パブロンに対する誤解と謝罪
脳幹 まこと
詰まりが取れた話
パブロンというのは鷲のマークの大正製薬が出している風邪薬であり、私が「どんなことがあっても買うまい。仮にドラッグストアにそれしかなかったとしても」と思ってきたものである。
なぜか。
あのパブロンという薬、長年CMが流れているのだが、そのたびに解せないシーンを入れてくるのである。
その部分というのは、CMの終盤にある。
おそらく風邪を引いた子供の母親と思しき人物がクライマックスに決め台詞みたいものを発するのだが、
それが、
「引いたよね? 早めのパブロン♪」
なのである。
私はこのCMが聞こえるたびに、なんで毎回煽ってくるんだろうと思っていた。
相手が風邪であることをわざわざ確認してから、遅すぎたアドバイスを送っているのだ。
なんという意地の悪さだろうと思った。
親しげに語っているが、実際のところはこんな心持ちだったのだろう。
「あーらまぁーおカワイソウに。早めにパブロンしとけばこうはならなかったのに、ねぇ?」
私の怒りが正当なものであることを、ご認識いただけただろうか。
皆さんの胸の内にも義憤の炎が宿ったものと仮定して話を進めたい。
しかし、事はそう単純な話ではなかったのだ。
晩秋のころ、私は風邪を引いてしまった。熱や咳はなかったが、酷い鼻詰まりに悩まされた。
このままではいけないと思って、最寄りのドラッグストアに立ち寄ると、置いてあるのだ。あのパブロンが。
無論、他の風邪薬もある。だからそれを選べばよかったのだが、引き始めの風邪の諸症状による判断力の低下からか、私はパブロンのゴールドを手にレジに向かったのだ。
どういうかぜの吹き回しだろう。
私は黄色の粒を口に含んだのである。ちなみにこの時はまだ煽られていると思っている。
身体を暖め、長い睡眠をとった。
そして――
すべてがなおった――
私の心は春の大地の雪解けのように、穏やかな気持ちになっていた。
これから冬なのに。
朝のニュースを見ようとテレビをつけた時にそれは訪れた。
「きいたよね? 早めのパブロン♪」
私は振り向いてパブロンゴールドの瓶をキッと見つめた。
得心がいった。
陽光が私を照らす。
間違っていたのは――
私の方だったというのか――
光に向けて手を組み祈りを捧げた。
きいていなかったのは――
私の方だったというのか――
本当に詰まっていたのは――
耳の方だったというのか――
つまり――
パブロンに対する誤解と謝罪 脳幹 まこと @ReviveSoul
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