、頬を張られ再びベッドに押倒された。必死に抵抗するがスラーは笑いながら私の両手を封じる。お願い!届いて!!
廊下で叫び声が聞こえた。見張っていた手下の声だ! 数発殴る音が聞こえ、扉が乱暴に開いた。
「見つけた!!」
「なんでお前がここに!うっ……!!!」
本当に助けに来てくれた……スラーはノクトに殴られ再びベッドから転げ落ちる。
「彼女は僕を信じて助けを求めてくれたからな」
彼は鳥の形をした紙をスラーに見せつける。
あの時使った魔法は二つ。「伝書の魔法」とそれをかく乱するための「春の嵐」。
「ギルドにも通報済みだ、応援も到着する。スラー、お前は人を傷つけ過ぎだ」
「ふざけんじゃねーよ! 英雄英雄って、いつも目障りなんだよ!!」
スラーがナイフを取り出しノクトに襲い掛かった。だがノクトはナイフをかわし、スラーの腕を捻り上げる。カタンとナイフが床に落ちた。
「ギルド最強クラスがこの程度? お前は強さは偽りだ……」
「「ギルドの治安部隊だ!! 全員動くな!!」」
◆
私達はギルドで治療と取り調べを受けた。
どうやらギルドもスラーの問題行動に困っていた。そこに私の件を受け、彼を確保し除名・投獄に至った。
「リーナさんがノクトさんに話をしてくれたんですね? ありがとうございます。お陰で何もされずに済みました」
「良かったです。様子がおかしかったので。カノン……アリアさん達と入れ違いでノクトさんもいらっしゃたので、うっかり情報を漏えいしました」
彼女は悪戯っぽく笑った。そして私の手を握り優しく微笑む。
「ギルド職員と冒険者の間柄だけど、私達長いじゃないですか。私はアリアさんの事、友達だと思ってますよ」
「友達になってくれるんですか?」
「ええ。そうだ!今までダンジョン内で冒険者を助けてくれて、ありがとうございました。今まで渡していたポーション類は彼等からのお礼の品です。『もし、迷宮妖精を見かけたら渡して欲しい』って託されてたんです」
「リーナさんはそれが私って分かってたの?」
「ええ。見た目が変わって緑の目だけ同じって、アリアさんしかいないから」
リーナの笑顔につられて私も思わず笑みがこぼれた。みんなの優しさが嬉しい。
取調室からノクトが出てきた。
「ノクトさん!」
「さて……二人とも取り調べお疲れ様でした。積もる話は
リーナは笑顔でひらひらと手を振り、私達を追い出した。
私とノクトは歩きながら話す。
「ノクトさん。助けてくれてありがとうございます。急に家を飛び出して、すみませんでした」
「本当に心配した。スラーに連れてかれたと聞いて焦ったよ」
「何でノクトさんはそこまで親切にしてくれるんですか?」
「言っただろう? 僕は妖精に惚れてるんだ。5年前、僕を助けた命の恩人でもある」
5年前……ギルドに所属する前、探検と称してダンジョンに潜っていた時があった。確かにその時倒れてた冒険者を治療している。装備や体型も違うけど髪色は確かにノクトと同じだった。
「あの時の剣士さん!」
「ああ、アリアにお礼が言いたくてずっと探していたし、あれから強くなった。4年前、傷ついた君がいなくなった後から、保護しておけばよかったと後悔していた」
私達はいつの間にか助け合っていた。ずっとお互いの背を追っていたのか……
「私、あの時ノクトさんに助けられたから、挫けずに冒険者を続けられました。でも、これからは人を信じてみようと思います。ノクトさん、これからも好きでいて、いいですか?」
「ああ、僕だって離す気は無いよ。一緒に生きようアリア」
ノクトは私を抱き締めた。まだ少し恥ずかしかったけど、彼の笑顔を間近でみれて嬉しかった。
その後、私はアリアと名乗り彼と冒険を続けた。彼と広い世界を旅する。
いつまでも、どこまでも。
迷宮の妖精に英雄は眩しすぎる 雪村灯里 @t_yukimura
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