設定がものすごく面白くて、「いいもの読んだ!」と強い満足感がありました。
奏多は、自分の知っている稀花の首が別人のものに入れ替わっているのに気づく。
なんらかの怪異が胴体を奪って生活しているのか。そう疑った奏多は、どうにかして相手を退治できないかと模索し始める。
都市伝説的なホラーを軸としている作品ですが、その実はSFなどでも取り扱われる「高次元な世界の理」が描き出されていたりと、意外性のある展開や設定の連続で、最後まで何度も感嘆させられながら読みました。
それでいてボーイ・ミーツ・ガールな初々しさや昂揚感もあったりと、ホラーでもありSFでもある青春小説でもあるという、とても贅沢な味わいのある作品でもありました。
そして最後の一行で出てくるオチ。「そこに行っちゃってたの?」とちょっと笑えてしまう感じも。細部まで気の利いた、とても面白い一作でした。
主人公である高1男子「奏多(かなた)」の好きな女子「稀花(きか)」は、渋谷駅東横線線路内に転落し死亡する衝撃的な幕開けとなります。
翌日現れたのは頭部だけ別人にすり替わった女子「奇花(きか)」。
首筋のツギハギが嗜虐的な彼女、実は稀花の胴体を奪って稀花に成りすましたオバケなんです。
しかもただの成りすましでは済まないところが恐ろしい。
なぜこのようなことが起こりうるのか。
これには物理の法則性上に成り立つ世界線という概念が関わっており、論理でホラーを語る切り口がとても印象的かつ斬新な印象を強く受けますね。
その法則に不正が起こると、そこから生じる歪みから死んだ人やオバケといった非現実的な存在との共存が見え隠れするとのことで、展開されるSFホラー要素に舌を巻きます。
あの世とこの世とが繋がる時空線。
死んだ稀花との接点がこれにより織り成されこれまでにない恋愛ホラーとして醸成してる点で興味深いです。
作者様オリジナルの時間ループを絡めたの複次元的なSF恋愛小説です。深いです。
難解すぎる、と一話を読んで思いました。どなたか解説をお願いしたく存じます。
しかし、巧みな文章から極彩色の映像世界が想像できます。とても綺麗なアニメを見ているような感覚になるのは、きっと私だけではないでしょう。
その極彩色に触れたくて、何度も読み返しました。
そこに描かれるもの、作者様の伝えたいこと、なんとも、2000ピースくらいで作られるパズルの絵画の一片のように、見つけるのが難しいです。
印象に残ったのは、奇花が言っていた世界線の話。
パラレルワールドだと自分は思ってしまったのですが、バタフライエフェクトという言葉もあるように、この主人公の男の子・奏多が稀花にしたことは、おそらくこの世界の秩序(もしくはそう認識できるもの)を一瞬で壊せるだけのものだったのだと思います。
それは、そうなるように仕組まれていて、偶然を装いそうなった、とも言えるのでは。
また、これは予想もされず、誰の意図でもなく起こったこと、とも言えますね。
彼女たちが継ぎ接ぎなのも、誰がそれを普通じゃないと断言できるのでしょうか。
もともと胎内で双子だった胎児が、キメラという状態で、一つの体で産まれることもあるそうです。
誰が、人間の体は、その人一人だけのものだと決めつけられるでしょうか。
無数に広がっていく宇宙の中から、それでも奏多は稀花を見つけ出したいと願ったのだと思います。最後の着信は、この雑多で確かなものの無い信じがたい世界を、「あなたの存在を信じる」というメッセージを持って奏多に、私たちに寄越したものなのでは、と私は思います。
作者様の意図するレビューでないと思います。こちらのレビューは不適切でしたら削除いたしますので、よろしくお願いします。
作者様の描かれる世界が、なんとも奇妙であるのに美しくて、見入ってしまいます。
この作品を読んだ皆様のレビューという名の解答が、もっと見たくなる。そんな作品です。
追記
最後まで読了致しました。
そういうことだったんだね。と思うのと同時に、世界線はいつまでたっても、何回ループしても壊れたままなのだと。
でも、それも仕方ないのかもしれない、それだけのバタフライエフェクトを彼らは起こしてしまったのだから。
なんとも難解な世界観に、やるせない複雑な思いです。
いつか彼らが、この三角関係の無限ループから解放される希望を見出だすのを期待します。
作者様、素晴らしい切ない物語をお届けくださって、ありがとうございました。