第2話 英雄たちのルート
「ほら、旨いか。好きなだけ食べろ」
俺は街で集めた素材を売り、パンを買って、黒い野良猫と路肩に座っていた。
小さなパン切れをかじる猫を見ながら、自分も硬いパンを
「異世界での実績解除は、条件を満たすと勝手に視界に表示されるのか」
◆【初めての異世界飯】
※実績が解除されました。
パンを食べたときに耳慣れたSEと共に表示されたので、実績解除のルールは理解した。
「初回戦闘勝利に初心者向け『鉱山』ダンジョンの攻略、この辺は簡単そうだな」
視界に浮かぶ「基本実績」のリストは、分かりやすいものが多い。
だが、横に並ぶもう1つのタブ「ルート実績」は何のことやらさっぱり分からない。
「【ルート実績】……分岐ルートみたいなものか?
でも、どうやって進めばいいんだ?」
頭を抱えた俺に、黒猫がそっと体を寄せてくる。
なんとなく癒されつつも、現状の問題は解決しない。
「どっちにしろ戦闘は避けられないな。
初期ポイントで生活スキルを取ったけど、戦闘が『拳法1』じゃ心許ない」
:オートマッピング(※歩いた場所を地図として記録)
:拳法1(※素手での攻撃力+)
:悪喰(※料理しなくても生肉くらいなら食べられる)
:鑑定1(※ターゲットのステータスを確認できる)
:アイテムボックス拡張(※どこでもアイテムボックス量増加)
俺は猫の頭を軽く撫でると、散策中に見つけた異世界らしい建物を目指した。
「やっぱり、こういう時は定番の『国営冒険者ギルド』だよな」
★ ★ ★
石造りの威厳ある建物。入り口には大きな看板が掲げられ、剣士や魔法使い、付与術師らしき冒険者たちが行き交っている。
「いやあ、本物はやっぱ迫力あるな……」
スーツ姿の自分がこの中に入るのは浮いてる気がする。
だが、一瞬の
内部は明るく、カウンターには金髪の受付嬢が座っている。
壁際にはクエストボードがあり、冒険者たちが酒を片手に賑やかに語り合っている。
「すみません、パーティーを探しているんですが……」
緊張しながら受付嬢に声を掛けると、柔らかな笑みを浮かべ、優しい声で応じてくれた。
「ありがとうございます。まずは魔導書に手を置いて、登録をお願いします」
「あ、はい」
受付嬢に促され、魔導書に手を置く。
魔導書は淡い光を放ち、彼女の前に俺のステータスを映し出した。
「あー……」
受付嬢の言葉が詰まり、笑顔が固まる。
明らかに見てはいけないものを見たような表情だった。
「……大変申し訳ありませんが、レベル1で全ステータス1の無職の30代の方にご紹介できるパーティーは……ございません」
心がえぐられるような台詞に、俺はかろうじて笑顔を保った。
受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げる。
「あの、もし可能なら一人でも腕を磨けるような低レベルのダンジョンとか、そういうのも難しいですか」
「うーん、低レベルですか……今は最も低いダンジョンは事情により閉鎖されていて……それに、お客様のステータスでは、あまりにも危険すぎて冒険者登録もできません……」
「……そうですか」
自分の未熟さを痛感しつつ、ギルドを後にしようとした時――。
「ユウギさん!」
振り返ると、そこには高校生たちの顔ぶれがあった。
剣士の二階堂ツルギ君、魔法使いの志藤ジン君、治癒師の比良カナデさん、小柄な弓師の鹿倉カキネさんだ。
「おや、キミたちもギルドに?」
「ええ、クエストを始める準備をしてるんですよ!」
二階堂君は明るい声で答える。
典型的な熱血主人公タイプだな、キミ。
その隣で、マスコットのような鹿倉さんが、好奇心いっぱいの目で俺を見上げていた。
「おじさんもクエストするの?」
「いや、俺はステータスの都合で断られたところだよ」
自嘲気味に言うと、高校生たちは苦笑した。
気まずそうに言葉を選ぶ彼らの姿が、余計に胸を痛くする。
「でも大丈夫ですよ!
僕たちが平和を取り戻しますから!」
二階堂君は爽やかな笑顔を浮かべ、拳を握りしめる。俺の視界では背景に炎すら見える気合の入りようだ。
「俺たちの任務は、この辺りを荒らしてるモンスター退治からです!」
「おー、すごいな」
立派な目標に感心しつつ、俺は彼らを見送る。
「俺も何とかして、生き延びてみるよ」
「ええ、街で安全に待っててくださいね!」
若々しいエネルギーに溢れる彼らの姿を見送りながら、俺は一つの決意をした。
召喚英雄チームは人類の平和維持に進む王道ルートならば――。
「俺は俺で、やれることをやる……まずは、自分の道を探すところからだな」
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🌸次回:第3話 初戦闘は武道家のように↓
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