第6話 妖精の過去
私はギルドから退会するために、受付デスクに駆け込んだ。
「リーナさん! お願いしたいことが有って」
「カノンさん大丈夫ですか!? ダンジョンで倒れたってノクトさんから聞きましたよ?」
そうだ! 肝心な事を忘れてた。今の私は
「リーナさん彼に私の本名教えました!?」
「何言ってるんですか。そんなことする訳……」
「見つけたぞアリア」
また本名を呼ばれた。
だが、その声と気配に悪寒が走る。声の主が私の肩に手を回し、耳元で楽しげに囁いた。
「へぇ~。今はカノンって言うんだ。アリアちゃん?」
この男はスラー。このギルドの最強クラスの1人だ。赤毛の前髪の間から、爛々と輝く金色の目が私を見る。逃げようとしても過去の記憶が蘇り、恐怖で体が言う事を聞かない。
「スラーさん彼女は……」
「お姉さん、うちのパーティー魔術師探してたんだよね? この子でいいや。おい、いくぞ」
「待ってください! スラーさん! カノンさん!?」
私もギルド加入当初は本名で活動していた。若い私はスラーがリーダーを務めるパーティーに居た。そこは地獄だった。協力なんてない。新人や弱い者にすべてを押し付けて働かせる。最後は……
「また
立場の弱い者を玩具にするのだ。スラーは笑いながら私を攻撃した。彼が飽きるまで攻撃を受け、肩を負傷した私はダンジョンに置き去られた。魔法を使う力もなくて、死を覚悟した。
だが幸運にも私は助けられた。若かりし日のノクトに……。
◆
私は声も上げられず、震えながらスラーの家に来てしまった。
「ふぅん。震えている割に素直じゃん。それに昔より可愛くなったね?」
スラーは私の杖を
「なんで私なんか……恋人の魔術師いましたよね?」
「ああ、アイツとは別れたんだよ。だから俺寂しくてさァ。アリアちゃん慰めてよ? 寂しくて眠れないんだよね」
(嫌だ……怖い!)
コイツに力では勝てない。それに杖も無いから攻撃魔法を使えない……絶望しかけた時、脳裏に彼の姿と声が浮かんだ。
そして過去の自分も心の中で叫んだ『こんなの絶対に嫌だ』と。孤独に冒険した日々が頭を駆け巡る。あの時より私は確実に強い。
覚悟を決めた私は、スラーの前に手を翳し魔法を展開した。
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