第3話 王都が終わり、冒険の始まり

 これからどうするか、混乱する俺の頭脳に俺は張り手による衝撃で、無理やり正常稼働させる。


「落ち着け俺、まずはあの子達の保護だ」


 もう一度俺は王都の……元王都アトスの上空を見る。


 見える影は5体。


 間違えないあの子達だ。


 変幻自在の球体、スライムの神獣レミーラム。


 天を支配する獣、ペガサスの神獣リーン。


 天邪鬼であり正と負を操る神獣の猫、スカーレット。


 再生の象徴であり破壊の権化、フェニックスの神獣ファムファーム。


 末っ子であり、可愛さの擬獣化、ドラゴンの神獣ケイトネール。


 間違えないようのないあの子達の影。俺はほっと胸を撫で下ろす。


「エル? とりあえず、取り込んだ人は外に出したわよ」


「ミラナ! そんな場合じゃねぇ! 見ろあの子達まだいんだよ!」


 トランクの中の異次元から民衆を取り出したミラナに向かって俺は思わずそう叫ぶ。

 すると俺の指の先、上空をミラナは見つめた。


「よかったじゃない、今ならあの子達も保護できる」


 ミラナもどうやらあの子達だと認識できたようだ、そしてまだあの子達がここにいるならやりようはまだある。


「そういうこった! 拡声器くれ!」


「はいこれ」


 無造作にミラナから放り投げられた拡声器をキャッチ、俺は生涯で一番の叫びを拡声させた。


「みんなぁ!! ママはこっちだぞおぉ!!!!」


 俺の声が天に響く。すると5つの影が一斉に俺の方に顔を向けた。

 間違いない、遥か遠くにいるというのに、あの子達が俺に気づいたという、気配だけは確実に感じ取れた。


 すると今の今まであの子達から漏れ出ていた敵意や害意の感情が消えていく。


「そうだ! ママはこっちだぞ!!」


 やっとだ、まあ紆余曲折あったがこれで一件落着だ。俺がそう思ったの時だった。


「おのれ! 王都に仇をなす神獣め!! 我が魔法によって散り散りとなるがいい!!」


 声が、響いた。

 どこの誰とも知らぬ魔法使いらしき声がまるで山彦のように響いているこの現象。


「お……!? おい! 待ってくれよ!?」


 魔法使いの言葉、というものは凶器であるらしい。


 ありとあらゆる音、音節、子音、母音に至るまで魔術的な要素を含ませることのできる言葉は発するだけでも詠唱として成立するものがあるのだとか。


 じゃあなんで今、魔法使いっぽい声が大音量で響いているのか。

 答えは一つだ。


 詠唱とは聞くものがいなければ意味がない。

 声がデカければデカいほど詠唱を聞くものが増え効果範囲が増えると言うことだ。


 大魔法使いは声がデカい。

 どうやら噂は本当だったらしい。


「まてえええ!! ちょっと待てえええ!!!!」


 じゃあそんなクソデカ声量の魔法使いが何をするのか、俺はなんとなく理解してしまった。


「天に至る星の道! 森羅万象を切り開け!! ディメンション・シフト!!」


 王都は再び、光に包まれた。


『ママ!!』


 我が子の声が遠のいていく。あの子達は光へと飲み込まれそして消えていった。

 俺も思わず目を瞑る。鉄火よりも、朝日よりも眩しく、忌々しい光があたり一面を照らした。


 そして光は何事もなく収まる。

 まるで最初からそんな光などなかったかのように。


 恐る恐る目を開いた俺が見たのは、信じられない光景だった。


「……あ、え? あの子達は……?」


 我が子がいない、殺され……いやそれはない今も生命力を……心のつながりを感じられる。

 だがどう言うことだ、前よりも薄く、遠くなっている気がする。


 頭を抱える俺に、ミラナがボソリとぼやいた。


「転移魔法で飛ばされたみたいね」


「は?」


「王都アトスの奴ら、対応に困って世界各地にあの子達をぶっ飛ばすことで解決を計ったってことよ」


「え? は?! それの何が解決になるんだ!? あの子達もっと傷つけられてもっと暴れたりしたら……!!」


「どうでもいいんでしょ他の地域のことなんて」


「クソ王国がぁぁぁ!!」


 俺の叫びに耳を塞ぐミラナ、許してくれ、叫びたくなる気持ちもわかるだろう。

 王都アトスのお偉いさん方が選んだのはまさか問題の先送りアンド押し付け。


 これが叫ばずにいられるかってんだ。


「だから俺以外には懐かないって言ったのにいいいい!!」


「あの暴れ具合だと、あの子達、相当酷い環境にいたみたいね?」


「クソが!! だから名前だけのテイマーなんて意味ないって言ったのによ!!」


 だがここで愚痴を吐いても仕方がない、俺は意を決して再び馬車に飛び乗った。


「ミラナ! 運転してくれ!」


「あら、もう行くの?」


「善は急げだ! あの子達を保護しにいくぞ」


「行き先はわかってるんでしょうね?」


「なんとなく!」


「そう、ならいいわ」


 そうして自動馬車は再び動き出した、呆けている民衆を残して。

 俺たちはあの子達を再び保護しなければならない。


 また王都アトスのような国を生み出さないためにも。


 大丈夫だ行き先はわかる、あの子達の心の声はまだ微かだが聞こえる。

 そうして俺達は走り出した、再び我が子に会うために、東へと。


 ─────────────


「どう言うことだ!!」


 怒号が室内に響き渡る。

 ここは、王都アトス緊急対策会議室。崩壊した地上の王都に変わり地下室に設けられた会議室内で、怒れる男が一人。


 その男は騎士団長、アール・フォン・ゴルライラス、この王都アトスの治安を守る騎士団の団長であった。


「なぜ、王都がこんな有様になったのだ!? 神獣の管理はどうなっている」


 アールは怒りのままに会議室内に設置された円卓を叩き割らんばかりに拳を打ちつける。


 その明らかな怒りの吐露に王都復興のために集められた様々な官僚が肩を振るわせた。


 空気が緊迫する。


 実に腹立たしいだろう、守るはずだった王都はだったの数秒で陥落、挙げ句の果てにその主犯である神獣も討伐できず、転移魔法で別の地域に飛ばすしかなかった。


 まさに無力、圧倒的な力を前に騎士団は何もできなかったのだから。

 そんな騎士団長の怒りを知ってか知らずか、ぼそりと誰かつぶやくように告げた。


「落ち着きなされアール殿」


 それはしわがれた老年の男の声、同じくこの会議室に集まった宮廷魔術師のゼール・カーターの声だった。


「今回の件、ワシは首謀者がいると考えている」


「なに?!」


 ゼールの言葉に驚く、騎士団長アール。

 するとゼールは目を見開き、紙を円卓に叩きつけた。


「今回の事件、神獣達の服従魔法は完璧だった、だと言うのにかの獣らを御せなかったのは、おそらくこやつが原因じゃ」


 紙には似顔絵と名前が綴られている。

 その名は……。


「エルマー……こやつが恐らく王都アトスを陥れた真犯人じゃ」

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