【短編】追放王のワシが追放されたら前世の追放された記憶を思い出した。追放特典「追放」を駆使して追放試験を勝ち抜き、追放権利を再び得たい。-追放されたくないので追放王のスキルが追放なのは隠します-

ひなの ねね🌸カクヨムコン初参加🌸

追放王が追放され、追放女神と出会い、追放試験のさなか、追放勇者と再会する

「どいつもこいつも、自分が不幸みたいな顔をしおって」

 

 追放女神エグザイルによって導かれたワシは追放王バニッシュ。

 追放試験ダンジョンの待合室には、所狭しと地面に座り込む人たちの姿があった。


「これまでよほど追放してきたと見える」


 ある者は英雄のように整った装備をまとう騎士、ある者は豪華なジャケットを着用した貴族、そして頭に王冠を被り、ふわふわのファー付きローブをまとう王のなんと多いことか。


 ワシも追放される前は追放王と民に恐れられていた。

 初めは本気で民を守る王だったが、力を得たことでノリと感情任せに力を振るいすぎてしまった。


 もしこの場で追放王だとばれたら、当時ワシが追放した者もいるかもしれん。

 この場でざまぁされるのも恐ろしいので、正体は隠したまま勝ち抜きたいところじゃ。

 

「追放への熱意を持たなければ、この追放試験――勝ち抜けんよ」


 追放最高神が開催する追放試験を勝ち抜けば、追放ライセンスを得ることができる。


 初回の追放には追放ライセンスは不要だが、追放者が追放された後に、再追放するには追放ライセンスが必要になるらしい。(※追放女神エグザイル談)


 じゃが勘違いするでないぞ、良いか?


 ワシは改めて追放祭りフェスティバルをしたいわけではない。

 追放されたからこそ、不当な追放者を追放するために再び【追放の座】に戻りたいのじゃ。


「もう誰にも、ワシのような悲しき追放をさせてはならん――!」

 

 決意を固めた理由はもう一つある。

 追放されたとき前世の記憶も蘇ったのじゃ。


 前世のワシは地球でも社会から追放され、異世界転移してからも王やパーティーから追放。そして寂しく命を落とした冒険者じゃった。

 

 追放への怨念が追放王バニッシュへと生まれ変わらせたのだろうが、横暴な追放は悲しきざまぁしか生まん。


 だからこそ、今後も不当な追放を許すわけにはいかなかった。


「ワシが追放業界をクリーンにしてやるんじゃ――!」


 拳を強く握る――が、開始までやる事も無いので、行き場を失った拳をなんとなく前後にブラブラさせて、空いている場所に腰を下ろす。


 すると隣に座っている人のよさそうな恰幅の良い王様が話しかけてきた。


「あなたも追放されましたか」

「ええ、まあ」


 なんだ随分親しげじゃな。


「私も追放をしすぎましてな。追放試験は今回で13度目なんですよ」

「じゅ、13度目!?」


 そんな開催されてるおるのか!?

 開催頻度が分からんぞ!?

 

「じ、実はワシは追放試験は初めてでな、どういったことをするんじゃ?」

 

 追放女神エグザイルからは、楽しい大運動会が始まるとしか教えてもらっていない。


「追放試験は、追放最高神が任命した追放試験官が、追放試験の度に追放問題を出すので、誰も追放試験の追放内容は追放開始の追放合図まで分からないんですよ」

「追放が多すぎてさっぱり分からんが、毎回違う内容だけは理解できた」


 これから始まる追放試験、どうやらただ事ではないようだ。

 だがワシには前世の記憶復活と共に得た――切り札がある。


「もし良ければいかがですか、お近づきのしるしに喉でも潤しませんか?」


 王はふところからビールジョッキを差し出した。

 ……いや流石に怪しいだろう。


 こんなところでキンキン……ッッに冷えたビールを取り出せる王がいる者か。


「実は下戸げこでな」


 本当はめっちゃ飲むが断っておこう。

 

「そうですか、残念です」

「いやいや、お互い頑張りましょう」

「そうですな、レッツ追放!」

「レッツ追放!」


 この謎の掛け声は至る所から聞こえてくる。

 追放された追放者たちが、己を鼓舞する言葉なのだろう。

 『マラソン、一緒に走ろうね!』的な奴だ。


 ワシは追放王だから彼らのように頻繁に「追放!」なんて言葉を叫ばなくても、追放への強い思いは消えてはいない。


 ワシが離れると恰幅の良い王は、他の王に話しかけて、またビールを勧めていた。

 アヤツはいつか試験中に『追放蹴り落としの刑』に処しておこう、どうにもきな臭い。


 前世の記憶はあやふやだが、試験前に飲食を配る奴だけは許すなと、何故か魂に深く刻まれておるのだ。大衆書物で読んだ気がする。その命に従うべきじゃ。

 

