オリジナル短編
ナク
美しい星たち
ぷかぷか ぷかぷか
ああ、なんて綺麗なんだろう。
僕はとんだ幸せ者だ。目を開けば、そこに広がるのはなんとも美しい星たち。
彼らの輝きは、僕の喜びであり感動だ。
ぷかぷか ぷかぷか
「こんにちは、お嬢さん。随分と熱心に、一体何を眺めているんだい?」
おっと驚いた。声をかけられるなんて久しぶりだ。
視界を動かすと、淡い輝きをまとった星が隣にいた。
「こんにちは。何を眺めてたって、決まってるよ。あの綺麗な星たちさ。僕の何よりの楽しみなんだ。」
しばらく声を出す機会が無かったから、喉に何かが引っ掛かる様な感覚がした。
「あそこにいる星たちのことかい?なんだか楽しそうにしているね。」
そう。あの星たちはとっても楽しそうだ。
「うん。本当に美しいよ。彼らを眺めていると、僕はたまらない気持ちになるんだ。」
でも、それだけじゃない。
彼らのうちのひとつに、なんとも苦しそうな星がいるのが分かる。きっと、彼の中で何かが渦巻いていて、それを外に放とうとしているんだろう。
そんなことを思っていると、隣の彼が言った。
「あの少し離れた場所にいる星は、なんだか辛そうだ。」
どうやら隣の彼も、同じ星が目についたようだ。
「うん、そうだね。きっと彼の中で何かが生まれようとしているんだ。ああ、綺麗だなあ。」
「苦しんでいる星を見て楽しむなんて、君はいい性格をしているねえ。」
むむ。いきなり話しかけてきた分際でなにをおっしゃるか。
しかしながら、まったくもってその通りだ。
「痛いところをつくじゃないか。僕だって自覚はしているつもりさ。だからこそこうして離れたところから眺めているんだ。」
「あはは、気を悪くしたのなら謝るよ。むしろ君のその楽しみ方はとっても素敵だ。」
「それはどうも。」
敢えて不満げな調子で、お礼を述べてみた。
隣の彼は僕が本気で怒ってはいないことを察したようで、その淡い輝きを楽しげに揺らした。
ところで。
「ところで、君はいったい何者なんだい?いきなり話しかけてくるものだから、驚いたよ。」
「おっとそれは申し訳ない。僕は気の向くままに、色んなところへ行くのが楽しみなんだ。そこでふと君が目についただけさ。」
彼はさっきと変わらない様子で答えた。
質問の答えになっていないような気もするが、それよりも気になっていたことがある。
「それに、お嬢さんだなんて言葉をかけられたのは初めてだ。いったいどういう意味なんだい?」
「さあ、僕にも分からないよ。いつだったか、僕にそう言って声をかけた星がいたんだ。きっと、悪い意味では無いんじゃないかな。」
なんともテキトーなことを言うやつだ。
ゆらゆらと淡い輝きを揺らしたまま、彼が言葉を続ける。
「さて、そろそろ行くとするよ。邪魔をして悪かったね。」
随分とマイペースなようで。
少し驚いたが、引き止める理由も特にない。
「そうかい。」
「あの辛そうな星から何が生まれるのか、僕はそれが見たくなってしまった。ここからだと少しばかり距離が遠いからね。」
ふむ。ならばひとつ忠告をしておかないと。
「くれぐれも干渉はしないでおくれよ。あの星は、僕の楽しみのひとつだからね。」
「もちろんだとも。ここよりも少し近づくだけさ。決して話しかけたりなんかはしないと誓うよ。」
まったく、僕には気安く話しかけておいて、なんて調子の良いやつなんだ。
「疑っているのかい?」
「いや、そういう訳では無いよ。」
今はまだ隣にいる彼は、僕の楽しみを理解してくれたと感じる。
あの星に何かするようことはきっと無いだろう。
「よーし出発だ。じゃ、さようなら。」
「さようなら。」
ふわふわと、隣にいた星はその輪郭を小さくしていき、やがてぼやけて見えなくなった。
それと反比例するように、淡い輝きは強さを増していき、やがて美しい星たちと見分けがつかなくなった。
「ああ、綺麗だなあ。」
しばらくぶりに通った喉を、僕は小さな独り言で結んだ。
ぷかぷか ぷかぷか
オリジナル短編 ナク @naku0752
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