リッツヴァークの双竜−僕はその時、空の女神に出会った−

安崎依代@1/31『絶華』発売決定!

 髪の銀は、星屑の色だった。


 瞳の紺は、深い夜空の色だった。


 色が抜け落ちた肌は雲のようで、そこに指す頬の赤は朝焼けのような桃色。うっすらと笑みを湛えた唇は、夕焼けのような紅色。


 そんなあまねく空の色を宿した『女神』は、ポカンとしたまま礼も取らない僕を振り返ると、僕よりも先に夕焼けの唇を開く。


「『猛将』と鳴らすアイリス少佐がこのような容姿をしていて、驚いたか?」


 冬の朝日のように澄んでいて、凜とした声をしていた。


 その言葉に、僕は今更ハッと我に返る。


「い、いえっ! そのようなことは……っ!!」

「取り繕わなくてもいい。初対面の時、引き会わされた者は大抵皆同じような反応をする」


 僕よりも年若い……どう頑張って上に見積もっても10代後半、下手をしたらまだ10代前半なのではないかという年頃の麗しい少女は、淡く湛えた笑みを絶やすことなくそう言った。


「しかし覚えておきたまえ。私がこのリッツヴァーク戦線に従事する第52連隊第3師団の司令官、ルヴィア・アイリス少佐に相違ないということを」


 その言葉に僕は慌てて敬礼を掲げた。


 言われなくても分かっている。


 新月の空を思わせる漆黒の軍服に、雷のように走る金の階級章は間違いなく彼女の階級が少佐であり、司令官であることを示している。


 いくら外見が年若く見えようとも、彼女の方が僕より何階級も上の人間だ。言動を間違えれば、僕の首なんて簡単に飛ぶ。事実、何人もの首がそれを理由に飛んだという話だ。


 だから僕は今、ここにいる。


 彼女の新しい副官……生贄とも呼べる存在として、彼女の目の前に僕は引き出されたのだから。


「私とて、飛ばしたくて飛ばしているわけではないのでな」


 彼女が自ら手討ちにしてきた、歴代の副官達の首を、という話だろう。


「さて、君の首が長く君の胴体とともにあることを、私も祈っているよ」


 その嵐のように激しい気性と、並び立つ者のない戦功からつけられた名が『ヴィント女神ホーゼ


 戦場に現れたら最後、誰も彼女に太刀打ちなどできない。思うがままに戦場をかき乱していく、麗しき竜巻であると。


 そんな麗しき女神は、嵐の前の静けさという言葉がなぜか頭にチラつく笑みを浮かべたまま、僕へ片手を差し伸べた。


「ひと時のことだろうが、よろしく頼むよ。ヴァン・イード軍曹」




 これが僕と『女神』……後に『リッツヴァークの双竜』と呼ばれることになる一対の、初めての対面であった。

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