第5話 誰?! この子!? 何?! 俺の罪!?
「むにゃ……」
あれ、私いつのまにか寝てた?
そうだ。いつも通り、城から抜け出して……そして……変な手に掴まれてそれで……。
そうそう、王都のあの惨状の事情を知ってそうな、変なやつの馬車に乗り込んだんだ。こっそりと。
なんか会話の内容からしてあの事件のこと知ってそうだったし……それで、えっと私どうしたんだっけ、お腹空いてこの中にあった干し肉食べてそれで……。
「お目覚めか? お嬢さん?」
あれ? 私、詰んでる?
─────────────
「お目覚めか? お嬢さん?」
俺は目を覚ました女の子に向かってそうつぶやく。栗色の長髪に、意外な身綺麗なスカートにシャツ。
この子、庶民っぽくないな。
「お、おはようございます」
「おう、おはようございます、えらいなぁ挨拶ができるやつは俺は好きだ」
俺は満面の笑みを浮かべる。落ち着け相手は子供だ、言葉を選べ。
「でも、泥棒はお兄さん嫌いだなぁ……」
「ヒッ」
しまった内なるイライラが言葉の端から漏れてしまったか、思わず少女を萎縮させてしまう。
落ち着けぇ、俺、落ち着けぇ。
ただ得体も知れない森の中一日中移動して、腹が減っていたところ、食材を全部食われただけじゃないか。
……だめだやはり怒りが少し勝つ。
「君! 大体誰だ? 俺は君のこと知らないんだが?」
「エル、落ち着きなさいよ。ただ得体も知れない森の中を一日中移動してお腹減ったところを食材全部食われただけじゃない」
「だからイライラしてんだろうが!!」
俺たちのスタンダップコメディのような口論にさらに少女は竦み上がる。
はぁ、もう埒が明かんなこれは。
「はあ、もういいや。君ぃ……それで君は何者なんだ? とって食いやしねぇからお兄さんに教えてくんねぇかな?」
俺は膝を落とし少女に呼びかけるが、少女は全くもって心を開こうとしない、ただ怯えて俺を見つめるだけだ。
しまった、やはり第一印象というのは重要らしい最初の印象で全てが決まるというのは本当だったのか。
全く奴隷という期間を経ていなければもっと子供の接し方とかも学べていたものを。
「ちくしょう、難儀だぜ」
俺がそう呟いた時だった。
──ダン!
火薬の弾ける音が響いた。
同時に聞こえる風切り音、俺の頭に向かって何かが飛んでくるようだ。
危機だ、そんなことは百も承知だ。
俺が思考するより前に俺の体が反射で動く。
パシリ、と乾いた音が俺の手から響いた。
反射で動いた俺の手が何かを握っていたようだ。
「あ? 弾丸?」
俺の手が防いだのはどうやら弾丸らしい、形を見るにライフルの弾頭。つまり軍用だ。
「ミラナ?」
「わかってる」
ミラナは俺の言葉の意図がわかったらしい異次元トランクを即座に開け放ち、自身の得物である刀を取り出す。
さて戦闘準備は整った。と、その前に……。
「お嬢さん、トランクから出てくるなよ。これからお兄さん達ドンパチやるからな」
少女はコクコクと首を縦に振る。
それを確認した後、トランクを閉めて……よし、これで今度こそOKだ。
俺は叫ぶ。
「おい! ササッと出てこい! 銃火器の類は効かねえぞ!!」
宣戦布告と同義の俺のセリフに呼応するかのように草むらから影が飛び出す。
数にして3つの影は俺たちの馬車が留まっているクソデカ獣道に躍り出た。
「どうやらそのようだな、奴隷エルマー」
3つの影が陽に照らされる。
緑色のマントに金属製の簡素な防具、視界を確保するためにバイザーを取り外した兜、そんな重装備をつけた3人の男達だった。
というかなんだ? 一体全体何が起こってる? こいつら王都アトスの騎士じゃねぇか。
「騎士様? 一体どういうこった? なんで騎士様に俺は撃たれたんだ?」
単純な疑問をぶつけた俺。
そんな俺に返ってきたのは嵐のような怒号だった。
「ふざけるな!! 貴様! 王都アトスを滅ぼしておいてなんだその言い草は!!」
は? まて?! 何を言っているんだこの男は!
騎士の一人の怒りに困惑する俺だったが、これはまずい、何か勘違いをしていらっしゃるようだ。
「ミラナ、どうするよ。なんか免罪かけられたぞ?」
「一部の混乱した騎士達の独断、だといいけどその線は薄いわね」
とりあえず、ミラナならいい考えを持ってるだろうと期待した俺の淡い希望を相棒は容易くぶち壊す。
「なんでよ?」
「……アイツらの緑のマント王都の近衛騎士よ……指で数えるぐらいしかいない、王都最強の騎士の証、そんな騎士が動いてるってことは、これはアトランタ王国直々の命令の可能性が高いってことよ」
あちゃーやばいかも知れんねこれは。
だが、だったら尚更、無駄な争いは避けるべきだ。
お相手の騎士の一人はもう、腰に差してあるメイスを抜きそうな勢いだ。
あークソ! ライフルだったらまだ怖くねぇのにメイスかよ!!
俺は一触即発な気配の中、勇気を振り絞って前に出る。
落ち着けぇ落ち着けぇ俺! 騎士達との距離は目算二十メートル、ゆっくり近づいて敵意がないことを示せ!
俺は出来る子! やれる子だ!
「なぁ、皆さんさ、俺と一緒に茶でもどう? とりあえず誤解があると思うんだよな、だから──」
「アルティメイト!!!! スマッシュゥゥゥ!!」
騎士達との距離残り10メートル。
そこで緊張はついに弾けた。怒りに燃える騎士がメイスを腰から抜き放ち、全身の生命エネルギーを解放。
俺に対して振り下ろした。
それはまさしく落下する星の如き一撃。
常人ならば粉微塵だ。
「──そうかい……!」
そう常人なら。
「……! バカな!?」
騎士が驚きの声を発する、なんで驚いてるのかは俺でもわかる。まさか自分の渾身の一撃がこんな見窄らしい奴隷如きに──。
──常人如きに片手で止められるとは思ってなかったんだろう。自分自身の必殺技を、自分の騎士という人生の最高の誇りを。
そして同時にメイスを受け止めた、手のひらから伝わる痛みで理解できる。どうやらこの騎士連中とは分かり得ないらしい。
「き、貴様、何者……」
メイスを俺に受け止められた騎士が尋ねる。
そんなのずっと言ってきただろう?
「ママだよ、俺は」
「は?」
訝しげな顔をする騎士。
いいぜ、そっちがその気なら俺も戦う準備はできてる。
どうやらテメェらは──。
「──テメェらは
次の瞬間、
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