第2話

 ジュゲム学園。俺はそこへ平民として通うことになった。家族や国家にとって特別な立場にある者が多い中で、俺は強さだけで突破した。本来の主人公は何があったか知らんが、おそらく補欠合格だろう。運の良さだけで物語が進み、主人公と仲を深めるヒロイン達もその運に巻き込まれたに違いない。


 心底どうでもいいがな。


「君強いなぁ! 見たよ、あの試合! ああ、自己紹介してなかったな! 俺はアグナ・レギアス!」


 割り当てられた席につくなり親しげに声をかけてきたのは王子様のような振る舞いをする青年。主人公にとって一番な親友であり、最終的にヒロインを寝取って主人公を裏切る奴だ。


 ヒロインとの親密度が高まるたびにこいつとの敵対度も高まる。


 差し出された手は握り返さず、一瞥向けてから外す。やり場のなくなった手をどうするか少し迷った後、レギアスという青年は引き攣った笑みを浮かべた。


「あ、あのさ! 俺、君みたいに強くなりたいんだけどどうやったら────」

「失せろ」


 言葉を遮り、有無も言わさず視線を向ける。教室内の空気が氷点下まで落ち込んだのを感じたが、俺の意思は微動だにしない。


 別にこいつにヒロインを寝取られるから敵対意識を持っているわけじゃない。それは心底どうでもいい。


 ただこいつが弱いからだ。俺が興味を引くだけのものを何一つ持っていない。それが何よりもこいつに対して構ってやる理由がないだけだ。


「い、いや折角クラスメイトになったんだし、もっと仲良くしよう────」


 ザンッ。レギアスの背後に斬撃の痕跡が刻み付けられる。廊下にいた者達は俺の攻撃が行われたことを窓硝子が砕け散った後に理解し、悲鳴を上げた。


 ただ何が起きたのかは分かったとしても、何故やったのかは分かっていないらしい。レギアスは勢いよく尻餅をつき、近くにあった机をひっくり返す。


 それを俺は静かに見つめ、嘆息を漏らした。


「弱者の馴れ合いはお前らでやればいい。俺に構うな」


 そう言い残すと、沈黙に満たされた教室を出ていく。廊下で何人かの生徒とすれ違おうとしたが、そいつらも勝手に道を開けた。


 つまらん。

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寝取られ主人公に転生したのでひたすら切り刻むことにした件 散漫たれぞー @ptra

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