後編

 部屋で準備を進めていると、ナターシャから話を聞いた仲間達が私に別れの挨拶と感謝を述べてくれる。


 別れを惜しまれるけど、それ以上にアーサーの件で憤りを感じるらしく、私がパーティーを離れる事には皆納得の様子だった。


 その肝心のアーサーはこの場にはいなくて、結局宿を出る時間になっても彼が来る事は無かった。




 受付にパーティーで使用していた装備や道具一式を返却するように預かって貰い、もう一つアーサーに読んで貰う為に書いた手紙も渡して、朝早い時間に宿を後にする。




◆◇◆




 宿を出たその足で冒険者ギルドに向かい王都行きの馬車について尋ねると、丁度護衛依頼を受け付けていたので、他のパーティーと同行する形でその依頼を受ける事に。


 そして幌付きの馬車に乗り王都に向かう途中、目的地へ向かう道の先で魔物達が別の馬車を襲っている所を目撃する。


 馬車を襲う魔物の数は相当な物で、馬車を護衛していた人達も大勢いて、冒険者のパーティーと一緒に救援に向かう途中で倒れていた人の治療をすると、彼等は王国の兵士だというのがわかった。


 今の私は何の武器も持ってはいないけれど、姉さんと同じ能力は扱えるので、そのお陰で回復や魔物の動きを鈍らせる結界の魔法に専念する事が出来た。


 車輪と馬をやられて動けなくなっている馬車を中心に結界魔法を展開し、戦いは同行していたパーティーに任せる。私は傷ついて倒れている兵士の治療に専念し、どうにかして死人は出ずに済んで戦闘も無事に終わる。




 兵士達の傷を癒しきり魔物の気配も遠ざかって、護衛の馬車がこちらに向かっているのを待っていると、兵士達に感謝の言葉を述べられた後に何やら興奮した様子の彼等に詰め寄られてしまう。


