第3話 ギャルたるもの検索を使いこなすべし

 僕がサマンサを嫁に迎え、数日が経過した。

 どうしたものかと心配していた最初の予想より、彼女との暮らしは意外なほど上手くいっていた。


 サマンサは貴族にしては型破りではあるが、気さくな人柄で農夫たちとも仲良くしている。また、サマンサの魔法によって僕たちの仕事も少し楽になったのも事実だった。


 今も壊れた水車の修理を魔法でやっており……



「ウィル様、やべぇ! 水車の中から干からびたカエル見つけたったww」

「振り回してないで捨ててきなさい。というかよく平気で触れるな……」



 ……少々、子供染みたところもあるが、今ではそれも愛嬌あいきょうと思えるようになってきた。それに彼女は根は優しい性格だった。


 ある時こんなことがあった。

 いつものように農夫と一緒に農場の仕事をしていたときのことだ。



「どうした? 急にうずくまって。何かあったのか?」

「くう、すみません領主様。かまで手を切ってしまって……」



 雇っている農夫の一人が怪我をしたらしい。

 確認したが、深い傷だ。本来なら医者にみせてってもらうような傷だろう。


 だがこんな田舎に医者はいない。治療できるような道具も大したものはない。いつもは消毒して包帯を巻いて、あとはただ治るのを待つだけだ。


 運が悪ければ、手が動かなくなるような場合もある。



「マジ? アタシなんとかしよっか?」



 すると、サマンサが農夫のもとに駆けてきた。

 僕はそんな彼女にたずねる。



「治せるのか?」

「まー、なんとかなるっしょ」



 そういって農夫の腕に手をかざすと、淡い光が傷口におおいかぶさっていく。あっという間に傷口がふさがってしまった。



「凄いな、いやしの魔法が使えるのか!」

「あ、アタシって、誰かを元気にすんの得意なんだよねー」



 サマンサが照れ隠しのように笑いながら、僕に向けて手をかざす。

 ウィル様も元気にしてあげよー、と癒しの魔法をかけた。


 身体中に力が沸いてくる。

 なるほど、これが魔法の力か……。


 中でも両足の付け根からパワーを感じる。

 妙だなと思って視線を落とすと、股間に立派なテントが出来ており……。



「……って、どこを元気にしてんだよ!!」



 サマンサは大爆笑しながら、僕の姿を写真に納めていた。




 ◇




 彼女との日々は、そうして過ぎていった。

 よく笑う彼女につられて、僕も笑うことが多くなっていった。


 彼女と半月過ごす頃には、この生活も悪くないと思えるようになっていた。


 そんなある日のことだった。


 夜の畑で僕は一人で作業をしていた。納屋なやの扉が壊れたらしい。野犬なんかに入られても困るので、早めに修理した方がいいだろう。


 本当は魔法でも使えれば簡単に直せるのだろうが、生憎あいにく僕には魔法の才能がない。

 サマンサならすぐに直せたかもしれないが、彼女に頼りっきりは嫌だった。



「ふう……、こんなもんかな……」



 ようやく修理が終わって一息つく。


 なんとなくすぐに帰りたくなくて、そのまま納屋に寄りかかって空をみた。

 今日は星がよく見える。



「なにやってんの、ウイル様?」

「サマンサ……」



 声をかけてきたのはサマンサだった。

 昼間はいつも泥だらけになっていた彼女も、今は清潔な寝間着ねまぎに着替えている。



「扉を直していたんだ。もう終わったけどな」

「言ってくれたらアタシが直せるのに……」

「このくらいなら僕にもできる。それに君だって昼は働いていて疲れたろう?」



 どうやらサマンサもここに残ることにしたらしい。

 僕と同じように、なんともなしに空を見上げる。


 しばらく無言の時間が過ぎて、そういえばと彼女が口を開いた。



晩餐会ばんさんかい、なんで行かないの」

「ああ、そのことか……」



 僕のところに招待状が届いてから、なんとなく僕が元気がないのを見抜いていたのだろう。


 僕は行くつもりはないと言った。

 もちろんサマンサが悪いわけではないとも言った。


 彼女はそれに納得がいっていないのだろうか。



「僕の親がもう亡くなったのは話したな。父親は最近だけど、母親の方は僕を産んですぐに死んだんだ」

「マジ? 知らなかったんですけど……」

「僕には母親の記憶がない。……実はウチの両親が結婚したきっかけが、その晩餐会だったんだ」



 聞けば父の一目惚れらしい。

 父はその日の内に猛アピールし、その愚直ぐちょくなまでの熱烈さが母の心を射止めた。



「綺麗な人だったらしいよ。あの時、晩餐会に出席していた人はみんなそう言う」

「だからウィル様は……」

「ウチには絵や写真も残ってないから、僕は顔だって知らないんだ。それなのに行って、母親のことを話されるのが、その……嫌なんだ」



 だって、そんなに綺麗な人だっていうのに、僕は何も知らないんだから――。


 すべて語り終えた僕は、すっとサマンサの方へ視線を移す。


 サマンサがさっきから静かだ。

 うつむきがちに顔を伏せ、今、彼女がどんな表情をしているのかわからない。


 ……まいったな。


 サマンサにまでこんな想いをさせたい訳じゃないのに。



「すまない。僕のわがままだ。君が行きたいというなら君だけでも……」

「あー、スマホで検索したら写真あったわ。これじゃね?」

「写真あんのかよ!?」



 当時の晩餐会に出席していた誰かが、こっそり写真を撮っていたのだろう。

 サマンサは、王立図書館のデータバンクに保管されていたその写真にアクセスした。


 二人でそのスマホに映る小さな写真を見る。 

 とびきり美しい笑顔を浮かべているその人は、どことなくサマンサに似ていた……。



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