第6話 指名手配

「ごああ!!」


 俺の鉄拳をくらいメイス持ちの騎士が地面を跳ねるようにして遥か彼方に吹っ飛ばされていく。


「次はどいつだ? ママの鉄拳を食らいたいのは?」


 残った二人の騎士達もようやく状況が理解できたのか冷や汗額に浮かべながらも腰に差してある自身の得物を握りしめて一気に引き抜いた。


 残る二人は直剣を使うらしい、王都アトスの最強の騎士団ということで装備もそれなりに整っているようだ。素人の俺から見ても逸品の剣だとわかる。


「どういうことだ! こいつはただの奴隷ではないのか!?」


 騎士がもう一方の騎士にそう叫ぶ。

 そうか、こいつらからすればそれ以上の情報がなかったのか。通りでナメられているわけだ。


 俺は拳を握りしめて……そして脱力させた、だらりと腕を自由にして、同時に右手を腰に添える。


「ビビってねぇでこいよ、騎士様。それとももう降参か? 降参ならそれでいい」


 これはいわゆる俺からの提案だった。一人は戦闘不能、残る二人はビビってる。

 もう勝負はついたようなもんだ。

 

 そう、ついてるはずだった。なんで俺はこうクソみたいな言い方しかできなかったんだ?


「……下に見よって!!」


 騎士の闘志が再び灯る音がした。どうやら火に油を注いでしまったらしい。

 俺はバカだ、なんで挑発的な言葉を吐いてしまうのか。


 「生首を晒すがいい! 反逆者があ!!」


 騎士の片方が、そう叫びながら突撃してくる。まずいな仮にも国の中でも精鋭の騎士、手加減はできない。


 「チッ! いい加減に──!」


 死んでくれるなよ、と内心で祈りつつ俺は右の拳を握りしめ、


「しやがれぇぇ!!」


 そのまま右ストレートを放った。空気が揺れ、衝撃波が突撃してきた騎士にぶち当たる。


 そしてあまりの衝撃だったのだろう、騎士の体は吹き飛ばされそのまま背に土をつけてしまった。


 チャンスだ。体勢を崩した騎士に向かって俺は飛びかかる。

 1人戦闘不能にして戦意喪失しないなら2人やってしまえばいいのだ。


「おやすみのキス代わりの鉄拳! いてぇぞ!!」


「くっ!!」


 俺の意図に気がついたのか騎士は剣を水平にして防御体勢をとるが、それでは遅すぎる。


 鈍い音が、森に響き渡る。


 俺の鉄拳は騎士の鎧と意識、ついでに地面を砕いた。

 鉄拳が作った地面のクレーターの上で俺はほっと息をつく。


「ふぅ、これで終わり……」


 いや? 待て終わりなわけねぇ、もう一人が戦意喪失してたか?


「もらった!」


 あ、してない。騎士のロングソードが俺に向かってくる! まずいしまった避けられない!


 単純な薙ぎ払いの攻撃だがそれは弾丸をも凌ぐ高速の斬撃だ。


(防御! 間に合うか!?)


 俺は咄嗟に腕を眼前にクロスさせる。もう防御するしかない。


「全く何やってるのよ」


 その時だった、冷たい空気が頬を撫でたのは。

 するとどうだ、目の前の3人目の騎士がなんと凍ってるじゃないか。


 久々に見たが、相変わらず綺麗な凍結だ。所々にまるで大輪の花の如く騎士の背に氷の結晶が咲いている。


 さすがは俺の相棒だ。


「いつ助けてくれるのか、ワクワクしてた」


「そう、期待通りだった?」


 そう皮肉げに返すのは目を文字通り光らせていたミラナだった。

 俺の相棒ミラナは魔眼と呼ばれる特殊な目を持っている。


 なんでも相手を見つめるだけで凍らせることができるのだとか。

 騎士の見事な凍りっぷりを見るにそれで俺を助けてくれたらしい。


 通称「氷刃の魔眼」と呼ばれるミラナの水色に発酵する瞳にまた感謝しつつ俺は背伸びをする。


「結局3人ともボコっちゃったよ……」


 こんな事件を起こすつもりはなかったというのに、なぜだかなぁ。


「エル、さっさといくわよ」


「わかってるよ! あ、そうそうトランクから薬を出しといてくれ」


「なんでよ?」


「こいつら、目が覚めたら手当ぐらい自分でできるだろ」


「助けるの騎士達を?」


「悪いかよ?」


 するとミラナはおもむろに異次元トランクから回復の飲み薬を取り出して俺に投げつけてくる。


 サンキューと、簡素な感謝を述べた後、俺はとりあえずその薬を騎士に握らせた。


「恨むなよ、俺にもやらなきゃいけないことがあんだ」


 だからこれで水に流してくれ、そんな願いを込めた飲み薬。

 それを渡し終えたところで、ふと視界の隅に気になるものが写った。


 それは羊皮紙、普段だったら人のものを奪るなんてことは俺はやらない。

 あの子達の教育上笑いからな。


 でも今回はなんだかその羊皮紙が気になった、なんでかって?

 その羊皮紙は丸められていた。そしてその羊皮紙の端っこの方……ほんの少し捲れたところに、なぜか俺の名前のスペルの一部が乗ってたんだ。


 そうElmarエルマーの後ろの文字arがチラ見えしていた。

 偶然か、と思って俺は思わずその羊皮紙をめくってみた、めくらずにはいられなかった。


『指名手配書 奴隷エルマー。特徴 白髪、童顔、身長175センチ程度』


 まず目に飛び込んできたのはそんな俺の詳細なプロフィール。

 なんと似顔絵までついてる。


 いやあ素晴らしいな! どの情報も正確だ。乗ってないのはスリーサイズぐらいか?


 いや、ていうか、そもそも。


「指名手配ぃぃぃぃ!!?」


 俺の絶叫が森に響き渡った。

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俺! 神獣達のママ(♂)なんです! 青山喜太 @kakuuu67191718898

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