絵に魅了された出会いと別れの時代
- ★★★ Excellent!!!
京狩野家に生まれた晋三は、父・永泰の影響を受けて絵を描くことが好きになる。それはもう、子どもながら三日も家を留守にして地蔵尊を写しに行くほどに。そして彼は京狩野の絵師となり、狩野永恭を名乗ることとなる――、後に公家召抱えの復古大和絵の絵師となった冷泉為恭である。
そんな彼に出会った綾野は、彼の絵に感動して弟子入りする。永恭は絵のことになると周りが見えなくなるため、綾野はそんな彼の世話を焼きながらも絵を少しずつ覚えていく。
永恭は純粋であった。純粋に自らの想う絵を理想し、模写するにしても当時描かれた背景を裏側に見て描こうとする。その純粋さ故に、時に誰かと衝突することもある。
彼は絵が好き過ぎたことが影響して、公家の屋敷に気楽に出入りし、門跡である親王とも親しい間柄となっていた。それだけ顔は広く名も知れ渡っており、数々の仕事をこなし、ついには朝廷の臣となり役に就つく。画号も「冷泉為恭」として改め、西洞院通にに屋敷を買い、絵巻の暮らしという夢を叶える。
屋敷で共に過ごす、為恭と弟子の綾野。
綾野にはある秘密があったが、為恭は何も聞かずに彼を傍に置き続ける。
平穏な日々が続くかと思いきや、尊皇攘夷運動が過激化し、為恭も攘夷浪士に狙われる立場となる。
あまりにも浅ましい理由から……。
本作では、絵と人との関わりあいの緻密さの中で揺れ動く感情の機微に震えます。
絵への感動、執着、激情が描かれ、それを愛する心。そして、為恭を中心とした他者との交流は彼の無邪気さ故にどこか救われます。
弟子の綾野もそうだったのではないかと思わせるほどに。
時代は幕末ですが、時代背景や知識はなくとも楽しめる作品となっておりますので、是非、ご一読ください。