エピローグ 05

「――さて、この間の追走劇は怪盗ハルマに見事に逃げられたわけだけど、ここで朗報だ。なんと先日盗まれた絵画『月の囁き』が請求書と共に美術館に届いたんだ。しかもメモ書きのおまけつきで。それがこちらだ!」


 :見たかった奴だ!

 :有言実行じゃん

 :さすハル

 :怪盗の字汚いな


「メモには走り書きでこう書いてある。『売れそうにも無いので返却します 怪盗ハルマ』だってさ。まったく、怪盗ハルマってのはどこまでも憎めない男だ! これらはメモ書きも含めて全部市立銀の丘美術館に飾られるらしいから、みんな見に来てくれよな!」


 そこまで聞いてハルマは配信を閉じた。


「……見に行くのはミーハーな奴ばっかりなんだろうなぁ」

「まったく、性格が悪い」


 ハルマの呟きにマイは苦笑する。


「私に怪盗ハルマって書いてなんて言うから、何事かと思ったら」

「偽物の予告状に対する意趣返しにはピッタリだろ」


 かつて偽の予告状で箔が付いた絵画が展示されていた場所に今、怪盗が返却した絵画と一緒に偽の署名が入ったメモが展示されている。

 目には目を、偽物には偽物を。

 そう思い、ハルマはわざわざマイにそれを書かせた。


「ラジオだけはメモが偽物だってのは気付いてますね」


 チェノワが口を挟んできた。


「あん?」

「今に至るまで怪盗ハルマが書いたとは一言も口にしませんから」

「……あれを騙せる奴なんているのかね」

「騙せますよ。世界中が協力すれば」


 チェノワはさらりと恐ろしい事を言う。


「ところで、あの絵画の裏に何を書いたんですか?」

「……何で知ってるの? 誰にも見られてないと思ったのに」

「なにそれ気になる」


 チェノワの話にマイが乗ってくる。

 ハルマは少し悩んだ後、一息ついて答えた。


「俺のファンだって言う高校生に向けて裏面にメッセージを書いたんだよ。嘘つきは泥棒の始まりだって」

「その心は?」

「うまい話には裏がある」

「…………」

「今のは質問者の見る目が無いと言わざるを得ませんね」

「こ、恋は盲目だから!」

「……その擁護の仕方はやめて。胃に穴が開く」

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道化の怪盗と最強の配信者(カクヨム10【短編】用) ナインバード亜郎 @9bird

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