ファンタジー・リベリオン

甘衣君彩@小説家志望

ファンタジー・リベリオン

 すべてを巻き込んで、ファンタジーがしたかった。


 そのファンタジーは、一般的にが信じられているものとは少し違う。独特だねとか、個性だね、とか笑われて、皆に離れていかれることを知っている。だけど。それでも。私はデスゲームの開催を宣言しようとしたし、虹の橋は追いかけた。色んなことをした。それは、抵抗するためだと思う。自分に。他人に。すべてに。たとえ、それが孤独を増幅させるとしても。

 その成果だったのだろう。あるいは、区切りだったのかもしれない。

「ファンタジーがしたいって、君?」

 電車の来る直前のプラットホームで。屋根を挟んだ、ピンクと青の境界の真下で。きらきらひかる一等星が、私にそう聞いたのは。時は、止まっていた。絶対にそうだ。きっと彼が、時を止めたのだろうと思っている。

「名前、聞いてもいい?」

 一等星が、そういって儚げに笑うものだから。私は何も答えられなくなって。それは、積み上げてきた孤独があまりにも大きかったからであって…………私の、せいで。

「……っ、ぁ、む……」

「じゃあ、ムーちゃん。僕と一緒に、ファンタジーをやろうよ」

 それでも、彼は私に手を差し伸べたのだった。


 これは、孤独な私と、きらきら輝く一等星の彼が、「ファンタジーをした」顛末を描く物語だ。





 この物語を始めるのに、まずは説明をする必要があったと思う。どこから話せばいいのだろう。私自身……は、どうでもいい。それよりも、彼の話、いや、彼も大切だけど、もっと前に、世界の話をしないといけない。

 彼と私の目的は、ファンタジーを現実世界に持ち込むことだ。

 ピンク色の空の世界の下には、幹が黄色の大きな木があった。その中に、私達のアジトはある。

「さあ、今日は銀河鉄道計画を進めよう」

 ああ、あの机に宇宙の図を広げて、クレヨンをいくつか手にした一等星が彼だった。一等星って何度も言ってるけど、勿論本物の星じゃない。私と同じ人型をしていて、黒い髪に黒い目を持った、ブラウスにズボンを履いた、それでいて輝いている彼だ。彼は、私が黙ったままでも、目を逸らしていても、絶対に怒らない。それは、彼が一等星だからだと、私は信じている。

「銀河を巡る鉄道ってね、別に夜だけを走るわけじゃない。昼間を経由することもあるはずなんだ。だから、現実世界の昼に現れる時間を突き止めることができれば、無理やりそれを乗っ取るのもユメじゃないって思ったんだ」

 私は話を聞きながら、持ってきたルーズリーフにシャーペンを走らせる。小説の設定資料でも書くかのように。すると、彼は持っていた箒を指替わりに、地球を差した。私はシャーペンを止めた。首を傾げる。

「僕の見立てだと、明日の十時十五分に日本に来ると思う」

 わあ、凄い。もう突き止めるまでやったんだ。やっぱり彼は凄い。行動力があって、それに誰にでも話しかけることができる。私はついて行ったことがないけれど、ドラゴンや妖精さんとも話したことがあるらしい。

 彼が私の顔を見て微笑んだ。私も、彼の顔を見て微笑んだ。それから、二人でまた、ファンタジーを現実世界に持ち込むための計画を練っていく。


 あまりにも、彼との時間が好きだから。あまりにも、求めていたものが揃っていたから。現実に帰ることが、辛くなってくる。

 ムーちゃんとは呼ばれない私――堤見つつみ編夢あむの人生は酷いものだ。


 現実世界に帰ってきた私は、パジャマから制服に着替える。靴を履いて、家を出て、高校の昇降口にくるまでの間に、心は重量を増していく。きっと、最初から重たかった。そんなことを考えるまでは、文章にして三行で終わりそうなくらいに、短い。問題は、教室に辿り着いてからだ。席に着いたときには、重たくなった心は水に浸かったように動かなくなる。

