第4話ジャンヌの裁判
1430年5月23日にジャンヌが率いる軍がマルニーに陣取っていたブルゴーニュ公国軍を攻撃し、この短時間の戦いでジャンヌはブルゴーニュ公国軍の部将リニー伯ジャン2世の捕虜となってしまう。
当時は敵の手に落ちた捕虜の身内が身代金を支払って、身柄の引き渡しを要求するのが普通だった。多くの歴史家が、シャルル7世がジャンヌの身柄引き渡しに介入せず見殺しにしたことを非難している。イギリスとの和平の邪魔になることを恐れたシャルル7世自身がジャンヌの復権を嫌ったという見方が有力で、母国フランスから見捨てられたも同然だったジャンヌは、幾度か脱走を試みている。ブルゴーニュ公領のアラスに移送されたときには、監禁されていたヴェルマンドワの塔から21メートル下の堀へと飛び降りたこともあった。
水面下ではイングランドとブルゴーニュ公フィリップ3世および配下のリニー伯が交渉を行い、イングランドのシンパだったフランス人司教ピエール・コーションがイングランドの要人ベッドフォード公とウィンチェスター司教ヘンリー・ボーフォート枢機卿と相談、最終的にイングランドがリニー伯に身代金を支払ってジャンヌの身柄を引とった。
ジャンヌへの異端審問は政治的思惑を背景としていた。一連の訴訟手続きは異例尽くめなものである。
ジャンヌの裁判における大きな問題点として、審理を主導した司教コーションが当時の教会法に従えばジャンヌの裁判への司法権を有していなかったことがあげられる。審理は、この裁判を開いたイングランドの意向に完全に沿ったものだった。ジャンヌに対する証言の吟味を委任された教会公証人のニコラ・バイイも、ジャンヌを有罪とするに足る証言、証拠を見つけることができなかった。物的証拠も法廷を維持する法的根拠もないままに、ジャンヌの異端審問裁判は開始されたといえるだろう。
教会法で認められていた弁護士をつける権利さえもジャンヌには与えられなかった。公開裁判となった初回の審議でジャンヌは、出席者が自身に敵対する立場の者ばかりであり、「親フランスの聖職者」も法廷に出席すべきだと主張。
数名の法廷関係者がのちに、裁判記録の重要な箇所がジャンヌに不利になるよう改ざんされていると証言している。
裁判で明らかになったとされているジャンヌに対する12の罪状は、改ざんされた裁判記録と明らかに矛盾している。ジャンヌは文盲だったため、自身が署名した供述宣誓書が死刑宣告にも等しい危険な書類だったことを理解していなかった。異端審問法廷は裁判の公式記録に基づいた宣誓供述書ではなく、ジャンヌが異端を認めたという内容に改ざんした宣誓供述書にすりかえて、ジャンヌに署名させていた。
当時異端の罪で死刑となるのは、異端を悔い改め改悛したあとに再び異端の罪を犯したときだけだった。ジャンヌは改悛の誓願を立てたときに、それまでの男装をやめることにも同意していた。女装に戻ったジャンヌだったが、数日後に「大きなイギリス人男性が独房に押し入り、力ずくで乱暴しようとした」と法廷関係者に訴えた。このような性的暴行から身を守るためと、ジャン・マシューの供述によればドレスが盗まれてほかに着る服がなかったために、ジャンヌは再び男物の衣服を着るようになった。
1431年に行われた異端審問の再審理で、ジャンヌが女装をするという誓いを破って男装に戻ったことが異端にあたると宣告され、異端の罪を再び犯した(戻り異端)として死刑判決を受けたのである。
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「ふむ。ジャンヌの異端審問はこのような経緯をたどったのじゃな」
「ひどいものです」
「ジャンヌが文盲であったことが不幸じゃった。あと、信じる神を間違えておったことやイングランドとの和平について空気を読まなかったことも」
「信じる神を間違えた?」
「ジャンヌに加護を与えたのは、わたくし。キリスト教の神ではない。従って、ジャンヌが異端であることは間違いないというわけじゃ。当時、イングランドもキリスト教を、しかもジャンヌと同じカトリックを信仰しておった。カトリックの神が“フランスを救いなさい”などと言う訳がなかろう」
「おお、なんということだ」
「まあ、それでなくても読めない制約書にサインをするなということでもある。これらは、教育の問題でもあるな。次は、教育担当大臣でも選定するか」
「ジャンヌの起用は決定事項なのです?」
「ジャンヌが暴走しないよう、優秀な副官でもつけておけば良かろう。その選定はお主に任せる」
「重要な任務ですな」
ここから先は、少し筆を休める。はたして、ジャンヌ・ダルクの名誉復権ようにフランスの復権は成るのだろうか?
おフランス神のやり直し!〜仏偉人達のしくじり先生録 ライデン @Raidenasasin
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