 ワシが追放決意を固めた頃、追放ダンジョンの天井から、神々しい光を放ちながら、ひげもじゃのオッサンがゆっくりと降りてきた。


「ファッキュー! この追放負け犬どもが!」


 神の第一声は暴言だった。

 ついでに中指も立てているので、さすが追放最高神というべきか。


 座り込んでいた負け犬たちは立ち上がり、誰がどう見ても神様みたいなおっさんを見上げる。


「この追放試験を勝ち抜いた者は、追放ライセンスを手に入れることができるだろう」


「ほ、本当に追放できる立場に戻れるのか!」

「そうだそうだ! 俺たちは追放されたばかりで傷心なんだ!」

「追放してきた者が追放される気分を知ってるのか!?」

「追放ライセンスを手にすることができる保証を見せてくれ!」


 さすがこれまで幾多の追放をしてきた者たちだ。

 心の荒み方が違う。


「ファッキュー! この追放負け犬どもが!」


 追放最高神は先ほどと同じように中指を立てて、半渇きの牛乳に濡れた雑巾を見るような眼でワシたちを見下ろす。

 バリエーションがないキレ方から察するに、この追放最高神も毎回同じパターンで追放をしてきたのかもしれない。


 顔の感じから、もし自分が追放されたら鉄板の上で土下座しそうなタイプである。


「貴様らはこれまで感情に任せて追放を行ってきた。

 やれステータスが低いだの、外れスキルだの、荷物持ちだの、バフが弱いだの、新しいメンバーが入っただの――その場で思いついたような理由でだ!」


 あたりの雰囲気は重たく、ゴクリと喉がなる。


「――アンビリバボー! さすが追放ライセンスを得ようとする者たちだ!

 貴様らは負け犬だが、負け犬こそ追放の意思を持つにふさわしい!

 負け犬こそ、思い付きで追放するからだ!

 我は貴様らのお母さんのような気持ちだ――ここまで伸び伸びと育ってくれて我は嬉しい!

 ここは追放試験会場、本当は皆に追放ライセンスを与えたいが、そこらかしこで追放が起きてしまっては、世は廃れきってしまう――それこそ、ファッキューだ!!」


 一応、世界のバランスは考えてくれるるのか。

 というか、追放最高神の口癖ってもしかしてファッキューなの?


「ヘイト管理は重要じゃが、追放ライセンスを手にしたら、みんな心して追放する様に。あと、ざまぁにはくれぐれも注意するように、結構悲惨なことになるから」

 

 最高神の演説が終わると所々ですすり泣く声が聞こえる。

 あっちのオッサン王は鼻をすすり、そちらの中年王は涙を浮かべ、わがままっぽい若い冒険者風の青年は、天を見上げて決意を固めている。


「あれで感動するん……?」


 わし、ちょっとこの会場怖くなってきた。

 感動できない方が悪いみたいな演出、辞めてくれる?


「では、第一の追放試験を開始する」


 追放最高神が天へ舞い戻ると、入れ替わりで現れたのは、超巨漢の肉の塊のような生物だった。

 申し訳程度にちょこんと手足と頭が乗っている。

 頭の上に天使の輪を乗せているので、一応、神様なのだろう。


「つ、追放をするものならば、追放を、し、知るべきなんだな」

 

 なるほど、見た目のわりに理に適った考えじゃ。


「では、殺し合い始めえ!」


 え、ちょっと、待って、世界の北野でもそこまで早くないよ?

 ワシ、理解が追い付かないんだけど!?


「ここにいる、い、1万2千人。

 追放ポイントを214(ついふぉう)ポイントまで稼ぎ、生き残った者のみが、次の追放ステージへと、す、進めるんだなぁ」


 そんなに追放関係者いたのか、ワシ知らんかったよ。

 その人数の中で追放王を名乗ってきたワシって凄くない?


 近くにいる王たちは既に両手に各々の武器エモノを手にしている。

 

「こ、ここでの死は現実に帰るだけだから、ぞ、存分に、追放の刃を振るうんだな」

 

 周囲では阿鼻叫喚が聞こえている。

 もう既に地獄絵図だ。


「くっ!」

 

 ワシに剣を振るってきた王がいたが、何とかそれを避ける。

 追放試験初心者だったから、「今日のテストは午前中のみだあ( *´艸`)」のような手ぶら気分で来てしまった――!