 その頃にはもう、私はファンタジーを願い始めている。

 ルーズリーフを取り出して、別の計画を書き始める。銀河鉄道がダメだったら、ドラゴンを召喚するのはどうだろう。身体が大きいし、時空を超えられるのかは分からないけど、もしドラゴンが空を飛んだら皆もファンタジーを認めざるを得ないのではないだろうか。私は……仲良くできないかもしれないから、彼にお願いしよう。

「おはよう堤見さん」

 肩を揺らした。話しかけてきたのは、苗字もよく覚えてない――覚えないようにした――クラスの中心の近くにいる女の子だ。

「……ぁ」

「また何か書いてるのー?」

 私が答えずにいると、女の子はどこかに目くばせを送った。また笑顔を作って、私に話しかける。

「堤見さんってすごいね」

「ありがとう」

 適当に相槌を打つと、彼女は、いや彼女以外も、くすくすと笑い始める。


 いじめられる側は悪くない、なんて嘘だと思う。

 こう言ったら、SNSでは簡単に炎上するだろうし、誰も彼もが私を非難すると思っている。でも、そんなのもう今更だ。いじめられる側が悪い場合、それが私という存在だ。デスゲームの開催を宣言して、文化祭の出し物で「教室にプールを作ってボートライド」なんて提案する、私という存在。皆にとっては、迷惑な存在。幸いにも私は物理的ないじめを受けている訳では無い。ただ、何かすればにやにやされ、わざとらしく「堤見つつみさんって凄いね」って言われるだけだ。それだけで、済んでいる。それだけで済んでいることを、有難く思っている。

 どうして、いじめないで、辛くしないでなんて言えるの?


 机の下で、を握り締める。


 私よりももっと辛い人がいて、私より酷い状況の人がいるこの世界で、自業自得で不幸になった自分のことを救って欲しいなんて思ったことはなかった。

 私を救えるのは、大好きなファンタジーだけ。何も気にしなくていい、考えなくていい、幻想だけ。目を閉じると、あの世界の存在がありありと浮かんでくる。花は歌のメロディを間違えて笑い、木々は踊りの順番を間違えてわかりやすくしょげる。そんな、楽しくて明るい世界の中心に、一等星がある。「堤見編夢」から「ムーちゃん」になって、彼と一緒にいるだけで、私は飛び切りの幸せ者なのだった。


 ふと、私は窓の外に視線をやった。汽笛の音が聞こえた気がしたのだ。その音は、どんどん近づいてくる。

「何だ?」

 先生の声に、がたんごとん、大きな音が重なっていく。私は立ち上がった。どうしたの、と訝しむ彼女の声を、誰かの悲鳴がかき消した。何かが、こちらに突っ込んでこようとしているからだ。ああ、その正体は――夜だ。暗闇が世界を支配するとともに、その暗幕を引いて、巨体の空飛ぶ蒸気機関車が飛んできている。


 ファンタジーだ!!


 出ない声で、叫んだ。本当にやったんだ、銀河鉄道計画。もう、私も呼んでくれたら良かったのに。でも、彼がやったことなら全部許しちゃう。窓に向かっていく皆とは反対に、私は廊下に向かって歩いた。途中からは小走りになった。すると、廊下側の窓に彼が汽車をつけてくれた。

「いい顔してるね」

 彼が微笑む。私も、とびきり笑って頷いた。

「さあ、汽車に飛び乗って。僕と、この世界をファンタジーで染めよう」

 昼と夜が混ざりかけている空の下、プラットホームではないけれど、窓を挟んで、私と彼は手を繋いだ。

 どんな立場でも、彼だったら――ファンタジーだったら、許してくれる。私が悪くても、全部、許してくれる。一緒にいてくれる。ああ、私は幸せだ。すべてを巻き込んで「ファンタジー」をやれることが、幸せで仕方がなかったのだ。


 これで、私と彼の幸せな物語は終わりを告げた。

 めでたしめでたし。





 そんな終わり方は、しなかった。

 物語は、ここで終わらない。

 だって、ここは現実世界なのだから。


 


