第3話 初戦闘は武道家のように
「兄ちゃん、今日も素材ありがとな!」
RPGゲームでよく見かける素材屋のオジサンは、今日も俺の素材を買い取ってくれた。
「毎回、質の良い素材を持ってきてくれるから、ほんと助かるぜ。
兄ちゃん、腕のいい冒険者だな!」
「あはは、実はまだ、無職でして……」
「ぬぁあにぃ! そうなのか!?
傷一つない鉱石や質の良い木材や鉄を持ってくるから、てっきりそうだとばかり」
「ガラクタ集めは得意ですから!」
ナイトブレードライダー4099では、街中のガラクタを大量に集めて売ることで、実績解除できたからな。異世界でもきっと解除できるはずだ。
「そうか、んじゃ準備資金集めってわけだな」
「そ、そんな感じですかね」
国立ギルドで冒険者登録できないけど、フリーの冒険者みたいに生きていけるだろうか。でもフリーだとクエストとか受けられなくて、実績解除には向かないかもしれない。
「となるとあれだな、兄ちゃん世間知らずだから先に言っとくがよ……」
素材屋のオッサンは声を潜め、俺へと手招きする。
「噂じゃあ、ならず者ばかりが集まる違法冒険者ギルドがあるらしい。正規じゃないからレベルに見合わないクエスト紹介もされるようだから、気をつけてな」
「は、はい、ありがとうございます!」
「登録するなら国立冒険者ギルドにしときな」
オッサンはニッと白い歯を見せて笑い、俺はそそくさと素材屋を後にする。
国立冒険者ギルドで断られたばかりとは流石に言い出しにくい空気であった。
「けど実際、このままガラクタ分解してても、いつかは底を尽きるよな」
歩きながら将来の事が心配になってくる。
異世界で生活基盤を固めるには、俺もいつかは冒険に出なくてはいけない。
「オープンワールドゲームみたいにダンジョンに入って、住みつく盗賊のねぐらから、全てをかっぱらってくる事ができればいいんだが、実際はインパクトありすぎる行動だし、できるもんなのかな……」
ましてや国民的RPGのように人様の家のタンスを調べるわけにもいかず、顎に手を当てて空を仰ぎ見ると黒い尻尾が視界を横切った。
にゃーん。
「あの時の黒猫さん」
さっきパンをあげた黒猫が、塀の上からじっと俺を見ている。
彼女? は視線が合うとまるでついて来いというように、少し歩いては振り向いてこちらを見てる。
「……案内してるのか?」
黒猫は大通りを抜けて脇道に逸れ、荷物で通行止めの狭い路地も進み、段々薄暗い道へと入っていく。
「物騒な道だな……」
だが幸いなことに物取りや浮浪者はおらず、たまに謎の虫を見かける程度で危険なく黒猫の後を追う。
おそらく十分も歩いていないが、気持ち三十分ほど経過したころ、地下水路への道を辿り、さらに地下への階段の前で黒猫さんの姿が消えた。
「この階段の下が終着地点か」
湿った階段に気を付けながら薄暗がりの中を進んでいくと、背丈が二メートルほどある大男が、扉の前で仁王立ちしている。
「ど、ども……」
とりあえず挨拶してみるが、大男は口を開かない。
すると何処から出てきたのか、大男の足元をにゃーんと黒猫がすり抜け、男はハッとした表情ですぐにドアを開けた。
扉の中に黒猫が滑り込むと、お前は入らないのか、と言わんばかりの視線を投げつけてくるので、俺も扉の中にそそくさと入り込む。
「あ、ありがとうございます」
中は薄暗いがランプとろうそくにより、ほんのり状況は理解できる。
一言でいえばガラの悪い者達が集う酒場だ。
その奥にはギルドカウンターのような場所があり、気怠そうに机に突っ伏している受付嬢の姿が見えた。
もしかしてここが素材屋のオッサンが話していた、違法ギルド――!
