魔剣クロノスを得るために!

日々菜 夕

第1話

 この物語はフィクションです。登場する人物。地名、団体名等は全て架空のものです。





 私は、村長の娘として次に行われる王都での試験にどうしても合格したかった。


 先生は、元――魔剣クロノスの使い手であり。


 父も全幅の信頼がおける者だと言って喜んでいた。


 だからだろう。


 最近では、お酒を飲む時。


 だいたい先生を呼んでは一緒になって楽しそうに飲んでいる。  


 その席で、父がとあるお願いをしていたのを――私は、聞いてしまった。


 正直なところ、私と先生では、かなり年がはなれている。


 でも、私は嬉しかった。


 なぜなら、私自身。


 先生に、恋心を抱いていると自覚していたからだ。


 だからこそ試しておきたかった。


 先生にとって私が、ただの生徒ではなく。


 一人の女性として見てもらえるのか否かを――





 父とお酒を堪能し終えた先生が帰る時間に合わせて。


 私は、先生の住む家へ向かった。


 と、言ってもすぐ隣の家なのだが……


 元々は、父が趣味でやっていた錬金術の小屋である。


 残念な事に父には錬金術師としての才能が無く、ただの物置と化していた。


 そこに、転がり込んで来たのが先生という流れである。


 流れ者と聞くと、少し不安に思う人もいるかもしれないが。


 先生は、立派に最前線で戦ってきた傭兵である。


 邪心メダスと女神ティアの争いは、まだ終わってなどいない。


 もしも、この村が標的にされたらかなり厳しい選択を迫られる事になるだろう。


 そうならないためにも、私は今度の試験に合格し魔剣クロノスの使用許可を得たいのである。


 頑張って、魔剣クロノスの所有者になれれば――


 この村の安全度は格段に上がる!


 でも、自信がなかった。


 本当に、私程度の魔法使いが試験に合格出来るのだろうか?





 私は、木のドアをノックしてから――


「先生! 夜分遅くに失礼いたします!」


 やや大きめの声で先生に私が来たことを伝えた。


 こうして、夜に先生の元へ訪れるのは始めてであり。


 色んな意味で緊張していた。


 しばらくすると、ドアが開き。


 中からこぼれ出たランプの明かりが私を照らす。


「どうしたんだい、ロゼット? こんな時間に一人で……それも私しかいない所に来るなんて」


「先生に会いに来たに決まっているじゃないですか」


「私に……?」


 先生は、無精ひげの生えたあごの辺りに右手をあてる。


 考え事をする時に見せる先生のくせである。


 つまり、私がどれだけの覚悟を持ってここに立っているのか全く気付いていないということだろう。


 だからこそ先生の金色の瞳をまっすぐ見すえてはっきりした口調で言う。


「先生! 今晩、私を先生の女にして下さい!」


「おいおいおい。何を言い出すかと思えば。自分の立場を分かって言ってるのかい?」


「分かってないのは、先生の方です! 女の口から抱いてほしいと懇願しているのに、なぜ入れてもらえないのですか?」


「それは、今でこそ、先生なんて呼ばれる事をしてはいるが、元傭兵の流れ者だ。とてもキミと釣り合うとは思えない」


「それは、先ほど父と話している時に聞き飽きました。なぜ父の申し出を拒むのですか!?」


「聞いていたのか……」


「はい。正直なところ。先生が折れてくれるのを願っていました」


「だが、聞いていたのなら分かるだろう? ロゼット。キミにはもっとふさわしい男性が居るはずだ」


 話が平行線になるだろうことは予測済み。


 ならば、押し通すまで!


「それも、先ほど聞き飽きました! 私が先生に恋焦がれるのは、そんなに悪いことですか!?」

 

「悪くはないがって……。ロゼット? キミは私に恋心を抱いているのか?」


「はい! 抱いてます! 朝も昼も夜も! 夢の中でさえ先生の事で頭がいっぱいです!」


 さすがに言い過ぎかなって少し思ったけど。


 もう止まらないし、止めたくもない!


「う~ん……」


 先生は、茶褐色の短髪を両手で抱え悩んでいる。


 おそらくは先ほど父と問答していたように、いかにしてこの場をやり過ごすのか?


 と、言ったところなのだろうが。


 すでに私は、切り札を持っている。


「先ほど、先生、おっしゃっておりましたよね! 私の気持ちを無視して婿入りの話を進めるのは良くないって! ですが、私の気持ちはすでに先生の物! ならば後は先生次第! もう一度、言います! 私を先生の女にしてください!」


 私は、先生の胸を両手で押し!


 勢いそのままで――先生をベッドに押し倒し唇を重ねました。


「ん……ぐむっ」


 先生は、なんとかしてこの状況を変えようともがいていますが、その力は思っていた以上に弱弱しく。


 私のなすがままになっています。


 ――勝った!


 そう、実感してから私は少し体を起こします。


「先生? 私の事、軽蔑しますか?」


「いいや、私――いや、俺の負けだ」


「ふふふ。やはり先生の一人称は、私ではなく俺の方が似合ってますよ」


「わかってはいるさ。だがな……」


「先生として振舞うには切り替えが必要だった。でしょう?」


「あぁ。その通りだ」


「では、玄関のドアを閉めてきますね」


「本気なんだよな?」


「ふふふ。ここまでした女性がいまさら逃がすとお思いですか?」


「いや、最終確認をしたかっただけだ。なにぶん俺は、この手の経験がない。ゆえに加減が出来るのかどうかもわからん」


「いいんですよ。最低限の事は、母から教わっていますから。先生は服を脱いで仰向けに寝て下されば良いんです。後は私がどうとでもしますから」


「分かった。任せよう」





 翌朝――


 私は、先生の隣で目を覚ましました。


 下腹部の痛みは勝利の証!


 母が言っていた通りだと実感しました。


 女になれば自信が持てるようになると――


 これでもう大丈夫。


 何があっても王都へたどり着き。


 試験を突破し魔剣クロノスを持って、この村に戻ってくるだけだ!


 



 



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魔剣クロノスを得るために! 日々菜 夕 @nekoya2021

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