寝取られ主人公に転生したのでひたすら切り刻むことにした件

散漫たれぞー

第1話

「ぐ、がぁ……はっ」


 男性が膝から崩れ落ち、地面を流血で池を作る。顔色からは血の気が引いていき、命の鼓動は少しずつ途絶えていく。


 その様を一人の青年はつまらなさそうに見下ろした後、踵を返した。それが契機となり、空に声が谺する。


『しょ、勝者アスラ・カルラ……!』


 だが、反応する者はいない。野次も歓声もない。観客らしき姿はある。殆どが学生であり、青年と同い年くらいに見える。彼と男性の周りを囲むように観戦しており、誰も声を上げられなかった。


 あまりにも圧倒的過ぎて、誰一人言葉どころか声を発する余裕さえなかったのだ。


 青年はそんな彼らに関心を示すことなく、立ち去っていく。その姿はまさしく覇王であり、とてもじゃないが正義を志すはずだった者には見えない。


(つまらん。あれが本来この俺から女を寝取るはずだった男の一人というわけか)


 青年は周囲の畏怖の込められた視線の一切を無視し、一定の歩幅で歩く。若干前傾姿勢なのは彼が常に戦闘態勢に入れる証左だった。


(この世界に転生させられたはいいが、この俺を魅せてくれる者は現れないものか……)


 青年の口から溜息が零れる。その瞬間、周囲にいた者達は無造作に膨れ上がった殺意に気圧され、道を開けていく。彼に周囲を害する意思は微塵もない。興味すらない。


 ただ不機嫌なだけだった。


(取り敢えず主人公の敵は皆殺しにする。たとえ、ヒロインと呼ばれている者達であろうとな)


 主人公は主人公ではなかった。ただ強き者を求め、強き者を屠る破壊者。


 大災を好み、災禍を引き寄せる鬼神だった。

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