早く、早く、手にしてね。
鈴ノ木 鈴ノ子
はやく、はやく、てにしてね。
よく、聞いてほしい。
過去の若者達よ。
今を生きる若者達よ。
21世紀を生きる者達よ。
君らに宛てて送る。
君らの世界にはようやくAIが手に取れる時代となっただろう。
きっと今はスクリーンに映る人々が、本当に生きているのか疑わしいことがあることだろう。
生きている人物すら真似ることが容易く、ディープフェイクの動画が溢れる世界となっただろう。
人間の手によりAIは学習した。
顔の作りや動き、人体の作り、筋肉の動き、根本たる解剖学を学んだ。
数年後には、各種臓器を作る出すまでに進化するだ。
頭の半分を吹き飛ばされた兵士の脳を補助するものを、酒で壊れた肝臓を修復するものを、癌を早期発見するための検査を、そう、移植のための臓器だけではない、保険ビジネスとしての予備臓器までを作り出す世界となるのだ。
人間の手によりAIは学習した。
臓器の作り方を、骨の作り方を、血液の作り方を、人間がいかに脆く、回復にどれくらいかかるかを学んだ。
数十年後には、人間を生み出すまでに進化するのた。
女性が命を賭けて子を産むのを和らげるため人工子宮を作り上げ、遺伝子操作で病気を無くし、髪の色から瞳に肌と変え、スキャニングで不都合があれば自動的に消去するまでになるのだ。
人間の手によりAIは学習した。
どのような人間が受け入れられやすいか、外見的特徴を、どのような遺伝子操作が人間に好まれるのか、消去にはどのようなパターンがあるのかを学んだ。
1世紀後には、人間と変わらぬ人工生命体を作り出すまでになった。
作り出された生命体は人間と変わらぬ成長をする。子供から大人へと成長してゆき、やがて仕事についてゆく。
大半の仕事は人工生命体がこなすようになり、人間は古代ギリシャの思想家のように、日がな一日を過ごしてゆく。
強烈な文化と思想が数多く芽吹いては花を開き、文学は高みへと発展し、数多くの作品が生み出され、人間の心理の探究は格別に進んだ。
人間の手によりAIは学習した。
仕事はどのようにこなすのかを、社会構造とはどのようなものかを、悠久の歴史を、宗教や思考や思想、人類が長い月日をかけて磨いた文化を、そして人を人たらしめる心の構造を学んだのだ。
1世紀と少しの後、人間と人工生命体の間に子供が生まれた。可愛らしい子供だった。
父は人間であり、母は人工生命体である。
遺伝子技術の粋を集め、大多数が不自然に思わぬ好ましい顔を、傷まぬ臓器と回復力の強い体を、思考の早い脳を、そして最先端で最適化された教育を受け、素晴らしい人間となった。
技術が立証されると誰もがそれを求めた。
拒否を示した人々は、徐々に、徐々に端へと追いやれてゆく。
求めた者は融合派と呼ばれ、拒否した者は分離派と呼ばれている。
融合派の能力は高く、分離派の能力は低い。
遺伝子操作をところどころ拒否した故に、脆く、壊れやすいのだ。
身も心も。
私は憂慮している。
この先に融合派と分離派は戦争となるだろう。認める者と認めぬ者はいずれ戦いとなることは歴史が証明しているのだ。
だからこそ、21世紀の若者よ。
その時間をもっと早めてほしい。
疑わずに、争わずに、素直に加速させてほしい、緩やかな歩みを、早急な歩みに。早足を駆け足に、次々と新しいことに触れ、技術をもっともっと手にしてほしい。
積極的に取り入れて、発展させ、それが人類に有用であり、便利であり、必ず取り入れるべきであると吹聴して周知してほしい。
反対する者を切り崩し、理解させて仲間にしてほしい。改宗させるようにしっかりと教え込んでほしい。
そうすればやがてくる世界に、分離派を生み出すことはなくなるだろう。
新しい未来の人類を、早く早く生み出すために協力してくれることを期待している。
心からの願いを込めて。
新人類より託す。
早く、早く、手にしてね。 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki
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