「しかぁし!」


 早くも追放女神エグザイルから授かった、追放特典スキルを使用するときが来たようだ。

 追放王まで登り詰めた者が追放されたとき――それは覚醒する!


「貴様、【追放】じゃ!」

 

 ワシが指さすと、剣を振るってきた王は一瞬にしてその場から跡形もなく消えた。

 そう、つまり彼はこの追放試験会場から、存在そのものが【追放】されたのだ。 

 

「こ、これは単純だが使えるぞ……!」


 青龍刀を両手に持って、ワイヤーアクションスターのように振り回してくる王を【追放】し、刀を突きつけてくる王を【追放】し、ヌンチャクを自由自在に操る王を【追放】する。


 さらにハンガーを自由自在に操る王すら牙をむいてきたが、結局、追放スキルで【追放】した。


「こ、これで追放ポイントは、いったい幾つなんじゃ……!」


 自分が一体何ポイント獲得しているのか全く分からぬ!

 そんなとき、耳元で風が切り裂かれる音が近づいてくる。


「ひょう! また会いましたね!」


 何かが頬をかすって、近くに着地した。


「き、貴様は先ほどの13回落第王!」


 右手にかぎ爪のような物を装着して、前後に機敏に動きながら彼はファイティングポーズを取る。前後の揺れスピードは60フレームだ。


「私の毒を飲んでおけば、苦しまずに追放されたものを! ひょうぅ!」


 知らぬ間に設置されていた金網に張り付いて、上空からワシ目がけて彼は落下してくる。


「フライング・ツイホウ・アタァァックッ!!」


 装着した爪はしっかりとワシを捉えている――!


「自らの手で物理的に追放できるこの解放感! だから追放試験は辞められませんねえ!」


 いや、毒殺の手段を選んでたよね!?


「貴様、【追放】じゃ!!!」

「そんな言葉に今更なんの意味が――!」


 言い切る前に13回落第王は姿を消す。


 今頃は現実世界でひょうひょう言いながら、無駄に跳ねてる頃だろう。

 好きに超必殺技ゲージを溜めると良かろう。


「……追放完了じゃ」


 そこでパンパンパンッと、腹太鼓が鳴る。

 どうやらレート不明な追放ポイントを、各々ある程度、稼いだ合図なのだろう。


 ワシは次の試験に期待と不安を抱きながら、突如生まれた追放扉へと足を進めるのであった。


◆◆◆


「3人パーティを組んでもらいますわ」


 次の追放試験官は俺を追放試験会場に導いた追放女神エグザイルだった。

 絵画のような気品に溢れており、白い布をまとい、金髪が風に揺れる。


 ちなみにお嬢様言葉に聞こえるかもしれないが、全くそんなことはなく、超エセ関西弁なだけだ。


「ダンジョンを抜け、次の会場にまにおぅた者が勝者や」


 簡単じゃないか、その程度か、など生き残った30人は思い思いに安堵の声をあげる。


 え、さっきのデスロワイヤルで11,970人も脱落したの?

 追放試験こえええ……。


「ほんまにせやろか? 必ず3人でゴールするんやで、途中で1人でも欠けたらその時点で失格や」

「な、なんじゃと……」


 くっ、追放試験を受けに来ている追放人たちは追放が趣味であり生きがいだ。

 パーティに他人がいよう者なら、追放したくなるのも仕方がない。

 

「追放する者は状況に合わせて追放の誘惑にも耐えんといけん。

 キミらの追放魂、見せてもらうで」


 追放女神は去り際に軽くワシに手を振り、天へと消えていく。


 まるで隠れて付き合っている幼馴染のようでこそばゆいが、これでもワシは77歳じゃ。そんな恋心もどこぞに追放してきてしまった。


 60年前に王宮裏で幼馴染にフラれた記憶を思い出して、涙している頃、次々とパーティーが出来上がっていく。


「や、やばい、誰か余ってるものはおらぬか!」


 辺りを見渡すが初老の王たちは初老同士でパーティーを組み、老人同士は老人同士で組んでいる。

 くっ、世代が同じ方が話題が合うから話しやすいではないか!


 どのキング・オブ・ファイ〇ーズをプレイしたとか、サムラ〇スピリッツは誰派?ワシはナコルル! ワシはリムルル! みたいに楽しく潜れたら追放なんぞおきんものを……!


