第4話 ギャルは変身する生き物である

「やあ、ウィル! なんだい結局来たのかい」



 それから僕は公爵家の晩餐会に来ていた。

 話しかけてきたのはロイだ。彼は肩をすくめながらこんなことを言う。



「いやあ、参ったね。今回は外れだよ。みんな年寄りか旦那持ちばかりだ」

「君がり好みし過ぎなんじゃないか。それに女性の良さは美醜びしゅうだけじゃ……」

「おいおいウィル。君ってばあんなのを嫁に貰ったもんだから目がにごったんじゃないかい?」



 相変わらず失礼な奴だな。


 僕は辟易へきえきしながらも、ロイの話に適当に相づちを打っていた。

 なんというか、周りがみんなすごい貴族ばかりなので、こんなのでも居ないよりは居た方がいい。


 ……ヘタレとか言うな。



「ところで君の奥方は? やっぱり恥ずかしくなって置いてきたのかい?」

「そんな訳あるか。今準備をしている。なんでもこのあと舞踏会があるらしいじゃないか」



 だから僕はサマンサを待っている。

 めちゃくちゃ綺麗になってやるから楽しみにしてろ、とのことだったが。



「まだかな……」



 そのとき、一人の女性が会場に入ってきた。


 あっという間に、その場にいた全員の視線を集める。

 その女性があまりに美しかったからだ。


 天使の衣を彷彿ほうふつとさせるような白い純白のドレス。

 ゆるくウェーブのかかった美しい髪。

 そして何より、自信にあふれるその表情こそが、彼女をより魅力的にみせていた。



「あっ……」



 僕は、つい言葉を失ってしまう。彼女に見とれてしまっていた。


 他の参加者たちもそうだったらしい。まるで時間が止まったかのように誰も彼もが動きを止めた。


 だがそんな中、静寂せいじゃくを破るように動き出す男がいた。皆の隙を狙ったかのように、彼女の前にずんずんと踏み出す。


 ロイだ。



「き、君! こんなに美しい人は見たことがない! よければボクと一曲……」

「あー、残念。アタシ、先約があるんだわ」

「へ?」



 ロイを押し退けて、その美しい人が僕の前に来る。

 僕は両方の手のひらを上に向けておどけて見せた。



「……びっくりした。別人かと思ったよ」

「ししし。驚かせてやるって言ったじゃん」

「ああ。喋るとちゃんとサマンサだな。安心した」



 なによそれ、と拗ねたようなポーズを取る妻に、悪い悪いとすぐさま謝った。


 状況が理解できず、ロイが僕に説明を求めてくる。

 だが、サマンサがそれを遮った。



「一曲踊っていただけますか、旦那様」

「よろこんで。麗しの我が妻よ」



 サマンサの手を取る。誰も彼も僕たちに目を奪われたままだ。

 ああ、父も母をはじめて目にした時、きっとこんな気持ちだったんだろう。



 そうして曲がかかる。

 二人だけの舞踏会がはじまった。





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ギャル過ぎて婚約破棄された彼女が貧乏領主の僕の嫁に来てからの普通じゃない新婚生活のこと 片月いち @katatuki

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