雪にとけた記憶
猫部な茶都 うなべ
Even now I remember that day.
雪がちらつく公園。私は一人ブランコに揺られながらスマホを眺めていた。
「別れよう」
どうしても消せない、忘れられない、もう会えない人からのメッセージだ。
「……ぁあ。もう十一時か」
店を出て、この公園に来たのが確か九時ぐらいだったから、かれこれ二時間この公園にいたのだろう。思い出に浸ってしまっていたのだろう。
あのときもこんな空だった。ここら辺ではとても珍しい雪が降った十二月二十四日の話だ。
「雪だ」
滅多に降らない雪をみてきっと浜松市民みんな少し浮ついているだろう。生まれも育ちも浜松の私も例に漏れず、久方ぶりにみる雪を楽しんでいた。
「クリスマスを君と過ごせるなんて、夢みたいだ。ホワイトクリスマスだよ、夢みたい」
「うきうきだな。……そんなに俺と過ごせるのがうれしいのか?」
「うん。」
五年の片思いがやっと叶って、私は彼の隣にいることができている。自然と彼の隣にいると口角があっがてしまう。いつもはちょいちょいからかって私でもてあそぶが、たまに甘えてくるところや急に素直になるところが最高に甘やかしたくなる。
「そ……そうか」
こうして褒めるとちょっと照れるところも君とずっと一緒にいたいと思う理由だ。
私の記憶はこれ以上この思い出を再生してくれない。
「はぁ、はぁ。いやだよだめ」
私が壊れてしまうから。
私は彼が亡くなったあの日から忘れられなくて、毎日この思い出の公園にやってきて、思い出して、悲しんで、苦しんで、自分を壊している。
死者に口は無い。これだけ相手を想っても返ってくる言葉はない。それがこんなに苦しいとは。
彼をずっと想っていたい。このまま彼との思い出を抱いたままあの世へ行けるのならばどんなに嬉しいことか。
雪にとけた記憶 猫部な茶都 うなべ @tyanomiya_3
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