第4話 腹は減り 飯は食われて 秋の空

 東へ東へ東へ、心のつながりを辿って、丸一日移動した俺たちがついたのは大森林、それも名前がわかりもしないような場所だった。


 つまりは未開の地、ほぼ人の手が入っていないような場所だ。幸い大型のモンスターが通った後のクソデカ獣道のおかげで自動馬車は通れる。


 だがしかし、ここが安全でないことなど誰もがわかる。

 周りは木々に囲まれて、昼なのに鬱蒼としている。


「本当にここなんでしょうね?」


 まるで棺桶みたいな四輪自動馬車の運転手、クールビューティのミラナがそう尋ねる。


 全く、俺の相棒は随分と心配性だな、なんて冗談の一つでも言ってやりたいところだが、俺も若干心配になってきた。


「つながりは感じる」


 とりあえず俺はそう言った。毒にも薬にもならないお茶っ葉のカスみたいな返答だ。


「何? それ?」


 ガタンと馬車が止まる、まずい。


「アンタ、本当に居場所わかるんでしょうね?」


 まずったな、逆にミラナの心配を加速させてしまったかもしれない。だが、俺としても不確かなことは言えなかった。


「しょうがないだろ!? とりあえず繋がりだけは感じるんだよ! とにかくこの大森林のどこかってことは確かなんだ!」


「そもそもその、繋がりとやら本当に確かなんでしょうね? 思春期の男子が漠然と感じる万能感との違い、説明できる?」


 なるほど、つまり思春期特有の男子が発症するアレなんじゃないかって言いたいのかこの女は。


 なるほどなるほど。


「って! ナめるなぁぁ!!」


 俺は思わず叫んだ。


「俺とあの子達との絆は間違いなくある! いいか?! 今から証明してやるからな!」


 俺は目を瞑った、神獣達との心の繋がり、これがなければ神獣達とのコミュニケーションなどできるはずもない。


 これは俺が生まれながらに持っているいわば特殊能力であり、絆を深めれば深めるほど、相手の位置や意思などといったものが明確にわかるようになっている。


 最も距離に制限があったり、俺の方から子供達にテレパシーじみたことを送ったり、居場所を知らせたりすることはできないのだが。


 だがそれでもあの子達を探す唯一の手がかりはこれしかない。

 それは間違いがなかった。


「うおおおおお!!」


 俺は叫ぶ、ちなみに力んだところで何か変わるわけではない、単純に気合いを出しているだけだ。


 だが気合いというのは、重要だ。世の中意外と根性だけでどうにかなることもある。

 そして俺はカッと目を見開いた。


「やっぱりここらへんだ!!」


「アバウトすぎるわね」


 俺の答えにミラナはため息をつく。


「しょうがねぇだろ!! だってここら辺としか言いようがない!」


 俺の能力だって完璧ではない、何でもかんでもわかる神様の目のような力ではないのだ。


 するとミラナは深いため息をつきながら馬車の運転席のドアを開け放った。


「もういいわ、ご飯にしましょう」


「あ、そうだな思えば王都アトスから食ってねぇじゃねえか!」


 そうだ通りで調子が出ないと思った、俺は腹が減っているという現象に今の状況の全責任を押し付けることにした。


 とりあえず飯を食おう、腹が減ってはなんとやらだ。


「全くそうだよ、焦ったってなんもいいことない、一日中移動したんだからよ。まずは休みの時間だな」


「運転してたの私だけどね」


「……ごめんなさい」


 渾身の謝罪と共に俺達は馬車を降りて後部のトランクに向かう。

 この馬車には二つのトランクがある。


 一つは異次元収納昨日のある、魔法トランク。ここには頑丈なものを入れたり護身用武器を入れる。


 そして食用のトランク、棺桶みたいな馬車の中央、右方にあるトランクだ。

 この中は保存魔法と呼ばれる物質を腐りにくくする役割のある魔法がかけられている。


 飯をありったけ詰め込められるから、長期の旅も安心だ。


「さて……何食べようかな!」


 この食用トランクの中身は完全にミラナに任せていた。

 だから俺も中身がなんなのか俺にはわからない、いやあ楽しみだ。


 期待を込めて俺はトランクをガパリと開け放った。


「……あ?」


 トランクの中にあったのは俺の期待してたベーコンやチーズじゃなかった。

 じゃあステーキ用の生肉か、いやそういうことを言っているんじゃない。


 そもそも食材が入ってなかった、入っていたのは。


「スー…………」


 栗色の長髪のかわいらしい少女だった。歳は俺の5個下の12歳くらいか? いや待てそれよりも聞かねばならないことがある。


「ミラナさん?」


「なによ?」


「俺は食材を用意しろっていったんだぜ? どこをどう曲解したら児童誘拐しろになるんだ?」


「私は食材を用意したわよ?」


「俺は人食い鬼か!?」


「だからそうじゃなくて」


 ミラナは俺の頬をぐいと掴み、無理やり少女に視線を向けさせ、さらに少女の口元に指を指した。


 あら、お弁当ついてる。


「この子、私たちの食糧全部食べたのよ」

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