 破壊された学校。墜落した汽車。

 そのすべては曲解されて報道され、学校は休校になった。ひとしきり空を飛んで家に戻ってきた私のもとに警察が来て、留置場で取り調べを受けた。空飛ぶ汽車の出所を訊かれた。保険会社の人が来て、損害賠償の話をされた。

 私は不起訴になったらしい。

 物語みたいにもみ消しなんてされなかった。普通にニュースとして報道されて、私の顔はインターネットで拡散された。これは、泣いて私に縋るお母さんから聞いた話だ。


 それでも。

 私はまた、あの世界に飛び込んだ。


 幹の黄色い木の家は、ボロボロになっていた。

 葉が落ちて、中に置いてあったすべての小物が散乱していた。誰かが手当たり次第に投げてしまったかのように。

 ファンタジーだから、埃は舞わない。ただ、輝きを失っているだけだ。私は、立てかけてあった箒を取った。箒で二三回、床を掃く。掃いた箇所に粉が落ちて光る。それがふわりと宙に浮かび上がる。それはまるで、屑の蛍のように。彼が、魔法使いに用意してもらったものだと言っていた。これはきっと、妖精の粉だ。魔法使いが飛べるのは、この粉のせいかもしれない。もし、この粉を集めてばらまけば――

「……ムー、ちゃん」

 か細い声が私を呼んだ。振り向く。玄関先に立っていたのは、ああ、彼だ。良かった、彼だ。私は彼に駆け寄った。それから、私は彼の顔を覗き込んだ。

 ……。

 彼の目と口は、固まったみたいに動かない。どうして。どうして、輝きを失っているの。どうして。銀河鉄道計画は成功して、皆がファンタジーに目を向けたのに。

「……僕、君のことを知っていたんだ」

 言葉が、見えないけど浮遊したように見えた。それから、すとんと私の心に落ちた。

「君がファンタジーをやりたいって頑張っていたのを噂で聞いたんだ。僕はこの世界のことを知っていながら、臆病で何もできなかった。だけど、君のことを巻き込めば、僕にだって……」


 かつん。


「こんな惨めな僕にだって、何かができるんじゃないかって思ったんだ」

 何か小さなものが落ちてきて、私の足元に落ちた音。私は、彼の落としたものに視線を向けた。それは、粉によって目の届くところまで持ち上げられる――名札だった。

『翔嫁高校二年四組 紺野踏陽こんのふみはる

 彼は、この世界の住人じゃなかったんだ。

 私は、思わず彼を突き飛ばした。


 息を呑んだ。その息を吐きながら、口を動かした。唇が空気を食むだけだった。何も、言葉が出てこない。

「はは、嫌われても仕方がないよね。僕が勝手に君を巻き込んで」

 違う。そんな言葉が欲しいんじゃない。否定したいのに、声が、出ない。

「…………僕が君を巻き込んだから、君までひどい目にあってしまった」

 そんなこと、言わないで。私は彼をもう一度抱きしめようと手を伸ばした。彼は後ずさりをした。私がなんとか口を開こうとする間に、彼は、転がるようにその場から逃げ出していた。


 いつの間にか、勝手に膝が動いていた。流れに任せて崩れ落ちる。

 彼は、自分の話をしたことがなかった。私も、自分の話をしなかった。だから、お互いにお互いのことをよく知らなかった。彼は、私にとっての一等星だった。私は、彼を美化していた? 違う。私を許容してくれたのは彼だけだったから。私の人生を輝かせてくれたのは彼だったから。

 その彼が、私のせいで、彼が傷ついて――

 

 違う。

 私の中の何もかもが崩れようとしている中で、思考だけがドロップみたいに転がった。

 違う。そんなんじゃない。

 今、私はファンタジーの世界にいる。何も考えなくていい幻想の世界にいる。じゃあ、私のせいだとか、彼が誰を傷つけたとか、考えなくていいはずなのだ。考えるべきは、もっと違うこと。転がったドロップを搔き集めて、何を考えるべきか必死に探し求める。

