騒音! ご近所迷惑
6人が公園の出口に向かおうとすると、閑静なはずの住宅街の通りの向こうから、騒々しいバイクの音が聞こえてくる。
まだ周囲の住民たちは寝入ってはいないだろう時間帯だが、あまりの大音量に6人は何事かと足を止める。
通りの角を回った処がバイクのヘッドライトで照らされたかと思うと、次々と改造クラクションの騒々しい大音量が公園に近づいてくる。
けたたましい排気音が先導して、改造バイクが、つぎつぎと、公園に乗り入れてくる。
なんと、このご時世に、手動運転である。
当然、公園に一般車両の乗り入れは禁止である。
先ほどまでの退廃的な静けさはどこへやら、公園は、騒音と光の狂騒につつまれる。
「あー……、こいつらかぁ……」
「うわ……、だっさ……」
翔太の後ろに隠れて、晴香は思わず独りごちる。
暴走族のメンバーも乗り物も、あり得ないくらい前時代的である。
とても現代の悠心天皇の治世とは思えない。
昭和か平成か令和かといった大時代的なアナクロ集団が、只野家6人を取り囲むように、公園の広場を埋め尽くした。
ざっと見、15、6台の違法改造バイクである。
運転している少年にしがみついている少女たちも合わせると、全部で20人ほどだろうか?
「んだ!? てめーらはよぉ! 人の断りもなしに俺たちのシマでちょーしこいてんじゃねーぞ、こら!」
「花火なんざ、まだ早ぇーんだよ! クズが!」
「ゴミは持ち帰りましょー! 殺すぞ! オラ!」
公園に先客がいることに不満げな暴走族の少年少女たちは、口々に翔太たち6人に暴言とクラクションを浴びせる。
「花火? あぁ、さっきの……アレ?」
「ん、だろうな」
翔太と人志が、ちらりと目を交わす。
他人のほんの小さな動きも気にくわないかのように、ひときわデタラメな改造バイクに乗る少年にしがみついていた少女が、表情を歪めてクラクションに負けじと前の少年に大声をかける。
「ちょっとぉ、こいつら、あたしらのことナメ過ぎぃー! きょーいくくれてやってよ、教育! ちったぁ、目上のモンにはビビれっつーの!」
ビビれと言われても、只野家の世帯主夫婦は、人志が民間塔探索調査会社の斥候社員であり、ひばりは元探索者であり、現在、病院勤めの回復技師である。
さらには、祖父の航三は退役したとはいえ、過去の職歴は軍関係である。
家族6人のうち半数が、塔のモンスターとの戦闘を経験しているのであるから、こんな、イキリ散らかしただけの少年少女にビビるも何もないのである。
祖母のソラにしても、家族の荒事に関しては年季の入った理解があり、動じる気配はみじんもない。
さらに翔太も今しがたスキルの効果を確認して、自分のスキルへの不安を拭い去ったばかりなので、暴走族の少年少女たちの期待する態度など、これっぽっちも取りようがないのである。
翔太は、デコデコに改造されたバイクのカップルに視線を向ける。ある意味、なーんも考えていない、このカップルがうらやましい。
自分もバイク、こんなカッコ悪いのではなくフツーのかっこいいバイクに、女の子を…というか美園を後ろに乗せて走らせたら、いいだろうなぁと、一瞬、何気ない青春イメージが頭をよぎる。
目の前のバカップルは全然セイシュンって感じじゃないが。
晴香は、翔太の後ろに隠れて目を見開いている。
どうやら暴走族を恐れているというよりは、別のことに注意が向いているようである。
「うわ! こいつらキモ! ねーねー、お兄ぃ! こいつらタイムスリップ劇場だって。ありえないって、きんもっ! どっからこんなファッション買ってきたわけ? こんなんで外、歩けるわけ? うわうわうわ…!」
後ろから早口でまくし立ててくる晴香に、幸せな妄想イメージを中断された翔太がジト目で、アホ共を煽るんじゃないと注意しようとすると、祖父が先に暴走族のリーダーとおぼしき少年に声をかける。
先ほどのバカップルの男のほうである。
「君がリーダーかね? 周辺の住民たちが迷惑しとるようだから、その大音量をやめてくれんかね?」
「……はぁ? じじい! ボケてんのか!? 殺すぞ!」
「やれやれ」
「ヤス! こいつらヤバすぎ! やっちゃいなよ! ナメられ過ぎだって! まじヤヴァい!」
どうやら少年少女たちの知的水準は思いっきり低く、大音量のクラクションと排気音に煽られたテンションは思いっきり高いようで、会話が成立する余地は全くないようだ。