 なんて汚いやつらじゃ……!!!!!!!

 焦りながら辺りを見渡すが、年齢が若いパーティーには入れない。


 Vtu〇erの話は多少分かるが、変な距離感を保たれながらダンジョン攻略なんかされたら、精神的に追放された気持ちがして、毎夜枕を濡らして寝ることは必至である。


「だれか、誰か残っている者はおらぬか……!」


 血圧高めに息を切らしながら走ると、立ち尽くしている一人の女性を見つける。

追放ダンジョンで女性は珍しい。


 女性は大抵の場合、婚約破棄試験ダンジョンに導かれると聞くが、ここにいるということは少なくとも追放関係者である。


 いったいどんな悪役令嬢なのか――。

 勿論、そうと決まったわけではないが――。


「そこのおなごよ、我とパーティーを組んでくれんか!」


 二人一組になって! とか異世界転生前でも苦手だったが、躊躇ちゅうちょしている場合ではなかった。

 だがここはもう若いとか歳を取ってるとか悩んでいる場合ではなかった。


 その少女は何故か華やかなゴシックドレス姿であるが、何故か頭にうさ耳ヘアバンドを付けた個性豊かな美少女であった。


「つ、つ……」

「つ?」


 年の頃は10代後半、長い髪と綺麗な顔立ちをしているが、表情はどこか虚ろだ。

 あと若い女子は皆同じ顔に見えてくるので、ワシではこれ以上特徴が拾えんかった。


「つ、つ、つ、つ、ついい、追放したい!!! 追放したい!!!!」

 

 やばい。

 昨今、城下で噂の追放系女子じゃ!


「耐えろ、今は追放しちゃダメな場面じゃ」

「追放! 追放! 追放!」

「デスメタルバンドみたいにデスボイスで頭振ってもダメなものはダメじゃ!」


 じゃが残っている人物もいない、ここはこのデスメタル追放系女子とパーティーを組む以外に方法がない!

 あと一人は――――――――――――――いた!!


「そこいる若者よ、わしとパーティーを組まんか!」

「あ、いいっすよ」


 ちょっと飯行かん? の返答くらいで応えてくれたのは、どこにでもいるような金髪男子だった。

 この際、個性は無くても、勇者のような服を着た若い男を無理やり引き入れる。


「よし、そろったのじゃ!」

「追放! 追放!」

「いやー、間に合った見たいっすね」


 77歳のお爺さんと追放系女子と無個性男子で何とかパーティーを結成できた!

 転生して77歳になってやっとこの行動力、自分を褒めてやりたい!


「というか……お爺さん、どこかであったことないっすか?」

「追放! 追放! 追放!」

「どうかの、テンプレート顔とよく言われるから人違いじゃないかのう」

「追放! 追放! 追放! 追放! 追放! 追放!」

「そっすか、まぁ、そっすよね。こんなところであの追放王に会うなんてことないっすよね!」


 あー……こいつワシがどこかのタイミングで追放した若者っぽい。

 昼飯を食べてた時か、花に水をやってた時か分からんが、ノリでやっちゃ時かもしれん。


「んじゃ、ダンジョン行きますか、あっちっぽいっすよ」

「そうじゃな」

「追放! 追放!」


 追放系女子ちゃんに関しては、追放した過ぎて理性がないような気がする。

 もう追放したくて仕方ないんだろう、なんて追放魂が備わったおなごじゃ。


「して、主の名はなんじゃ? おぬしも追放してきた身か?」

「俺はオ=イダーシ、イダーシって呼んでください」

「イダーシか、ワシはバニッ…………ガールが好きな王、バニーガール王じゃ」

 

 大事なものを失ったが、なんとか正体をごまかせた。


「追放! つい……!?」

「うおおい、お前は自分のうさ耳を押さえるな、歳の差が広すぎて守備範囲外じゃ!」

「ついつい♪」


 その喜び方、あってるん……?