 彼のことは、知らないのだから分かりようがない。何を思って私を誘ったのかだとか、私のことをどう思っているのかなんて、私は知らない。ただ、私のことだったら分かる。ファンタジーを現実世界に持ち込むって決めたのは私だ。巻き込まれたなんて思ってない。自分で幸せを求めただけ。

 それから。私の編んだ夢は「ファンタジーをやること」だ。私という存在。みんなにとっては、迷惑な存在。いじめないで、辛くしないでなんて言えない存在。そんな私が何も気にせず楽しめる場所。それを、現実世界に創り出すことが、私がこの世界にいる目的なのだ。


 私は、立ち上がって、箒に跨った。扉を出て、黄色い木の外を飛び回る。周りを見回せば、ピンク色の空の下、青色の草に紛れて花が点々と咲く世界。いつもの騒がしさはなく、辺りには静けさが漂っている。彼が永久に戻って来ないことを悟って、世界が落ち込んでいるのかもしれない。

 でも、まだできることはある。ドラゴンを呼び出す計画。雨を飴に変える計画。世界全部のクレヨンを浮かせる計画。全部だ。もっと、まだ、あるはずだ。銀河鉄道計画を二度実行してもいいし、違う計画を今から立案してもいい。

 いっぱい、ドロップが欲しい。甘い甘い思考が欲しい。私一人の力ではできない。彼にも頼ることができない。ちょっと癪だけど、誰かに協力を求めなくちゃ。いっそ、この世界にいる全員でファンタジー世界に乗り込めば、んじゃないかな。

 主体性という傲慢は、見えないまま形を変えて、私のことを呑み込んでいく。


 彼が、ファンタジーをやらないとしても。

 この先、ファンタジーが滅ぼされるとしても。

 まだ、やるしかない。


 ―――


「ファンタジー、やろうよ」


 彼が、驚いた顔で私を見ている。

 電車の来る直前のプラットホームで。屋根を挟んだ、ピンクと青の境界の真下で。輝きを失った星が、私だけを見つめていた。時は止まっていた。絶対にそうだ。だって、私が止めたんだから。だとしたら、動かすのも私でなくちゃいけない。

「忘れものだよ、踏陽くん」

 笑顔を浮かべて、名札を差し出した。彼と私の間に、また時間が流れる。

「む、ムーちゃん、声が!」

「編夢って、名前で呼んで」

 私は、彼のシャツの胸ポケットに彼の名前が書かれた札を押し込んだ。踏陽くんと一等星がいっしょくたになるよう、願いを込めて。その願いだって、彼に浸透していくと確信が持てる。だってここは、飴が降る世界。背後にはドラゴンを従えている。彼が答えない――答えるどころではないのを見て、私は更に続けた。

「ごめんね、私、緊張癖があって。いっぱい話しかけてもらったのに、全然お話しできなくてごめん」

「それは、僕が」

「違うの、あのね、私……っ」

 彼の声を遮ったくせに、途中で声が詰まって話せない。ダメだ、怖い。足が震える。沢山の人が見ているステージに一人で立つかのような震え方。どうしよう、また、私のせいで彼を傷つけてしまったら。だけど、ここで止まってはいけない。

「私、自分のせいでいつも誰かを傷つけて、皆が笑って気味悪がるのは当然だし、迷惑な存在だって思ってる。でも、君は、私に優しくしてくれて」

「だけど、君を巻き込んだのは僕なんだ!」

 彼の叫び声が、プラットホームに響き渡る。偽物の鳥の鳴き声が私達の間を通り過ぎていった。電車が斬る風が、遠くで音を奏でていた。彼は、その音を搔き消すほどに大きな声を上げていた。