大声を出せば相手は引くというのが、どうやら少年少女たちの対人作法のすべてのようだ。排気マフラーの錆のようにこびりついた固定概念は、金属たわしでゴリゴリしなければ、落としようもない。
「ナメてんじゃねーぞ! ああ!?」
「てめーら死んだぜ! ぶっ殺してやる!」
「この間のおっさんみたくボッコボコにしてやんぜ! ヤー!」
暴走族のリーダーが掛け声をあげると、呼応するように暴走族のメンバー全員が、握りこぶしを夜空に突き上げて、同じ掛け声を大声で叫び始めた。
「ヤー! クトゥルフ!」
「ヤー! クトゥルフ!!」
「ヤー! クトゥルフ!!!」
少年少女たちの大声の斉唱に、ピクンと片方の眉を釣り上げて、航三が翔太に、おもむろに問いかける。
異様な状況も、どこ吹く風である。
「翔太、良い探索者になるには、どーするか知っとるか?」
「は……はぁ? こいつら大丈夫? へ? 良い探索者? え? モンスターいっぱい倒して、いっぱい素材、持ち帰ってくることなんじゃん?」
「いーや、違う。それは良い探索者の取った行動の結果じゃ」
「え、じゃ何?」
「それはな、悪人を殺せるかどうかじゃ」
「は?」
翔太は、目点になる。
「探索者の死亡原因の3割はモンスターの攻撃によるもの。1割ほどが塔内のトラップによるもの。探索者の残りの6割は素材を狙う悪人共に殺されておる」
「はぅ」
「こやつら、クトゥルフ教の連中だ。塔の周りで素材を持ち帰ってきた探索者を狙ってくる連中の片割れどもだ」
彼らの信仰する邪神への異様な大斉唱に、少しも臆せず平然と会話する航三と翔太に、ヤスと呼ばれたリーダーの少年が、こめかみに赤い十字マークを貼り付けてバイクを降りてくる。
怒りの沸点がヘリウムや水素並みに低い。
人間性の軽さと感情の許容レベルには関連があるようだ。
ヤス少年は、バイクの水素タービンの横に差し込んである特攻用の鉄パイプを勢いよく引っこ抜くと、肩に斜めに構えて、翔太たちに向かって怒鳴りちらす。
「てめーら殺す! ぜってー殺す! そっこー殺す!」
翔太の肩にちょこんと両手を乗せて、後ろからジト目で事態をうかがう晴香は、目の前の暴走族に何の配慮もない所感を翔太にのたまう。
「ねーねーこいつらって絶対アタマおかしいって。着てる服もおかしいし、喋ってる言葉もおかしいし、全部おかしいって。キモくない? ねーねー? こんなん家の近くにいるとかありえないんだけど?」
「だから煽るなって」
翔太はヤスと呼ばれた少年に向かうと、頬をポリポリしながら話しかける。
翔太的には、平和的に事態を収めたい所存である。
晴香の煽りで舞い上がった連中をフレンドリーな笑顔で抑制すべく、ヤス少年に相対する。
翔太は、にっこりスマイルだ。
「あー、ほら、アレだろ、アレ? うっさいから? な? もう夜だし。しっしっしっ。な? しっしっしっ。もう解散。な?」
ヤスのリーゼントで固めた髪の毛が逆立ち、火に掛けたヤカンが蒸気を吹き出すように、ヤス少年の怒声が1オクターブ高くなる。
「てめー殺す! ぶっ殺す! そのねーちゃん、犯してからぶっ殺そうと思ったけど、止めた! ぶっ殺してから犯す! ぜってーぶっ殺す!」
ヤスの紅潮した顔色は、暴走族のメンバー全員に伝染して、今にも翔太に飛び掛からんばかりである。
航三が、翔太に視線を送る。
「ちょうどいい。翔太。こやつら全員、殺してみせるんじゃ。探索者試験じゃの?」
「えぇ? それってヤバいんじゃん?」
「容赦も遠慮もする必要なんぞないぞ。晴香に乱暴する、言うとるんだ。向こうから殺人やら暴行やらの脅迫を受けとるんだからの。思いっきりやれ」
「でも殺しちゃうと、俺、殺人罪とかになっちゃわない?」
「せーとー防衛というやつじゃな。こんな連中は、討伐するにかぎる」
「うえぇ?」
「よしよし、打ち漏らした連中は、とーさんに任せなさい。しっかりゴリゴリしてやる」
「あら? じゃ警察の皆さん呼んでおきましょうか? 東署かしら? 110番かしらね?」
「ふーん。パトカーが来た時に死体がいっぱい転がってると、さすがに印象ワルいわねぇ…」
「だ、だろ?」
「ま、いっか。AED効果って知ってる、翔太?」
「は、突然、なに?」
「ヒットポイントがゼロになって1分間以内なら、ふつーのヒールを使って、HP1で復活できるのよ。AED効果っていうの。回復技師の初級編よ?」
「そーそー、おしおき、おしおきー!」
「い、いや?」
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