練習! 夜の公園トレーニング

夜になって雨は上がったが、朝方の雨のしめりはまだ続いていて、住宅と住宅の狭間にあるカエデ公園の木々や砂場や芝生を、湿気と水滴の世界に落とし込んでしまっている。


公園の街灯や誘蛾灯の灯りの周りに、白く薄いモヤがかかり、カエデ公園は、濡れた設備や地面が光を吸収して、いつもより暗く、設備の角張った部分は、ところどころ光を強く反射する。まるで深海にいるのようだ。


公園から見える街の中心部には塔がそびえたっており、ライトアップされているわけでもないのに、ぼんやりと浮かび上がる塔壁が、あわい青碧色の燐光を放っている。


天と地を結ぶ威容が、地面とまだ垂れこめている雨雲の間を突き抜けて、我こそが神の意志なりと傲慢な印象を周囲の都市景観に主張している。



塔が、突然、出現したのは、今から50年前程だ。


塔は東京だけではなく、世界中に同時多発的に出現した。


塔の出現地は、決まって人口密集地であった。


東京、ニューヨーク、ロス・アンゼルス、ペキン、シンセン、ジャカルタ、デリー、マルタ、カイロ、テヘラン……などなど。


世界各地の人口密集地であっただけに、出現当時は、原因不明の世界的大災害として扱われた。


塔の下敷きになった人々の救助も建物の修繕もまったくおぼつかないまま、塔の内部には地球の生態系とはまったく異なる生物が生息していることが確認された。


さらに、そのモンスターたちの人類に対する攻撃性は、塔出現地の国家にとって、脅威であった。


早急に対策を打たねば、国家存亡の危機なのであった。


当初は、各国の軍が塔に対応していたが、常時の塔内戦闘が必須なことと、塔の内部からは、科学技術的に有用な素材が採取されることがわかると、世界各国とも塔専門の対策機関を設立するに至った。


日本では、軍や警察公安、消防などいくつもの省庁を横断する形で塔管理局が置かれることになった。


翔太が通うことになった中央高校は、この塔管理局が主導して設立するに至った初級探索者育成の学園である。



湿り気に濡れて、公園内部の遊具施設は、水滴が街灯の光をいくつも小さく反射している。


動物のオブジェが向かい合っているシーソー。ベンチ。スチール製のごみ箱。街灯の支柱。


滑り台の周辺には、赤い円錐形のコーンがいくつか置かれ、凹んだ滑り台の金属板や折れ曲がった登り口の金属の取っ手の周辺に、子供たちを近づけないようにしている。


「うーん……! さっきは上手くいったのに……? 何で?」


公園の広場の中央で、翔太が右の手のひらを掲げて、スキル発動に悪戦苦闘しているが、先ほどのようにはいかない。


翔太の後ろに陣取った家族たちも、先ほどの興奮と驚きも消え、どうした事だろうと頭をひねっている。


父親の人志が、あごに手をやりながら、翔太にアドバイスする。


「さっきのキッチンとここで、違うことろがあるんじゃないか?」


「違うところ……?」


「さっきは、リンゴを持ってスキルを使ってたよね?」


「リンゴなんてスキルに関係ないだろう? ん~……、リンゴリンゴイチゴリンゴ……、む、リンゴ……、赤?」


晴香の何気ない指摘をしりぞけようとするも、翔太は、ふと何かに気づいたように、周囲をきょろきょろ見まわす。


「何か赤いもの……、赤いもの、……あった!」


「赤いもの?」


翔太が、まるで鈍器で殴られたように、ボコボコに形を歪めている滑り台に駆け寄ると、晴香が、後をぴょこぴょこついていく。


翔太は、滑り台の降り口に置かれている赤い円錐ポールの水滴を手でピッピッと払って持ち上げる。


黒いマグネット重りがくっついているので、結構、重い。


「なんでボコボコなんだろう?」


「だよねぇ?」


「最近、深夜に若い子たちが大勢集まってきて、大声で大騒ぎしてるんですってよ。公園のものを壊したり、ゴミを投げ捨てたり。町内会の3班の会長さんが注意して、大ケガさせられたそうよ」


