安心! スキル判明

晴香は、まるで自分のことのように翔太のスキル発動にはしゃいで、兄の横でピョンピョン飛び跳ねている。


翔太が、黄色い熊と灰色のゾウのシーソーに駆け寄ると、ぴったりと後ろについてきて興味シンシンな好奇心を全身にみなぎらせて、翔太の後ろからのぞき込んでいる


人志も翔太の左隣に陣取って、黄色スキルの発動をうながす。


翔太は、水滴にぬれた黄色く丸っこい熊を両手で包みこむ。。


「よし、翔太。やってみろ」


「よーし……、いくぞ! ……ショット!」


掛け声とともに、翔太の前後左右の4方向の空間が黄色く揺らいだかと思うと、翔太を中心に黄色い半透明のリングが現れ、瞬時に4つに分割されて、前後左右の4方向に打ち出された。


「どわっ!」


「きゃーーーっ!」


晴香と人志は、半透明のバナナのような4つの黄色いバーに吹き飛ばされてしまう。


翔太の後ろに陣取っていた晴香は後方のバナナの直撃を受けて数メートル離れた砂場まで吹き飛ばされてしまう。


探索者である人志は、瞬時に受け身を取るものの、左のバナナの直撃を受けて、数メートルもゴロゴロと地面を転がってしまう。


翔太の右隣では、右側のバナナが少し離れたところにあるゴミかごを吹き飛ばし、スチール製のかごが中身をぶちまけながらゴロゴロと転がっていく。


前方では、離れたところにある太いどんぐりの植え込みが、衝撃音とともに、ゆっさゆっさと揺れている。


「うわっ、大丈夫か!? 晴香! 親父!」


「ひっどーいっ! お風呂入ったのにー!」


「うわたたたた……!」


「まぁ、晴香ちゃん!」


ひばりが、すかさず晴香と人志に駆け寄る。


ひばりが、チェキポーズをかざして人志を見ると、またまた1HPだけヒットポイントが削れていた。


「ちょっとちょっと! また1HP削れてるわよ! はいはい、2人ともヒールヒール!」


「黄色は4方向かよ。これはわからなかったな。ほら、立てるか?」


翔太は砂場に駆け寄って、目がばってんになった妹の手をとって助け起こす。


ネコ系少女晴香は砂でじゃりじゃりである。


「んもー! 気を付けてよねー! さいてー!」


「わりーわりー」


「ふうー……。あのリンゴのショットは何かで殴られたようだったし、今のは壁にぶつかって吹き飛ばされたような感じだったぞ」


「まぁまぁ、晴香ちゃん、人志さん、2人とも大丈夫? 無事でよかったわ」


「どちらも1HPのダメージが入るのか。やはり攻撃の性質に違いがあるのだろうな。ふーむ……」


普通の探索者に発現する遠距離系の能力というと魔法使い系の魔法が代表例だが、孫に発現したスキルを分析して、祖父の航三は、翔太のスキルのアドバンテージを推測する。


攻撃魔法は溜めの詠唱時間が必要だが、遠距離に位置する敵に1度の攻撃で大ダメージを与えることができるものが多い。


しかし、翔太のスキルは詠唱行為が必要ないばかりか、マジックポイントに依存しないスキルの無限連射ができるようだ。


「そのスキルの連射はどれくらいできるんだ、翔太?」


「黄色だと危ないから、青にしてみよっか?」


翔太は、再度、隣のシーソーに近寄り青イルカに左手を置く。


右手を斜めに空に向けて掛け声とともにスキルを発動すると、翔太の前方3方向に青い燐光弾がマシンガンのように連続して打ち出されていく。


「むう……。1秒間に4、5回といったところか? ということは60掛ける5だとすると……、1分間に最大300HPのダメージを与えられるということか? いや、これは3方向弾だから、全部当たったとして最大900ダメージか。とすると、こりゃとんでもないぞ」


「ん~……、となると、俺の最大ヒットポイントが130だから、じっとしていると30秒も待たずにノックアウトされてしまうということか……」


「翔太のHPが3だということも併せて考えると、翔太のこれは、攻撃能力に全振りしたジョブということになるな」


ぺらっぺらの紙装甲に、攻撃に全振り……というかエクストリームな極振りをしたスキル。それが翔太に発現したスキルのようであった。


航三と人志は、翔太のスキルを分析しながら顔を見合わせる。


「でも、まぁ、翔ちゃんのスキルもどんなものかわかったし、よかったわね」


「うん、スキル検査で『赤』だの『青』だの出たときは、どうしようかと思ったもんな」


「ふふふ、よかったわ。じゃ、そろそろ帰りましょうか? リンゴやイチゴがそのままですもんね」


「あら、あわてて出てきたから、リンゴに塩を振るのをわすれてたわ」


「茶色いリンゴかぁ」


「味は変わらんだろ」


「ていうか、この公園、ひさびさに来たけど、むっちゃ荒れてるよね? こんなんだった?」


翔太は、改めて夜の公園をぐるりと見回す。


夜という時間帯だけでなく、ボロボロに傷ついた公園施設が、遠景にそびえる巨大な塔と相まって、なにやら退廃的な雰囲気を周囲に醸し出している。


晴香と一緒に遊んだ子供の頃の、記憶の中にあるカエデ公園とは大違いである。


「そういえば、ゴミかごを凹ませてしまったな……。これは区の管理課に届けておかんとな」


「うーん……。もともと、ボコボコになってたのが、さっきのでひしゃげたって感じだね。届け出る必要あるのかなぁ? 内側からゴンゴンすれば良くない?」


「こういうことは正直に名のり出んといかんぞ? でないとお天道さまの下、後ろめたく歩くはめになるからな」


「でも、こーゆー公共設備って、結構、高いっていいますよ?」


「あら、翔ちゃんのスキルなら、すぐに稼げるようになりますよ。ほほほ。ね、翔ちゃん?」


「え、そうなの?」


まるで頭の上にピコンッと電球でもついたように、父親の人志は腕組みで直立不動になる。


「む、そうか! 息子がなんのハズレスキルを引いてしまったかと思って絶望したが、これは使えるぞ? ヒットポイントが低くても後ろからバンバン攻撃ができるわけだからな。これは只野アイランドのペントハウス計画を推進せんといかんな。早期退職の夢も現実味が出てきたぞ! わはは!」


「まぁ! そうね! 翔太、さっそく明日から塔を上りなさい。ふふふ。これはお金の予感ね! ジャランジャランよ? ふふふ♪」


「息子が塔に行くってのに、2人して目ぇキラキラさせてんなよなぁ……。つーか、そーゆーのはガッコの訓練スケジュールしだいだろっつーの」


両手を胸の前で合わせて現金なお金の予感にウキウキと左右に体を揺らすひばりに、翔太はジト目を向ける。


妹の晴香は翔太のスキル発動に片手をあげてぴょんぴょんしている。こちらもウッキウキのようだ。


「わたしも塔に行きたーい!」


「わはは、晴香はまだスキルライトを浴びてないだろう。もう少しの我慢じゃな」


「晴香ちゃんも、よいスキルだといいわねぇ。ほほほ。さて、めでたく翔ちゃんのスキルもわかったし、家に戻ろうかしらね。リンゴとイチゴが待ってるわよ」


公園の退廃的な雰囲気も、只野家の6人の気分を抑え込むことはできていないようだ。



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