 追放系女子も大変だな……。


「へえ……相当好きなんすね」

「ま、まぁな、してイダーシは追放の具合はどうなんじゃ?」

「いやぁ、かわいい子を入れるから、男を全員追放してたら、パーティーが女の子だけになっちゃって」

「そりゃそうじゃろうな」

「ついつい(ふむふむ)」

「気が付いたら毎日気を使いすぎちゃって……結局、最後は俺も追放されちゃったんすけど――それで良かったのかもしれないっすね」


 遠い目をしながらイダーシは、へへっと自嘲気味に笑う。

 自己責任とは思ったが、追放人は大体の場合自分が悪いので何も言えない。


「次こそは男だけのパーティーを作るために、追放ライセンスを手に入れたいんす」

「そ、そうか……ほどほどにな」


 何かに目覚めてなければいいが、真相は闇に葬っておこう。


「追放系女子はどうなんじゃ?」

「ついつい!」

「ほう、また追放がしたいから、か。いや、実に純粋じゃな!」

「ついつい~♪」

 

 そんな穏やかな追放談議に花を咲かせながら、俺たちはダンジョンを進んでいく。

 ダンジョン内には追放を促すようなギミックが数多くあった。


 仲間割れしやすいような三人同時押しギミックや、ロケ弁が3人に対して2個しかなかったり、3人でオーバーク〇クをクリアさせるなど、極悪非道なギミックばかりじゃった。


 じゃがワシらはとうとう最後の扉までやってきた。

 このボス部屋を乗り越えれば、この追放ダンジョンを攻略したことになる。


「ついにここまで来ましたね」


 イダーシは光り輝く聖剣を構えながら、これまでの道筋を回想してるようだった。


「みんなで追放ライセンスを手に入れたら、パーティー組みませんか?」

「イダ―シ……おぬし……」

「ついつい……!」

「俺、分かったんすよ。

 これまで女の子をエロい目ばかりで見てきた。

 美少女たちの大きい胸、小さい胸、ほどよい胸、触りたくなるような大きさの胸、開放的な胸、装備におおわれて秘匿されている胸、その全てを手に入れようと、俺は必死で聖剣を手にして、死ぬ気で四天王を断罪し、魂を燃やしながら魔王を倒し、全力で世界を救ってきました。」


 胸への熱い執着――。

 やはりこいつは、お昼寝の時間に呼ばれて少し苛ついてたから、ノリで追放したあの男じゃったか……。


「けど世界を救ったけどモテなかった。

 逆に俺は追放されたんす。身体目的だったのねって」


 実際そうだったしなぁ。


「今、バニーさんとと組んでやっと理解したんすよ。

 胸よりも大事なものがあるって」


 それは世界に幾つかはありそうじゃなぁ。


「バニーさんの胸じゃ性欲は湧きませんし、ついついは追放のことしか頭にないんで、性欲を出してるとまた追放されかねないですしね」


 良い話風に話してる内容でもないんじゃが。

 

「だから二人となら、また楽しくパーティーを組めると思うんすよ。

 世界を旅しながら、横暴な追放者たちを追放する――楽しくないっすか?」

「そうじゃな……」


 ワシは言おうか迷っていた。

 イダーシを追放したのはワシじゃったと。


 あの時は横暴に追放してすまなかったと。

 じゃがワシは言い出せず、モジモジしているうちにイダーシは扉を押す。


「さあ、何が現れても俺が倒すっすよ」


 ギギギギギィィィ――。


 重たい扉が開き、そこは神々しい神殿のような場所じゃった。

 神殿の左右は奈落になっており、落ちたらひとたまりもないだろう。


「ここが追放ボス部屋っすね……」

「ついつい……!!」

 

 ついついは手に追放武器ゲイボルグを構えながら、前に進む。

 なお追放武器とは押し出しやすい物凄い長い槍のことらしい。


 神殿から降りてくるのは追放最高神、その人だった。

 片手には朽ち果てた追放女神エグザイルが、痛々しい姿で掲げられている。


「遅かったな、貴様らが最後のパーティーだ」


 神とは思えぬ不気味な笑みで、俺たちを睨みつける。


「他のパーティーは既に追放され、奈落の底よ」

「な、なんじゃと!」

「は、はよ、にげえな。こ、こいつは結局、己の追放欲に勝てなかった……んや……!」

「黙れ!」


 エグザイルは宙に投げ捨てられ――ワシは腰を心配しながらも滑り込んで何とか抱き留めた。


「追放最高神は常に入れ替わりが激しい。それは、強大な追放力を手にし、我慢できずに堕神するからだ……このようにな!」


 軽く手を振ると、聖剣を構えていたイダーシが吹き飛び、奈落へと突き落とされる――が、なんとかついついがゲイボルグで服の裾を刺して事なきを得ている。


「はっはあ! 最高だ、追放しまくれる!

 追放をしまくった貴様らなら、追放されても誰も悲しまんからな! はあっ!」


 再び振ると、ついついが奈落へと吹き飛ばされる。


「くっ――!」


 これでは二人が落下してしまう!

