異世界転移で俺だけ別ゲー仕様!?実績解除を楽しんでたら闇の組織で世界を救うみたい

ひなの ねね

プロローグ ルート

第1話 オープンなワールドな異世界

「ゴールデンウィークは一歩も外に出ないぞー!」


 俺ことユウギ デンジは今日発売の超大型新作オープンワールドゲーム「ナイトブレードライダー4099 2」を購入して、秋葉原のゲームショップを後にした。


「ゲームがあるからこそ、最悪な会社でも社畜として何とかやっていけるってもんだ」


 「ナイトブレードライダー4099 2」は科学に支配された近未来を舞台に、キャラクターを好きに成長させながら世界を巡る自由度が高いゲームだ。


 あまりのボリュームと自由度のせいで、ほとんどの人間はやりこむ前にプレイを辞めてしまうが、俺は世界で数人しか取得していない実績すらもコンプリートした。


 そんな実績解除系ゲーマーの俺が二作目を見逃せるはずがない。


 ちなみに実績というのはやりこみ要素であり、簡単に取得できるものから、相当やりこまないと取得できないものもある。場合によっては実績解除でレアアイテムや称号を手に入れることができるので、景品目的でプレイする者もいる。


「実績の全解除こそゲーマーの生きる意味なのだよ!」 ※個人の偏った考えです。


 今回も己の力で全実績を解除するぞと意気込みながら、コンビに足を踏み入れた瞬間、身体がふわっと浮いた気がした。


「ん?」


 次のシーンでは視界が暗転し、派手な演出も何もなく、呆気なく見たこともない場所に立っていた。


「ど、何処だここは、まるで王宮のような」


 見渡すと同じように辺りを見回している高校生の男女が四人いる。

 魔法使いのような男達が杖を振ると、俺たちを見て何やら話し始めた。


 ――ここからの展開は言うまでもないのでダイジェストの早送りだ。

 しかしゲーマーである俺は一瞬でピンと来たね、異世界転移して、英雄として扱われようとしていることに。


 俺にはどんな職業とスキルが言い渡されるのか、嫌が応にも期待で胸が高鳴ってくる。


「貴方様の職業は――むっ、こ、これは……無、無職!」


『む、無職だと、けがらわしい!』

『これまでの文献にそんな職業は書いてないぞ』

『どういうことだ、お、恐ろしい!』

『民間人が巻き込まれてしまったのか』

『誰だ、どこのオッサンだ』


 周囲の魔導士たちがあまりにも動揺するので、ステータスオープンと、心で唱えて指を振るとステータス画面が眼前に表示される。


 確かにそこには「レベル1」と「無職」の文字が。


「ん、けどこれはなんだ……?」


 俺がステータス画面の違和感に気が付いた時、衛兵に両手を強く掴まれて部屋から運ばれる。

 どうやらこれ以上は関係者にしか話せない話のようで、俺のような部外者は追い出されたってわけだ。


 それが数分前までの話。

 細かく話せば高校生の自己紹介や各々の役割、職業、スキル、なんかも話してたけど、追い出された俺が考える事でもないので更に省略する。


 そんなわけで行き場もなく城下町で座り込んでるわけだ。

 辺りは石の煉瓦で出来た家が多く、道行く人も色々な職業の服装をしていて、いかにも中世ファンタジーといった感じである。


「さっきのステータス画面が気になるんだよな」


 改めてステータス画面を開くと俺のステータスが表示される。


 □レベル 1

  職業  無職

  スキル なし

  筋力  1

  知力  1

  体力  1

  速度  1

  器用  1

  運   0


「せめて運も1にしてくれ」

 軒並み1が並ぶステータスについ突っ込んでしまう。


「俺の能力が低いにしてもあまりにも低すぎる。それともこの世界の人間は大人でもこんな低いのか?」


 知力1の頭を捻っても分かるわけないか。

 それよりも気になるのはここだ。


「画面がバグってるけど、特に壊れてるボタンがあるんだよな……き、切り替え、って書いてるのか?」


 表示が乱れているボタンを恐る恐る押すと、グルンとステータス画面が回転し、裏面が表示される。


 そこには、見慣れた表示が次々と並んでいる。


「これは、親の顔よりも見た「ナイトブレードライダー4099」のメニュー画面じゃないか」


 プレイ時間は何千時間も超えているから見間違えるはずがない。所々違うのは転移前に購入した「2作目」の仕様になっているのかもしれない。


 装備タブやアイテムボックスタブ、クエストタブに、実績タブ――。


「パークタブもある……!」


 パークとはオープンワールドゲームにおけるスキルみたいなものだ。よくあるRPGの職業に沿ったスキル取得ではなく、職業が存在しない代わりに自分の好きなビルド(スキル構成)でプレイできるのが特徴だ。


「ってことは、もしかして……試しに『ガラクタ分解1』でも取得してみるか」


 ガラクタ分解1とは道端に落ちているゴミを素材に変えて、自動でアイテムボックスへ放り込むパークで、ゲームだったらクリックして素材を集めなくて良い便利機能である。


 視線で地面の石ころを見つめると、ふっと消えて、アイテムボックスの中に「石材1」として保管された。


「お、現実で使えるとすごい便利だ」


 突然、耳元に「ぽーん」とこれまた耳慣れたSEが鳴り響き、目線のやや右上に文字が浮かび上がっている。


『初のパーク取得。ようこそ、ようこそ、王都セブンス(サイバーブレードシティ)へへへ』

 ※実績が解除されました。


「実績表示もバグってんじゃん……」


 俺は苦笑いしてたが、なんだか可笑しくって、つい腹の底から可笑しさが込み上げてきた。


「ふは、ははは、なんだよ、異世界でも実績解除できるのかよ、しかもなんでバグって……たくっ、俺の好きなゲーム発売日に転移して、城から追い出されて、なんて日だよ、ふははは」


 自然に笑えたのはいつ振りか。

 道行く人が俺を不思議そうに見ても、俺は笑いが止まらなかった。


「まったく……いいぜ、ならその偶然。乗ってやる」


 ある程度笑うと、なんだか胸がスッとして俺は立ち上がる。

 バグった実績タブには数えきれないほどの未解除の実績????が並んでいる。


「この世界の運命も、召喚された理由も知らんけど、別ゲーのパークを利用して実績解除して生き抜いてやるよ」


 俺は立ち上がり、何処までも続く青空を見上げる。

 月は二つ。

 視界を遮る電柱もない広い空。

 白紙のオープンワールド。


 目指すは異世界での全実績解除だ。

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