「僕は、君のことをもっと傷つけた! 本当は、僕の方から戻ってきて君にもう一度謝るべきだったんだ。僕は取り返しのつかないことを」

「取り返しのつかないことをしたいの!!」

 彼の目が、動いた。しっかりと開いた。

「私、ファンタジーをやりたい。キラキラして、ふわふわして、なんでも許されるファンタジーを、この世界に持ち込みたい。後のことなんて気にしない」

 彼の瞳は揺れている。困惑? 私が怖い? 多分、どっちもだと思う。でも、不安には思わない。だって、彼だから。私は彼のことを知らないし、彼も私のことを知らないけれど、そのことさえも私は気にしていないのだ。

「君は逃げなくていいし、私は迷惑に思われなくていい。他人を気にするのを辞めても、自分を気にするのを辞めてもいいの。ファンタジーの世界でなら、何も気にしなくていいんだから」


 彼の――踏陽くんの手が、動いた。

 私の手に、右手を重ね合わせてくれた。

 後ろで、ドラゴンの慟哭が響き渡る。ばさばさと羽音が聞こえる。小さな物音が聞こえる。偽物の鳥の鳴き声は搔き消された。足の震えは、いつの間にか止まっていた。私は、彼に微笑みかけた。私のやりたいように、微笑んだのだ。

「一緒に現実世界を壊そう。ファンタジーを、この世界に持ち込もう」



 ドラゴンの背に乗って飛ぶ私達のことを、指さして叫ぶ人々は、もう「失礼」という概念を失いかけていた。その時にはもう、彼は、輝きを取り戻していた。いや、私の目から見ると、更に輝いているように見えた。

「編夢ちゃんって凄いね。こんなに沢山のファンタジーをやるなんて」

「踏陽くんが居てくれるからだよ」

 適当な相槌ではなく、自然な言葉を意識せずに返した。彼の背にくっつき、あたたかさを感じる。ああ、思えば、彼が存在していないなんて考えられない。現実世界に存在していてくれてよかった。それが、唯一この世界にあった救いだった。

 それ以外のものを、降り続ける飴が破壊していく。ガラスを割って、クレヨンが飛び出してくる。世界は変わる。ファンタジーと現実世界の境界線が無くなるだろう。


 ムーちゃんでもあり、堤見編夢でもある私は。

 世界が変わるにつれて、「迷惑な存在」ではなくなっていく。




 ―――


 数日後。

 いや、数日という概念が残っているのかどうかも分からないこの世界で、私は雲の上から街を見下ろしていた。

「……まさか、ここまでうまく行くとはね」

「ね。あっ、あそこに怪獣がいる」

 ホントだ、と隣で踏陽くんが笑った。

「怪獣だったら、ドラゴンとでも仲良くできるだろうね」

「うーん、案外うさぎとか見せたら喜ぶかもよ?」

「はは、時計うさぎが怖がってしまうよ」

 ころころと話は転じていく。その間を見計らって、私はとんと雲を蹴る。踏陽くんもそれに続いた。手を広げて落ちていく。私と踏陽くんは、一緒に笑った。スカートのポケットから妖精の粉を取り出して、辺りにさっと振りまいた。私達の身体が軽くなっていく。体勢を立て直せるようになる。私と踏陽くんは、どこまでも飛んでいける。

「編夢ちゃん」

 踏陽くんが、酔ったみたいに、そして歌うように呟いた。

「ファンタジー、できてるね」


 この世界は、ファンタジーで満たされた。

 人々は抵抗を辞め、大人しくファンタジーに呑まれるようになった。ううん、殆どの人がそれを楽しんでいると思う。現に、皆も私達と同じように浮遊して、街のあちこちを見に行っている。


 私は、彼と手を繋いだ。

 今度こそ、この先なんて気にしなくていい、最高のハッピーエンド。それが、この物語の顛末だ。後はずっと、ファンタジーが続いていくだけ。


 ――そうじゃない。

 

 きっとそうじゃないって、私も彼も分かっている。どのような世界でも「変化」というものは止めることができない。そうじゃなかったとしても、何度でも抵抗すればいいだけなのだ。


 私達が勝ち取った世界は、幻想的な輝きを見せている。

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