 ならば――!


「奈落に落ちる概念を【追放】じゃ!」

「な、何だと――!?」

 

 ワシの【追放スキル】で二人は奈落に落ちることなく、ふわりと地面へと舞い戻る。


「追放特典スキルを有しているな。

 しかも強大な――はっ、そうか貴様は……追放王バニッシュ」

 

 追放最高神は力を与えたエグザイルを睨みつつも、ぎりっと悔しがるように強く噛む。そして背後では息を呑むような声が聞こえた。


「バ、バニーさんがあの追放王バニッシュだったんすか……?」


 聞きたくはない、聞きたくはなかったんじゃ。

 この悲しい声音を。


 まさか、追放した者に信頼され、また失望されるのがこんなにも心を苦しめるとは――。


「悪かった、イダーシ。あのとき王都から追放して」

「……」

「恨むなら恨んでくれていい。信じないなら信じてくれなくて良い。

 じゃがワシは、もう二度と横暴な追放を繰り返さないために、もう一度、追放の権利を得たいんじゃ」

「バニーさん……」


 もうこの頭に乗った無意味な王冠はいらぬ。

 カラン――。


 もうこの豪華なローブもいらぬ。

 ファサ――。


 ワシに必要なものは、この二人だけじゃ。

 追放せずにパーティーメンバーとして歩ませてくれた二人じゃ。


「さあ、下がるが良い。

 これから最後の横暴な追放を始めるのじゃから」


 二人の言葉を待たず、ワシは命を燃やしながら、追放力を高める。


 1、2、3,4――10,20――40。


「人間の身であるバニッシュが、追放最高神である私を追放しようというのか、なんとファッキューな!」


 追放最高神から放たれる追放力により、奈落へと押されそうになるが、ワシは押し返すように追放力をさらに高める。

 

80――107――――――――――――――――――――――214!!!


「ふん、追放力を最大の214(ついふぉう)にしたところで、神の私には――なに!?」

「最大という枷を【追放】しただけじゃよ」


214――428――856――――――――――――――――――214214214214!


「――追放じゃ、神よ」


 ワシがそっと追放最高神を指さすだけで【追放】が発動し、神は負け惜しみを言う暇すらなく、この次元からあっけなく追放された。


「や、やったのじゃ」

「おわったのか……?」

「つ、ついつい……?」


 ワシはあまりの追放力を発動したことにより、意識が飛び――視界に入ったのは追放女エグザイルが、神に向かって両手で中指を立てているところだった。


◆◆◆


「のう、本当に良いのか?」

「追放されて、今度は助けてくれた。

 それでプラマイゼロじゃないっすか」

「ついつい!」


 ワシたちは緑一杯の草原を歩く。

 春風が吹き、ワシの髭を爽やかに揺らす。


 また新たな追放最高神が生まれたらしいが、冒険者となったワシたちには、もう関係のない事じゃった。


「次は何処に行きます?」

「そうじゃなあ、温泉でも目指したいのう」

「ついついつい♪」


 ついついもそれで納得してくれているのか、今日はパーティーから誰も追放せずにご機嫌である。


「さて風の向くまま、気の向くまま、歩いていきましょうかのう、イダーシ、ついついよ」


 どこぞの黄門様のように締めくくろうとした矢先、空から金髪美女天使が降臨する。追放女神エグザイルだ。


 今は、昇格して追放横暴抹殺科(通称、追暴科)女神エグザイルと呼ばれている。


「温泉やと?

 せやかて、バニッシュ。

 この先に横暴な追放を繰り返す貴族がおるんやが――聞くまでもなく、もちのロンやな?」


 ワシとイダーシ、ついついは顔を見合わせて、大きくうなずく。


「「「仕方ないのう……レッツ、追放!」」」


 ――今日も、この世界に追放あれ。

 


 END




=============

はじめまして、ひなのねねです。

今後の力となるため「+★★★」、「フォロー」、レビューにてお気軽に感想をいただけると幸いです!


普段は異世界ファンタジーを毎日投稿しています。

---------

カクヨムコン10:長編の週間ランキング最大38位

【(16万PV突破)異世界ファンタジー】

https://kakuyomu.jp/works/16818093086666246290/episodes/16818093086666447902

---------

異世界転移したオジサンが、特殊な能力で成りあがっていく、ストレスフリー作品です。もし宜しければこちらもお付き合いいただけると幸いです。


では、またどこかで。

ひなのねねでした!

=============

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます