夜ふけのないものねだりにガツンとやられる

駄弁り、愚痴、欲求と欲望の吐露——
女子大生が延々と飲んではしゃべる。
語りがリズミカルで心地よい。
だらだらとした、なんでもない描写の積み重ね。
それでも時間は前に進む。
そんな時間がいかにかけがえのないものか、数年後にようやく気づく。
そういう作品なのだと思っていた。

ちがった。
途中で世界が反転した。
同時に語り手も変わった。
構成がうまいと唸った。

時間が後ろにも進むものなのだとしたら。
井上陽水ではないが、行ってみたいと思いませんか。
前半のだらだらがひっくり返り、空気が張る。
つまりは前提がなくなり、なんでもアリの(もしくは何もない)、焼け野原となる。
禁忌にも似た悪魔の誘惑である。

ただ、その欲望の本質は、時間遡行では補完できない。
結局はないものねだり。追体験はできても、初体験は帰ってこない。
ベタつく居酒屋の床をしっかり踏みしめ、時々感傷に浸り、どうにかこうにか明日を生きていく。
それが現在を生きる人間の矜持というものではないか。

深夜の女子大生のなんてことのないやりとりに、ガツンとやられたのでした。