彼の吐き出したかったものは何か。

同窓会に参加した主人公は、一人、酒を舐めている。
話したいから話す、ということができない。
気の利いた話が振れないからあきらめる、を選択する。
そんな男だ。

失敗をおそれ、ただひたすらに視線を投げかけ、思い出に浸る。
理想の自分と現実が乖離している。
何もできない自分に苛立ちつつ、そんな自分がかわいい。
屈折している。

嘔吐は通常、胃の内容物を吐き出す行為だ。
そんな行為に託し、作者が彼に吐き出させたかったものは何なのか。
答えは明確な言葉では提示されない。
おそらく正解もない(と私は思っている)。
読者は、「このような“何か”なんじゃないか」と、想像を巡らせることができる。
それは、「何か」を吐き出したことのある者の、一種の特権だ。
私は、あれなんじゃないか、と思っている。

吐き出してしまえば、とりあえずはすっきりするのである。
まあ、性懲りも無く、また飲むのだけれど……