榊駅に関する体験談

 体験者: 新島 翔(仮名)

 著: 矢島 キク


 あの日、僕があの駅で恐ろしい体験をしたのは身が凍ってしまいそうなほど寒い冬の時期でした。


 その日僕は、大学サークルの飲み会からの帰りで、すっかり酔ってしまっている状態でした。 当日はいつもと比べても飲み過ぎてしまい、吐きそうになるのを堪えて雪が降るほどの寒い外を身震いしつつおぼつかない足で近くの駅まで住宅街を歩きながら、2次会行かなかったら良かった……と後悔していたのを覚えています。 (今僕が歩いてるとこの家の中にいる人はコタツに入って温もりながら、テレビでも観てるのかなぁ いいなぁ 早く帰りたい) そんなことを考えながら、人一人もいない殺風景な駅にようやく着いて椅子に座り乾燥してカサカサになった手にハンドクリームを塗ったりして、しばらく電車を待っていました。え? 駅にあるトイレで吐かなかったのかって? 吐いているせいで電車を逃したくなかったし、そもそも僕が行き着いた駅はトイレがないタイプだったんですよ。 そんなこんなで数分たった時、ようやく電車が来たのでやっとか……とか思いながら電車にあるフカフカな席に乗ったはいいんですけど、時間帯のせいか僕の他に乗客が誰一人いなかったんですよ。 しかも吐き気が治まったのと揺れのせいか、いつの間に寝ちゃったんですよね。 そのせいで起きた頃には最寄り駅をとっくに逃しちゃってたんで、仕方がないので次来る駅で降りるつもりでした。 そして電車が駅に止まったんで降りたんですけど、案の定全然知らない駅でして、確か 榊駅 っていう名前の無人駅でした。 まさかこれが、信じられないような恐怖体験の始まりだなんて、このときは考えもしませんでした。


 まず僕が異常に気づいたのは空なんですよ。 僕が電車に乗ったときは雪も降ってて真っ暗だったはずなのに真逆でした。 快晴だったんですよ。 雪どころか雲一つなく、あるのは絵の具で青一色に塗られたのかと思うぐらいに真っ青な空とこの季節には似合わない地面を照りつけるように眩しい輝く太陽だけでした。 まさか朝になるまで電車の中で寝てたわけではないし、この駅に降りるまでにスマホで時間をみてみてもまだ30分程度しか寝てなかったし深夜なので30分程度でこんなに明るくなるのなんて有り得ないんですよ。 それに今の季節は冬なはずなのに夏を思わせるような暑さがありましたので思わず羽織ってる上着を脱いじゃいました。 長年管理されなかったのか、駅のホームには所々壁や床にヒビが入っててヒビの入ってる床の所には雑草が生えてました。そして次に気づいた異常は駅の周囲でした。 なんと榊が辺り一面にお供えされていたんですよね。 ほら、榊ってあれですよ神道とかに使う草です。 それが至る所にお供えされているというのが異常な光景すぎて、治まったはずの吐き気がまた来て結局飲み会のときに飲んだ酒や唐揚げなどの揚げ物の分を吐いてしまいました。 そして異様な景色からなのか、暑さからなのか、妙に空気が重苦しかったのを覚えています。とりあえず僕は帰りの電車を待つために駅のホームにある椅子に座ってスマホをいじろうとしたんですが、圏外だったんですよ。 (あぁだる)とか思いましたが仕方がないので辺りの景色でも見ようかと思ったんですがあるのは遠目に見える山に電車が通るためのトンネルと快晴、そしてお供えされている榊だけでした。 榊のことを除いたら良く言うと自然豊かで落ち着くんですけど、逆に言うと何も無いんで退屈なんですよね。 いつもスマホでSNSを確認してる僕にとってはこの退屈な時間が本当に苦痛でした。


 そして3時間ぐらい経過した頃でしょうかついにトンネルの方から電車が来るのが遠目から見えて叫びたくなるような嬉々とした感情を抑えて、電車が駅に到着するのを待ちました。 [やった! やっと帰れる!] 


