二、紅 ナツヒ
数日後。
キサラは
あの後、泥で汚れた橋の上で
お互いいくつかの条件を提示して、最終的に住み込みで働くことに同意した。
「
予定よりも早めに到着したのだが、豪邸前には鬼である黒髪の男が二人立っていて頭を下げてくる。
「こちらにどうぞ」
「お荷物をもちましょう」
「坂城先生をお呼びしてきます」
「こちらでお待ちください」
「お茶をどうぞ」
あれよあれよという間に
「円弧先生‼」
気がつけば豪華な椅子に座って、おいしいお茶を飲んでいた。
我に返ることができたのは、慌てて入ってきた坂城のおかげだ。
「お待ちしていました‼」
息切れしながら紙をもって現れた坂城は息を切らしながら、キサラの前に座る。
「早速ではありますが、こちらがナツヒ様の記録です」
持っていた紙を机に置く。
キサラは我に返り、その紙を手に取った。
「ナツヒ様のこれまでの経過をまとめますと……」
「いえいいです」
「本人をみてから、改めて。私、本人をみないとわからないんで」
「わかりました」
坂城はキサラの意見を否定することなく、記録を受け取り、立ち上がった。
「お部屋に案内します」
キサラは坂城の後について部屋を出た。
「ナツヒ様は他者との関わりを好まない方です。私は幼いときからですから、慣れていますが。あまり相手されなくても、傷つく必要はありませんから」
「はい」
気難しいのか。
鬼の中には人間を嫌う鬼もたくさんいる。
医者のほとんどは人間なので、人間が嫌いなのかもしれない。
あるいは、人間と同じように医者が嫌いなのか。
「今まで対応された医者の中には、話が聞けなかった者もいました」
「……心します」
キサラが普段診療する患者は、ほとんどキサラを求めて来る者なので、キサラが質問すると教えてくれることが多い。
ただ、今回は依頼とはいえ、
「こちらです」
立派な扉の前で坂城が止まり、扉を叩いた。
「ナツヒ様、失礼いたします。坂城です。個人医の円弧先生を連れて参りました」
「……ッ」
返事を聞く間もなく坂城が扉を開けると同時に、中の空気が外に
キサラは思わず息を止めた。
水っぽい匂い。
キサラは廊下で大きく息を吸って、中に入った。
「依頼を拒否していたとかいう医者か」
「失礼します、円弧 キサラと申します。診察に参りました」
キサラは坂城に目で合図をしてから、ずかずかと部屋に入る。
部屋は暗く、天気の良い昼間だというのに、窓もカーテンも閉め切られている。
部屋の奥に
キサラは寝台の前に立ち、毛布でできた山を見た。
「この状態が半年前から始まり、この三ヶ月で進みました」
「ナツヒ様、お布団を失礼します」
毛布に手を掛け、めくる。
中から、黒い髪と赤い瞳が見えた。
キサラの黄色がかった茶色の瞳と交差する。
「き、君は……」
赤い瞳はキサラと目が合うと、目を見開いた。
次の更新予定
2024年12月13日 12:00 毎日 12:00
鬼の次期当主は結婚するまで離さない ~治療を担当したら、何故か求婚されました~ 維社頭 影浪 @Ishdws_kgrh
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