けど国立ギルドに登録できないならば、ここでクエストを探すのも手かもしれない。ギルドはギルドなんだから。
「あの、空いているパーティーか、初心者でも出来るクエストを探しているんですが」
カウンターに倒れていた受付嬢はゾンビのような緩慢な動きで顔を上げる。顔面は蒼白で化粧の色が濃く、ツインテール。何とも個性の強い女性だ。
「あんたどうやってここに来たの……」
「ど、どうって」
「ガイルの野郎……また門番さぼりやがったな……」
舌打ちしながら俺の頭からつま先まで見て、くくっと彼女は笑う。
きっととステータスを確認したのだろう。
「紹介できるパーティーはない。
どうしてもっていうなら、あんたの後ろの誰かを納得させることだね。さもないとパーティーを組んでもお背中から刺されて即あの世行き……」
振り向くと筋骨隆々で世紀末を生き抜いてきたような肩パッドを付けたモヒカンたちが、ナイフを舌で舐めながら、下品な笑い方をしている。
「じゃ、じゃあクエストのみだと……」
「クエストは紹介してやってもいい」
「ほ、ほんとですか!」
「ああ、好きなのを選びな。ここのゲロ掃除か便所掃除だけどな、げへ、へへへ……」
受付嬢の笑いに合わせて、屈強な男たちも手を叩いて笑う。
「さあ、分かったなら、怪我する前に回れ右して今すぐ出てきな……ここはあんたみたいなオッサンが迷い込んでいいとこじゃないんだよ……」
手をヒラヒラして俺を追い返そうとする受付嬢さんを見て、俺はピンときた。
「そうか――あんた、俺を心配してたのか」
「な……!」
受付嬢は予想外の答えだったのか、うっと身を引く。
怪我する前に、なんて、転移前では言われたことがない。本来の世界では注意すらされないのがオッサンなのだ。
「なら誰でもいい、相手になる。それでパーティーを組んでくれるだろ」
自分でも不思議だが、怯えることなく、すんなりと言葉が口から漏れた。
転移前なら、怖くて何も言えなかっただろうに。
さあて護身用で取得した拳法1の力はどの程度か。
ナイトブレードライダー4099ではあってもなくても変わらない程度のパーク。
けど、この感触なら、おそらく。
俺はこぶしを握り、一番強そうな男に指を指す。
『レベル20の闘牛のバッカスを指名しただと?』
『あのオッサン、骨身も残らんぞ』
『誰か雑巾の準備しとけ! 血がはじけ飛ぶぞ』
闘牛のバッカスと呼ばれた巨漢の男は顔を真っ赤にして、手に持っていた酒瓶を粉々に粉砕する。
----------------------
■ステータス
□名前 :闘牛のバッカス
□レベル :20
□職業 :戦士
□ステータス:体力50、力50、魔力5、器用10、素早さ10、運30
□保有スキル:猪突猛進(※ターゲットへ力100%分の追加ダメージを与える)
----------------------
「さあ来いよ、俺も試してみたかったとこだ」
構えたこともないファイティングポーズを取る。
頭の中でイメージするのは「ナイトブレードライダー4099」の操作画面だ。あの世界で俺は幾度となく敵を撃破してきた。その動きを身体に思い出させる。
「おまえ おで おこらせた」
リアルな『おでキャラ』を初めて見たと感動しつつ、相手の動きをよく見る。
するとバッカスの人影に沿って緑色の光が囲んでいるのが見える。
――やっぱりそうだ。
「うおおおおおお!」
バッカスは腰から素早く小型の斧を取り出し、俺目がけて突進してきたが、俺はゲーム内で幾度と行ってきたサイドステップをイメージして脇に避ける。
「レベル1 おでの 早さ よけた !?」
そしてただ、出せる限りの力で『素人右ストレート(拳法1補正)』を放った。
彼の脂肪に俺の腕が突き刺さる。
腕を引き抜くと、苦しむ声もなく、バッカスは地面に崩れ落ち――。
――沈黙。
あまりにも予想外の結果に誰もが無言で、俺は試合が終わった武道家のようにぺこりと頭を下げる。
それと同時に狭い室内に大歓声が鳴り響いた。
----------------------
パークポイント:20入手
----------------------
◆【初回戦闘勝利】
※実績が解除されました。
…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…
🌸次回:第4話 黒の魔女↓
…━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…
――――――――――――――――――――――
読んでいただき、本当にありがとうございます!
★(レビュー)やフォローが執筆の大きな力になります。
感じた気持ちを気軽に教えてもらえたら、とっても嬉しいです!
――――――――――――――――――――――
◆ アプリの場合
「目次」タブの隣にある「レビュー」をタップ→「+★★★」
◆ ブラウザ(スマホ)の場合
「目次」を一番下までスクロール→「+★★★」
◆ PCの場合
あらすじページを一番下までスクロール→「+★★★」
※または最新話の最下部の「+★★★」ボタン
――――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます