第6話 妖精の過去

 私はギルドから退会するために、受付デスクに駆け込んだ。


「リーナさん! お願いしたいことが有って」

「カノンさん大丈夫ですか!? ダンジョンで倒れたってノクトさんから聞きましたよ?」


 そうだ! 肝心な事を忘れてた。今の私はカノン偽名だ! 彼はなぜアリア本名を知っていたのだろう?


「リーナさん彼に私の本名教えました!?」

「何言ってるんですか。そんなことする訳……」

「見つけたぞアリア」


 また本名を呼ばれた。


 だが、その声と気配に悪寒が走る。声の主が私の肩に手を回し、耳元で楽しげに囁いた。


「へぇ~。今はカノンって言うんだ。アリアちゃん?」


 この男はスラー。このギルドの最強クラスの1人だ。赤毛の前髪の間から、爛々と輝く金色の目が私を見る。逃げようとしても過去の記憶が蘇り、恐怖で体が言う事を聞かない。


「スラーさん彼女は……」

「お姉さん、うちのパーティー魔術師探してたんだよね? この子でいいや。おい、いくぞ」

「待ってください! スラーさん! カノンさん!?」


 私もギルド加入当初は本名で活動していた。若い私はスラーがリーダーを務めるパーティーに居た。そこは地獄だった。協力なんてない。新人や弱い者にすべてを押し付けて働かせる。最後は……


「また玩具オモチャに出会えるとは思わなかったよ」


 立場の弱い者を玩具にするのだ。スラーは笑いながら私を攻撃した。彼が飽きるまで攻撃を受け、肩を負傷した私はダンジョンに置き去られた。魔法を使う力もなくて、死を覚悟した。


 だが幸運にも私は助けられた。若かりし日のノクトに……。



 私は声も上げられず、震えながらスラーの家に来てしまった。


「ふぅん。震えている割に素直じゃん。それに昔より可愛くなったね?」


 スラーは私の杖を手下てしたに渡し、彼らを部屋の外に追い出した。扉が閉ざされると、ベッドの上に突き飛ばされる。彼は上着を脱ぎ、馬乗りに座り舐めるように私を見た。


「なんで私なんか……恋人の魔術師いましたよね?」

「ああ、アイツとは別れたんだよ。だから俺寂しくてさァ。アリアちゃん慰めてよ? 寂しくて眠れないんだよね」


(嫌だ……怖い!)


 コイツに力では勝てない。それに杖も無いから攻撃魔法を使えない……絶望しかけた時、脳裏に彼の姿と声が浮かんだ。

 そして過去の自分も心の中で叫んだ『こんなの絶対に嫌だ』と。孤独に冒険した日々が頭を駆け巡る。あの時より私は確実に強い。


 覚悟を決めた私は、スラーの前に手を翳し魔法を展開した。

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