 どうしたのだろうかと戸惑っていると、兵士達が守っていた馬車の中に乗っていた人達が出て来て騒ぎを収めるのであった。


 そして、私は護衛から外され冒険者のパーティーと別れる事になり、急遽馬車に乗っていた人達の相手をする事になるのだった。




 王都から彼等を迎えに別の馬車がやって来て、特別に話がしたいのだと私もその馬車に乗る事に。


 わざわざ迎えが来る程の人物なのだと緊張していると、銀髪の少年はなんとこの国の第二王子様なのだった。


「先程は兵達が騒ぎ立ててすまなかった。あなたのような見た目の冒険者は滅多にいないものだから」


「そ、それ程の姿はしていませんから私……故郷も小さな村でしたし」


「幾らこの方が見目麗しいとはいえ、若い女性を口説く真似はお控えくださいジョシュア殿下」


「く、口説いてなどいない! 本当の事を述べているだけだクリス!」


 目の前でジョシュア殿下と、その従者であるクリストファーさんが揉め始める。


 私も女性では無い事を訂正する機会を得られないまま、殿下が咳払いして話の流れを戻し始める。


「それで、エルティールといったな。あなたのような若くて綺麗な見た目の女性がたった一人で旅をしようだなんて」


「え、えっと……私、三年前に王都に向かった姉に会いに行きたかっただけなんです」


「三年前に? 何やら随分と訳がありそうだな」


「近くの街まで一緒に旅をしていた仲間と別れたばかりなので、一人で旅をしていた訳でもありません」


 護衛依頼のパーティーとはまた別のパーティーを組んで旅をしていた事を話すと、クリストファーさんが不思議そうに私を見て来る。


 別れた経緯までを話そうと思うと、まだ悲しい気持ちで胸が痛みだして何も言えなくなる。




「ふむ。あまり詮索するのも野暮ですし、ここはこちらも何か別の話題を提供するべきです殿下」


「そ、そうだな。しかし、姉か……実は俺にも近い将来義理の姉になるかもしれない人がいるんだが」


「は、はい、義理のお姉さんになる人ですか……となると、殿下のお兄様と?」


「ああ、兄上が懇意にしている女性なんだ。その人も自分にも弟がいると俺に話してくれてな、大層可愛がっていたそうだ」


 殿下の話を聞いて、目を瞑り村では姉さんにとても可愛がって貰った事を思い出す。別れ際にお互い泣き出してしまった事を思い返すと、余計に会いたくなってしまう。




「うーむ、女の姉妹だとこうも仲の良さに違いが出る物なのかクリス?」


「家庭や周りの環境で人それぞれ変わる物ですよ殿下」


「俺の兄上など、結構な歳の差があるのに何かと対抗意識を向けて来るが……」


「エルティールさんとそのお姉さんは、お互い助け合うように過ごして来たのでしょう」


 私が昔の事を思い返していると、殿下達がコソコソと話をしていた。


 考えていた事が顔に出ていたのか、そんな二人に気が付くと途端に恥ずかしくなってしまい、二人も急に慌てだす。


「すすす、すまない! その、あまりにもどうにかしてやりたいと思って、つい顔を窺うような真似をしてしまった!」


「い、いえ……そんなに顔に出ていましたか……? 姉さんに会いたいなと思ってしまいまして」


「助けてくれた恩もある以上、俺からもあなたの姉上について出来る事があるなら手助けをしたいんだが」


 殿下から手助けをしたいと提案される。姉さんは聖女という立場がある為、幾ら手紙でいつでも会いに来て欲しいと書かれていても、私一人では何にも伝手が無い。


 恐らく勇者であるアーサーがいれば、その辺りの諸々を上手く出来たのだろう。姉さんもそういう考えで手紙を書いたのだと思う。


 殿下達も私の性別を誤解したままであるし、これ以上誤解が広がってしまう前にきちんと説明するべきだと思った私は、その提案を受ける事にした。




「殿下自らそう言って下さってありがとうございます。実は私と姉さんは、幼い頃から人とは違う能力を扱えて、その力を人の為に使うと姉さんは王都へ向かったんです」


「そうなのか? そんな特別な能力を扱えるとなれば、尚の事俺の立場が役に立つだろう。どのような姉上なのか話してみるといい」


 そう言って自信満々に胸を張る殿下。その隣でクリストファーさんが一つ咳き込み注意を促すので、私も少し微笑んでしまう。


 ここではぐらかして姉さんの事を伝えても、きっと結構な可能性でまた殿下と顔を合わせてしまうのだろう。そうなると、先程の殿下のお兄様が懇意にしている女性というのも、もしかしたらの事もある。


 自分の事まできちんと話さなければならないのは少し恥ずかしいけど、私は魔法の収納鞄から姉さんの手紙を取り出して、一呼吸して全部話す事にした。




「私が旅に出る前に届いた姉さんからの手紙によりますと、今は大聖堂でその役目を果たしつつ、要人待遇で王城で過ごしていると書いてあるんです。殿下も一度ご確認下さい」


 そう言って殿下に手紙を手渡す。二人は私が言った事がいまいち呑み込めていないといった表情で手紙の中身を確認して、そして、驚いた顔になる。


「こ、ここに書いてある事は……全て本当なのか……!?」


「はい、私とマリーナ姉さんは、幼い頃からずっと聖女の修行を行って来ました」


「で、ですが、聖女様には弟しかご姉弟はいない筈では……? その、エルティールさんは、女性では……?」


「は、はい……その弟というのは私で合ってます……こんな紛らわしい格好をしていてごめんなさい……」




 殿下とクリストファーさんが驚きのあまり、目を見開いて私をじっと見つめて来る。


 その視線に耐え切れず、私は恥ずかしくて俯いてしまう。


「いや待て! せ、聖女の修行というのは、そ、その……男でも出来る物なのかクリス!?」


「そんな訳無いでしょう……! 今までこんな話聞いた事ありませんよ! どういう事なんですか!?」


「では、それは妹では無いのか!? 先程の戦いで能力が扱えるのは既に知っている……ど、どうなっているんだ……!」


「ど、どう言う訳か……私が女の子の格好をして修行をしてみたら、能力が扱えるようになったんです……」




 彼等は絶叫するのだが、おかしな空気になる馬車の中で更に説明を続けて何とか納得して貰う。


 そして、私は姉さんに会う為の新しい生活を王都で始める事になるのだった。

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聖女の弟はオトメちゃん 勇者パーティーから抜けた男の娘は小さな善行を積み重ねたい りすてな @Ristena

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