灰から生まれるもの
白雪花房
浄化者
昼と夜の境目は虚ろの世と物質界が混ざり合う。
真っ赤な空には薄墨色の雲が垂れ込み、
人の寄り付かない領域をうろつく白いシルエット。
「ギャハハハハ! 標的をミスミス見逃すとは、
むせるような刺激的な臭い。
白いコートの
「ひょっとしてお前さんもなにもする気がないと? ああ、分かるぞ。無こそが我々の友。救済の象徴。であるならば、力添えをしてやらんでもないなぁ!」
色白の肌に切れ長の目をした男は、影をとらえた。
敵は形を持たない。黒い霧を撒き散らしながらマントを広げるように膨張する。
明らかにモンスターだが、元は人の姿をしていたであろう面影はあった。三角形につり上がった目が顔を作るように配置され、傷口のような
「さあ、お前さんもこちら側へ来るんだよぉ!」
地底へ引きずり込むように不定形の影が襲いかかり、風圧が押し寄せる。
暴風が地表を削り、傍らで灰色の建物が砕け、
生と死の狭間の緊張感。
白い男は古の剣を握りしめる。
硬質な静寂をまとい、意識を
「伝説の勇士よ、お前の力を借りるぞ」
スペルとして唱えると奥底から力が
脳内を巡った血染めの景色。
グロテスクにふくらんだ獣を一刀両断すると、ドロドロの体液が飛び散り、赤黒く濡れた。
蒼白の剣士が
ありもしない記憶の断片。おのれのものではないけれど自然と体が熱くなった。
かつての勇士を
標的は薄い空に溶け、後には
荒れた地面に立つ男は剣を下ろす。
光を帯びた刃を通してまた知らない記憶が流れ込んだ。
血で汚れた床にエプロンを着た女性と、黄色い帽子を被った子どもが倒れている。
影の顔に空いた穴を通して見えたものがおのれの家族の最期だと、男は認めない。牢獄のように無機質にな心には、誰かの
走馬灯が途切れ意識が空白に染まる。
古びた剣の担い手はまぶたをきっちりと開き、首を横に振った。
先ほど観たのは先ほど倒した敵の過去だろう。
「無になる、か」
心の内側では身近にすら感じるのに、なぜか他人事と思いたかった。
ブーツを踏み出すと、足の裏にしっとりとした土を感じ、くすぶった匂いがはい上がる。まっすぐなシルエットは朽ちた大地を歩き抜けていった。
***
ひらひらとした白いコートをまとった男――カルムは浄化者と呼ばれる。
彼らの存在意義はモータルを倒すこと。モータルとは人の影より生じ、悲しい過去
やトラウマといった負の記憶が具現化したモンスターだ。
浄化者は負の記憶を浄化する役目を担う。適正のある人間が引き抜かれ(もしくは改造を施し、人為的に生み出す)、組織的に育成。他者の記憶をまとい、戦闘力を継承。終わりなき戦いの旅に駆り出される。
カルムには浄化者になる以前の記憶がない。気がついたときには荒野に放り出され、目の前には筋骨隆々の大男。相手はカルムの力を見込み一員に加える。その人物こそが組織のトップ――すなわち上司だった。
カルムは人形のように任務をこなし、モータルを
同業者と記憶を共有、情報は得ている。
根城は繁栄の街ウェスペルだ。
真っ赤なバラが彩る門をくぐると、スパイシーな匂いが
表面上はにぎやかに栄え、広場には記念碑も建つ歴史ある地域だ。
一転、路地に入ると薄暗くなり、薬と硝煙の臭いがちらつく。地下は
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灰から生まれるもの 白雪花房 @snowhite
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