 そして電車が到着してドアが開くと一人のおじさんが降りてきました。そしておじさんは僕のことを見つけ次第こう言ってきたのです。 [あんた、こんな何もないようなところに来て、何の用だい? もしやあんたも、清恵に会いに来たのかい]

と言って来たので僕は [いえ、僕は電車の中で寝ちゃってたまたまここに着きました。では]

と。 そして僕が電車に乗ろうとするとおじさんが[まてぃまてぃ、ここの電車は俺ぐらいしか使わないから、そんなすぐには出発せんよ。 ちょっと俺が今から行くところに付き合ってくれないか] そう頼まれてしまい、僕がもともと断れない性格と(こんな所に来る人は一体何をしているんだろう)という好奇心からその頼みを了承してしまいました。


 そしてそのおじさんについて行って歩いたのですが基本的には草が生い茂っているところをただ歩くだけなのですが途中から、榊が所々にお供えされているのを見て、不気味な感じがしました。 そして1kmぐらい歩いた頃でしょうか。 一軒家が一つだけありました。 全体的に茶色くて小さいこじんまりとした家でした。 そしてそこにも榊が供えられていました。それも大量に。 その近くには何かしらの儀式の形跡?がありました。 僕はその時今更ながら、(これはヤバい奴に目をつけられたか?)という恐怖心が芽生えました。 

そしておじさんはその家の中に入って女性の遺影を取り出してきました。 そして家の玄関の前で待っていると[ほら、コイツが清恵だ かわいいだろ?] そう言っておじさんは玄関を背にして女性の遺影を目の前で見せてきました。 [あはは…そうですね] そう答えると次は写真を見せてきました。 [これは一体…] [これは若い頃の俺と清恵の写真だ] そう言って見せていた写真には若いころおじさんであろう人と得体のしれないナニカが写っていました。 そしておじさんは左の方を向いて[おおい 清恵ー!]と大声で呼ぶんですがそこには誰もいないんですよ。


 そして僕は(あっこれはヤバいな)と思って駅の方まで全速力で走って逃げました。 ええ、もちろんおじさんも追ってきましたが何とか逃げ切って電車に乗れました、そしてその電車で自分の最寄り駅まで帰ることができました。

もしこの電車で帰れなかったら……とか頭によぎりましたが、あのときはそんなことを考える余裕も無かったので今となってはあの電車でよく帰れたなと思います。 電車に乗れて 逃げ切れた……と安心すると緊張の糸が切れて眠ってしまいました。 まぁそれが功を奏したのがしれませんが。


 あの時帰ってこれた……と実感したのは目が覚めて、自分の最寄り駅の近くの駅名が 次は〇〇〜〇〇です というアナウンスで出てきたときと、最寄り駅に降りて空に雪が降ってる光景に身にしみた寒さがやってきた時ですね。 これは後々分かったことなんですけど、僕が迷った榊駅というのは2003年に廃駅になり処理されて2009年にネット掲示板で存在しないはずの駅としてネットで話題になった異界駅と言うヤツだそうです。 調べて見ると特徴が丸々一致いていました。 2009年に話題になったということは僕の他にもあの駅に行った人がいるということですかね? その人は無事なんでしょうか。 後あのおじさんは2003年にもうすでになくなっていたそうです。それが榊駅が廃駅になった原因だとか。


 これで僕の榊駅の体験談は終わりました。 と言いたいところなんですが、家に帰ってこれて数カ月後に、いたんですよ 女 が、僕がコンビニに弁当を買いに行ってたときに僕の家の近くに女がいました。 特に何かをしてるわけでもなく、ただ突っ立って不気味な笑顔をこっちに向けてきている赤と白のワンピースを着た女がいたんですよ。 その時僕は住所を特定されても嫌なので遠回りをして帰ってきました。

そして次の日、女がいました。 その日はずっと家にいたんですがふと玄関の窓をみてみたらいました。 間違いありません先日の女です服装も同じでした。

そしてまた次の日、女がいました。 今度は玄関に突っ立ってたんです。 助けてぐださい。 昨日、女がいたんですよ。 もう僕の部屋の前まできました。 断言はできないんですが、もしかしたらあの時のおじさんが言ってた清恵と言う女性なのかもしれません。あの駅から逃げた僕を迎えに来たのでしょうか。 そしてもう手遅れかもしれません。 今僕がこの体験談をあなたにメールで送るつもりで文を書いてるときに女がいます。もう僕の後ろにいます。 お願いします。 せめて僕があの時に迷った榊駅について調べてほしいんです。 お願いします。 

これで僕の体験談は終わりました。 あとはよろしくお願いしま

〈文はここで途切れている〉

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怪異調査団 矢島キク @kiku_yazima

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