「ふーん? ふざけた連中がいるなぁ。塔が出現してからは、そんなのはクトゥルフ教団の連中や、やさぐれた探索者ぐらいなものだろうに」


「あら、わたしも聞いたわよ。まさにその邪教徒なんじゃないかって? 病院でも噂になってたし。夜勤の外来で暴力沙汰で担ぎ込まれる患者さんが増えてるって?」


「これじゃ子供たちも遊べないよな……、っと、結構、おもっ! 赤いコーン。赤……、赤、あか……!」


翔太は、赤いコーンを顔のあたりの高さまで掲げる。


「ショット!」


「ガギンッ!!」


その瞬間、翔太の掲げたコーンの前面に赤い揺らぎが発生して、赤い光弾がものすごいスピードで発射され、ゴミ箱のそばに立っている掲示板の金属部分に命中する。


明かりのついた部屋の中より、暗い公園内の方がよりはっきりと光弾が視認できる。


「やった!」


「うお! どうやったんだ?」


「赤色の物に触れて『ショット』って。」


「はぁ? 赤色に触れる? じゃお前のスキルの『赤』とか『青』の色って……?」


「『青』はないかのう?」


「あ、それ! イルカ!」


「まぁ、確かに『青』ね」


祖母の隣にあるシーソーの上には、青いイルカと白いウサギのかわいらしいオブジェが乗っかっている。


ただし、このオブジェも何かの刃物か金属棒で付けられてたようなキズがいくつもついている。


翔太は青イルカの水滴を、一旦、両手で払い、両手の水滴をピッピッと払ってから深呼吸し、オブジェを両手で包み込むようにする。


「ショット!」


掛け声の瞬間、翔太の前面に青い揺らぎが起こって青い燐光の3ウェイ弾が発射される。


公園の植え込みの幹に当たり、樹木の皮を削ってしまう。


「うわ! 同時に3つ!」


「すっごーい!」


「むーぅ、じゃあ、『緑』はどんな感じなんだろうな?」


「緑、みどり、ミドリ……っ! あ、葉っぱが緑だ」


航三の疑問に答えるように、翔太は植え込みのドングリの木に駆け寄っていく。


木の葉っぱをつまんで、斜め上に腕をあげる翔太。


「ショット!」


翔太の前面に緑の揺らぎが生じて、緑色の細長い蛍光の軌跡が空を斜めに突っ切っていく。


「うわ! ビーム?」


「わ! すっごーいっ!」


「なんと……! うーむ、これは明らかに遠距離用の攻撃スキルだな。多分、色によって攻撃の効果が違うんだろう」


「魔法スキルみたく詠唱時間がないから便利ねぇ」


翔太は、母親のひばりの指摘に首をかしげる。


「連射ができるってこと? ……どれ?」


葉っぱをつまみながら


「ショット! ショット! ショット!」


間髪いれず、3本の緑色のビームが低く垂れこめた雨雲に吸い込まれていく。


「おおー。連射ができるじゃないか!」


翔太は、ふと何かを思いついたように大きく深呼吸して、足場を崩さぬような仁王立ちの形をとる。


「……もしかして……? ショット!」


途切れないビームが夜空を斜めに切り裂く。


翔太が右手を動かすと、緑色の軌跡もそれにつれて移動する。


「おおー!」


「まぁ、翔ちゃん。大丈夫? マジックポイントが足りなくなっちゃうんじゃない」


「ううん、ぜんぜん疲れない。ってか、マジックポイント、もともと関係ないジョブみたいだし」


緑色のビームを夜空に向けて放ちながら、翔太は、祖母の心配に答える。


「なんてこった……。つまり無限に遠距離攻撃を撃てるってことか……?」


「ねぇねぇねぇ! じゃあ、黄色! 黄色はー?」


「そっか、まだスキルあったよな。えーっと黄色のもの……、黄色……」


「あっちの熊のシーソーが黄色じゃない?」


「そうそう! やってみて!」



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